第4話 お金がありますん!

~冒険者ギルド内 酒場~


「なぁ」

「何よ?」

「これもう積んでんじゃね?」

「そんな事言われても私のせいじゃないし」

「じゃあ誰のせい?俺のせい?」

「知らないわよそんなの」

「……はぁ、神様ってのも割とツメが甘いんですねー」

「ちょっと!エロス様のことを悪く言うのは聞き逃せないわよ!」


さっきまで異世界フィーバー?でテンション爆上がりだったのに、いきなり詰んだ。

冒険者ギルドに登録するには登録料が必要なのだが、お金がない。


「うちの親の時代ですら王様は120Gくれたぞ?平成が終わって今令和な?いきなり伝説級のアイテムくれたり通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃な上にセーラ服の似合うお母さんをお供に付けてくれたりするんだぞ?」

「セーラー服の似合うお母さん?聞き間違いじゃないわよね?お母さんなの?随分マニアックなオプションが付くのね?」


勇者の血を引くサラブレッドを呼び出し、たった120Gのお小遣い程度の支度金を渡し世界を救って来い!と無茶ぶりをする王様の話を聞いた時は何かの冗談だと思っていたものだが、着の身着のまま無一文で異世界に送り出す神様がいた。

勇者と一緒に労働基準監督署に相談だ。


「とりあえず魔物狩りに行けば良いじゃない!」

「魔物倒せてもお金が無いとギルドに登録できないから報酬がいただけないんですよ」

「自給自足よ!そこらへんのなんかよく分からないもの狩って食べて売れば良いじゃない!」

「そもそも今、俺は村人だぞ?村人は危ないから一人でお外に出ては行けませんよね?何で村人がお外出る時にギルドに依頼を出すかご存知ですかー?」

「……危ないから」

「オレ、ムラビト、オソトデレナイ」

「なんでカタコトなのよ!!じゃあどうすんのよ!?」

「おやおや、逆ギレですかー?いきなりこんなとこ連れてこられて文字通り右も左も分からない手ぶらの俺に聞いちゃうんですかー?」


お供が付くと言っていたし、冒険のサポート的な事はおまかせして美味しいところだけやれば良いのかな、くらいに思っていた。

お金がない。つまり生活の心配までしなくてはいけないなんて、やっぱりあのまま普通に天国行って転生した方が良かった……。

俺の所持品はスウェット上下にスニーカー。コンビニ行くのだって昨今では買い物袋持っていくっていうのに、どうすんだこれ?


「じゃあその杖売って金作ろう」

「これはダメよ、天界から持ってきた物だもの」

「天界から?と言うことは、大変価値のある物って事ですよねー?」


初期装備の杖っていったら、ただの棒みたいな『ロッド』と相場は決まっているのだが、メティスの杖は、なんかよくわからん球がくるくる回った輪っかの中で浮いていて、見るからに何か強そうだ。


「これは絶対ダメよ!」

「じゃあその無駄に上等そうなエロい服売って安い服に買い換えろよ」


100歩譲って「旅人の服」にしてこい。


「これもダメ、気に入ってるもの」

「じゃあどうするんだよ!無一文だぞ!今日どこで寝るんだよ!」

「あのー、馬小屋でしたら無料でお泊まりできますよ?」


「見るに見かねて」といった感じでギルドの受付さんが声をかけてくれた。

俺達はギルドの受付に隣接している酒場で「今後どうするの会議」をしている。この時間帯は冒険者も出払っているのか酒場にもほとんど客はいない。騒いでいれば話は丸聞こえだ。


「本当ですか!?」

「村から出てきたばかりの冒険者さんはお金が無い方が多いので、そういった人達の為にお貸ししてるんです」

「これで寝泊りする場所は確保ね!」


ドヤってるがお前はなんもしてないぞ?


「どうやって金を稼ぐか…、バイト探すか。コンビニくらいしかやったことないぞ」


幸い神様の恩恵で読み書きが出来ている。この世界の常識は分からないが言葉さえ通じればなんとかなるだろう。なんとかしないと。


「じゃあお金が貯まるまで私はどうしたら良いの?」


この女……。


「お前もバイトすれば良いじゃん」

「嫌」


こいつ本当に仲間か?


