我々の惑星を狙うある侵略者について
ねぎまる
我々の惑星を狙うある侵略者について
一人の初老の男性が「作戦本部」と記された部屋の扉を開けると、その中にいた数人の男たちが揃って彼の顔を見る。それはまるで睨みつけるかのような眼差しで、その仰々しさに彼は少し驚いてしまう。
「おっと……。これは皆さん、既にお揃いでしたか。まだ時間には早い気がしますが……」
「何を悠長なことを言っているんですか、博士。今我々に残されている時間は少ないのです。一刻も早く、あなた方の知識を共有し、"ヤツら"の対策を練らねばならないのです!」
男性――博士は小さく呟きながら自分の席につくが、その隣にいた若めの男にそう言われてしまう。決して遅れて来たわけではないのだが、博士はその発言を受け、まるで自分が悪いかのように感じてしまう。
「まあまあ、支援局長の言い分も分かりますが、博士だってさぼっていたわけではないのですから。それより予定より早く全員集まれたのですし、もう会議を始めてしまいましょう」
その博士の様を見て何かを思ったのか、博士の対面に座っている男がそうフォローする。
彼の座る場所には一つのプレートが立てかけられており、そこには「通信局長」という文字が記されていた。そういったプレートはそれぞれの人物の前に立てられており、博士の前には「研究局長」、若めの男の前には「支援局長」と記されていた。
通信局長の一声を合図にするかのように、その場にいる全員が席に座り直し、場の空気と気分を一新する。そして「本部局長」と記されたプレートを前にするやや老いた者が口を開く。
「では、本日の対策会議を始める。議題は他でもない、近日中に起こるであろう"
「はい。今朝の観測結果ですが、既にエイリアン共は本惑星系外縁に集まりつつあります。早くて二日後には第一陣がここへ降り立つでしょう」
観測局長のその言葉を聞き、「やはりか」という意味合いを込めた表情で数人の男が俯く。しかしそれかき消すように、他の人より大柄の男が話を切り出した。
「いいや! そう現状は悪くないはずだ! そのために今回は博士殿を呼んだのであろう!?」
「……はぁ。"宇宙軍"元帥殿、あまり興奮なさらないように。それで、博士殿……いや、研究局長からの報告に移りたいのですが、よろしいですかな」
「ああ、はい。分かりました」
本部局長に言われ、博士は手元の資料を持ちながら席を立つ。そのまま部屋の前にある大型のディスプレイの前に立ち、いくつかの図を表示させる。
「先月の戦いで、宇宙軍によりいくつかのエイリアンの個体サンプルを得られました。どれも既に死亡した個体ではありましたが、エイリアンの身体的特徴が多く判明しましたので、これを報告します」
「その前に、一つ聞きたいことがあるのだが」
博士が話し出すタイミングで、「空軍元帥」のプレートを持つやや痩せ気味の男がそれを遮った。無視するわけにもいかず、本部局長はその発言を許した。
「宇宙軍元帥殿にお聞きしたいのだが、なぜ生きたサンプルを持ち帰らなかったのか。宇宙空間とは言え、ヤツらの船を破壊以外で無力化することはできなかったのか?」
「なにぃ?」
宇宙軍元帥と空軍元帥はにらみ合う。今にも殴り合いが始まりそうであり、それを前にした博士は冷や汗をかく。しかし他の男たちはそうでもなさそうで、むしろ日常茶飯事と言った表情だった。
「空を飛ぶだけの空軍には分からんだろうがな、ただの巡航艦だろうと宇宙で鹵獲するのには大きなリスクがあるのだ。ただ戦うよりも犠牲を出す可能性さえある。そんなことも知らないのか、空軍元帥殿?」
「ほう? では我らが要の宇宙軍様は、エイリアン相手に弱腰であったと言うことか。無理もない、そもそもが劣勢なのだからな。そのリスクさえ覚悟できないほど惨敗だったと言うのだな?」
「もう少し状況を考えて物を考えるべきだぞ、空軍元帥殿。そもそも、我々は鹵獲に失敗などしていない。船を捕獲した時点で生きた個体は存在した。しかしこの星に連れてくる頃には活動を停止していた。それは博士殿にも伝わっているはずだが?」
「ええっ!? あ、はい……。ですので、その原因の調査結果も本日報告しようかと……」
突然に話題が振られ大いに驚きながら返答する博士。それを聞いてふんぞり返る宇宙軍元帥と、その彼を睨みつけながら席に座り直す空軍元帥が博士の視界に入った。
「……では続けます。ちょうど話にもあがったので、その特徴的なエイリアンの生態について先に報告しようかと。結論から述べますと、このエイリアンは我々の星で活動することができません。この星の空気に晒された瞬間、エイリアンは死ぬのです」
「空気に? では、気温でも、重力でもなく、空気にでありますか?」
そう質問を投げたのは「環境局長」のプレートを持つ男だった。
「はい。我々が吸っているこの空気自体が、エイリアンにとって毒なのです。宇宙軍が連れてきたサンプルも、おそらく星に降り立つまでは活動していたのでしょう」
「空気が毒、ですか……。しかし我々はこの空気で生きている。一体エイリアンはどんな環境下で生きているのですか?」
「はい。その件ですが、活動停止したサンプルからは確証を得られませんでした。しかしヤツらが乗って来た宇宙船を調査したところ、ヤツらが補給している成分が判明しました。そしてそれが、我々の言葉で言う"ガス8"とほぼ同じ成分であるとも判明しました」
「だ、ガス8!? そんなものをヤツらは好んで摂取するのですか!? 猛毒ですぞ!」
「私たち研究員も驚きましたが事実でしょう。エイリアンにとって私たちの空気が毒なように、ヤツらの好むものが私たちの毒なのです。加えて、恐らく気温も関係しているのかと思われます。エイリアンの住む星はもっと低温なのでしょう」
博士がそう言い切る前に会議室はざわついていた。隣り合う人と小声で会話し、各人は眉間に皺をよせていた。そんな中また博士に質問を投げたのは「陸軍元帥」のプレートを持つ背の高い男だった。
「……では、エイリアンは私たちが何もしなくても帰っていく? ここに来れば死ぬのですから、降り立つこともしないでしょうし。まさか宇宙から地上に攻撃して制圧など非効率なこともしないでしょうし」
「いえ、それは無いでしょう。確実にエイリアンはこの地に降り立ち、我々を攻撃してきます。その辺りについては、研究局より工部局の人から聞いた方が良いかと……」
すると「工部局長」のプレートを持つ男が立ち上がり、話を始める。
「エイリアンの船を調査したところ、いくつかの防護装置が見つかりました。それらを使うことで、エイリアンはこの星の空気を吸わずに活動できるようです。しかし鹵獲した船にあった装置は故障しており、そのため船内のエイリアンは死んだものかと思われます」
「なるほど。エイリアンはエイリアンで対策済みということか。だが活路は見えた。その装置とやらを破壊すれば、ヤツらを一掃できるということだ」
「それも一つの手段として覚えておいて良いかと。しかし装置本体は船の奥に配置されており、そう簡単に破壊できるものでも無さそうです」
そこまで言うと工部局長はすぐに席に戻り、それ以上の質問を受け付けなかった。仕方なく博士がまた立ち上がり話を進める。
「工部局からは以上……ということで。では生態の話はここまでにして、次にエイリアンの身体的特徴です。死亡したサンプルではありましたが、解剖によって判明したことも少なくありません」
「考えてみれば、宇宙で戦う時はエイリアンも船の中だからな。まだ私もヤツらをじっくりと見たことがない」
「はい。ですので、このエイリアンの身体の図を用意しました。それぞれこれを見てください」
博士が手元の端末を操作すると、各人の前の空中に一つの図が浮かび上がる。それはエイリアンの姿を模した立体模型だった。
「ほほう……これは、なんとも奇妙な形を……」
「ふむ……。私たちが知る生物の中にも似たようなものはいませんな。エイリアンと言うだけある、ということですか」