「てゆーかハイプリーストなんだからお前がどっかの冒険者達とクエストこなして金稼げば良いんじゃねーの?」

「え?嫌よそんなの」


当たり前の様に拒否しやがった。悪気がなさそうなのがタチが悪いな。


「理由は?何で嫌なのか理由を聞いてもよろしいか?」

「私だけ働いてあんただけ楽するとかありえないわ」


こいつ…。


「じゃあ俺もバイトするからお前はどっかの冒険者に紛れて報酬稼いで来いよ」

「あのー。一応断っておきますけど、冒険者登録していただけないとクエストに参加できない決まりになっておりますので、登録しないでご一緒させてもらえたとしても報酬の分配で足元見られたりしますよ」


受付さんが申し訳なさそうにしている。なんかすみませんうちの子が。

登録できないとクエストが受けられない、登録ができないからどっかのパーティに入れてもらう、本来クエスト受けられない訳だから足元を見られて安く使われる。世の中とはそういう風に出来ている。


「じゃあやっぱりお前も一緒にバイト探すぞ」

「神の分身たるこの私にアルバイトをしろと?」


眩しい!?後光が出てる!ホーリーライトなの!?

受付さん、笑うの堪えて下向いてプルプルしちゃってるじゃん。


「じゃあどっかで就職して社員になって福利厚生良いところ探せば良いんじゃないですかね」


バイトが駄目なら正社員になれば良いじゃない。マ○ー・ア○トワネットが言っていた。あれ、本当は言ってなかったんだっけ?


「私は魔王を倒しに行きたいの!なんでこの世界で就職して、仕事に疲れた頃に適当な男と結婚して『ああ、やっと生活の心配をしなくて済むわ』って思った矢先に子供が生まれて、育児に振り回されてどんどん女ではなく母親になっていってしまう自分、倦怠感丸出しの旦那には相手にしてもらえず、子供も手がかからなくなった頃に旦那以外の男に女を見出して……」

「なっげーよ!考え方が昭和かよ!?つーかそこまで求めてねーよ!」


こいつ、どんだけこの世界を満喫するつもりなんだよ?


「100歩譲ってな?俺はバイトするけど自分の食い扶持は自分でなんとかしろよ?」

「何でよ!私は神の分身よ?私の為に奉仕すれば良いじゃない!?神様の為に働く事はこの地に生きとし生ける者として至上の喜びじゃないの!?」


こいつちょっと顔が良いからって調子に乗ってんな?調子に乗ってるだろ?ちょっとじゃないか、大分顔は良いな。うん、調子に乗って良いくらい美人さんだな。だがしかし、魅了耐性なんてついているらしい俺は美女だからって甘やかしたりしない。

それでなくても俺は美人には厳しい。何故なら美人は俺を好きにならない。よって美人とはただの人だ。まだ犬や猫の方が甘やかしてやりたくなる。


「なんだかんだ言って私生まれてからまだ2時間チョロチョロしか経ってないのよ?まだ赤ちゃんなの!15歳になって最初の3月31日が過ぎるまで働いてはいけないのよ!?」

「それ日本の労働基準法な!?ここ異世界な?まだ赤ちゃんだって言うなら『バブー』って言ってみやがれ!!」

「バブー」

「……神様のプライドはどこいった?」

「ちょっと可愛いって思ったくせに」

「お、思ってねーわ!」

「あら?そういうプレイをご所望?」

「ち、違うし、むむむむしろちょっと引いたし、いやホント違うし!!」


つかなんでこいつ日本の労基知ってんだよ?


「……もうしょうがないわね、一本しかないし絶対売りたくなかったんだけど」


渋々と行った感じでバックパックから赤い液体が入った小洒落た瓶を一つだした。コツンっと小気味の良い音が。


「何これ?」

「エリクサー」

「……エリクサーって何でも治るあのエリクサー?」

「そうよ」


さすが令和、初期の初期からとんでもないブツを持たせてやがる。


「お前こんな物持ってるなら言えよ!」

「だから売るつもりなんてなかったって言ってるじゃない!」

「つかこれ売ったらもったいないだろ!いいからバイトして日銭稼ぐぞ!」

「なんで怒るの?こっちは断腸の思いで虎の子を出してるのに!バイトなんて絶対に嫌!」

「お前どんだけ働きたくねーんだよ!!」

「働いたら負けかなと思ってる」


ドヤ顔で言い放つメティス。


「エリクサーなんて相当希少価値のある物なんじゃねーのかよ!?ねえ、受付さん?」

「そうですね、高額で取引させていただいてます。」

「待てよ、って事はお前の持ってる杖売ればとんでもない金が手に入るんじゃないのか?」

「ダメよ!この子は絶対ダメ!ズッキーの生涯賃金よりも高いのよ!?」


だからなんで日本の生涯賃金知ってんだよ。


「っち、しょうがねーな。今日はこれくらいで勘弁してやるか」


まるでダメ亭主の様なセリフを吐いるところをみると、俺もなんだかんだ異世界にきたテンションでノリノリだ。


「受付さーん!買取おなしゃっす!!」

「はーい、査定いたしますので少々お待ち下さい」

「ああ、私のエリちゃんが・・・」


エリクサーに名前付けてたの?

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