その場にいる博士を除いた全員がその奇妙な物体に嫌悪感を抱く。それを確認した後、博士は再び話し始める。
「まずは重要である、ヤツらの弱点から説明を始めましょう。弱点は二つ。一つはココです。模型の点滅している部分です」
「この端っこの箇所か。こんなにはみ出た部位が弱点なのか?」
「はい。その部分には、エイリアンの活動を制御する器官が備わっています。我々で言うところの"脳"です。ここを損傷、あるいは破壊できれば、エイリアンの脅威度は大きく下がるでしょう」
「なるほど、脳か。ここを破壊するのに必要な威力はどれほどか?」
「直接でしたら、そこまで大きな威力は必要なさそうです。しかしそれを保護するように、硬い性質を持つ組織で脳は覆われています。これを貫通できる武器がないことはないですが、いささか命中率が問題になるかと」
「命中率? ……そうか、小さいのか。エイリアンの脳の大きさはどれくらいなのだ?」
「個体によって小さな差はありましたが、おおよそ拳一つ分ほどかと」
「拳一つか! それはまた、ずいぶんと小さいな。確かに攻撃を命中させるのは大変そうだな……。もう一つの弱点というのは、それより狙いやすいのか?」
「……残念ながら、そのもう一つの弱点部位は更に小さく、脳の半分ほどの大きさを持っています。加えると、そこを破壊してもすぐには死なず、少しの間だけ活動を続けます」
博士はそう言いながら、模型のその部位を点滅させる。エイリアンの身体の中心辺りにある器官であった。
「あまり弱点とは言い難いな。そう簡単にはくたばってもらえないようだな」
宇宙軍元帥がそう冗談を言うが、それを受け入れる雰囲気でもなかったようで、場の空気は悪くなった。
「で、では、次にエイリアン独特の器官の説明に入ります。先ほど示した脳を持つ部位には、いわゆる感覚器官というものも入っています。その中で我々と大きく異なるのが、"目"と"耳"です。」
「……目と耳が異なる、と」
「まず、目です。光を吸収して情報を得ることは私たちと同じようですが、その形が独特でありました」
立体模型の脳の部分が再び点滅する。そこを拡大して良く見てみると、ある二か所が点滅していることが分かった。
「目は二つか。私たちと同じなのだな」
「立体を把握するのに必要な視界情報は二つですからね。ただ、逆に言えば、ヤツらの脳はそれ以上の情報を処理できないということになります」
「ん? どういうことだ?」
「そのままの意味です。目で拾った光の情報は、私たちと同じように脳に伝達されます。その情報を処理する能力も脳は持っているはずですが、目が二つということは三つ以上の処理するまで発達していないのです」
「つまり、目に関してだけ言えば、エイリアンは私たちと同じ能力を持っている、と?」
「いえ、そうでもありません。解剖で分かったのですが、エイリアンの目は私たちのそれと形が異なります。光を受ける部分……レンズと呼称しますが、そのレンズは限られた範囲の波長しか受け取りません。エイリアンが見ている風景と、私たちが見ている風景は違うのです。むしろ私たちが見ている風景の方が正確です」
「ふむ……。では、それを利用した戦術も可能、ということかな?」
「そうです……と言い切りたいのですが、ヤツらはそれを装置で補います。見えない範囲の波長の光を見えるようにする装置。そういったものがあるのだと想定します。宇宙間航行技術を持つくらいですから」
「ここでも装置か。もう少しエイリアン共は自身本来の能力に自信を持つべきだな」
「……宇宙軍元帥のくだらない冗談はさて置き、目の箇所からしてエイリアンの死角は広いように見えるが、これは弱点になり得ないのか?」
空軍元帥は立体模型を指さしながら博士に質問する。それを睨みつける宇宙軍元帥だったが、その質問内容は自分も気になっていたところであったため静かに答えを待つことにした。
「死角が広い、というのは事実だと思われます。しかしそれを補っていると思われる器官があります。それが私たちで言う"耳"です」
「耳と言うが……私たちと同じ役割を持つのなら、ただのコミュニケーションのための器官ではないのか? それがどう脅威になると……」
「ヤツらの耳は独特です。確認すればお分かりになるよう、形自体は信号アンテナに似ています。広い範囲の電波を受け取るため、入り口が広く、そこから徐々に狭まっていく形。正にその通りであり、ヤツらは空気の振動をとても敏感に感知するのです」
「振動を? すると、我々がよく使っているセンサーのようなものなのか? 動くものがあれば、その位置を表示してくれるあの……」
「あれより恐ろしい器官です。その小さい見た目に反して、振動を感知する範囲はかなり広いものかと思われます。解剖した上での推定ではありますが、この隣の部屋で物を落とした振動には余裕で気づくかと。ましてやその位置を視覚情報ではなく、感覚で判断するのですから、死角から攻撃しようとしても気づかれてしまうでしょう」
「かなり高性能のセンサーと同じ性能、と……。そんなものを耳にしているとは、ますます恐ろしいヤツらだ……。耳、と表現したからには、やはりコミュニケーションもそれで?」
「はい。エイリアンの捕食器官と思われる部位を解剖したところ、空気の振動を引き起こすのを目的とした器官も発見できました。この振動を耳で受け取ることで"会話"を行っているのだと思います。そしてこの発振器官も厄介でして……」
「まだあるのか!?」
「先ほど言っていた、私たちも使う振動センサーですが、従来のものでエイリアンの会話を捉えた場合、センサーが故障してしまうと思われます。それだけ強力な振動でヤツらは会話をするのです」
「なっ!? 馬鹿げている! あのセンサーは軍人の常備品だぞ!? それを使うなと言うのか!?」
「ひっ……」
宇宙軍元帥が怒り、というより焦りのようなものを含んだ言葉を博士に投げつける。
博士であっても、その振動センサーがどれだけ軍人にとって重要なものか分かっている。自分たちの死角はそのセンサーによって補われているのだ。それを捨てるということは自身を暗闇に放り込むことと同義であった。
陸軍元帥と空軍元帥も、言葉さえ発しなかったが、明らかに表情は不可解を示していた。
「研究局長を責めても意味はない。宇宙軍元帥は落ち着きなさい」
「くっ……。すまない……」
「……この対策として、工部局は全力で高性能センサーの量産を試みます。軍全体に支給は難しいでしょうが、前線を張る方々の分は確保できるよう全力を尽くします。以上……」
工部局長がフォローに入るものの、彼自身もなかなか困惑していた。エイリアンの放つ振動の大きさは資料で知らされたものの、それに耐えきるセンサーというのも随分と限られていた。更に言えば、その大きさは解剖結果による予想でしかなく、実際のものはそれ以上である可能性は十分にあるのだ。
「く、
宇宙軍元帥の怒号を受け怯んでしまった博士であったが、それでも自分の職務を思い出し全うしようとする。再び姿勢を正し、端末を持ちながら説明を続ける。
「では次に……具体的なエイリアン対策候補を挙げます。これは研究局から提示するもので、実戦で本当に有用かどうかは分かりませんが、参考程度にお願いします」
「……」
発振器官の存在のせいか、それとも宇宙軍元帥のせいか分からないが、すっかり会議室の空気は冷え切っていた。具体的な対策、と言ってもたかが知れている。そういった考えを彼らは持っていた。
「その具体例が、この身体から飛び出ている部分……私たちで言う"手足"を破壊することです」
すると立体模型がまた点滅し始める。博士の言った通り、身体から四本の細い部位が飛び出ている。その四本が点滅していたが、それを見ても元帥らの表情は変わらなかった。
「手足か……。しかし、それを破壊したところで脅威はさほど変わらないのでは? 聞けばエイリアンは我々と同じように遠距離の攻撃法を有すると言う。仮に該当する部位を完全に破壊してその場から動けなくしても攻撃自体は可能だ」
「そうだ。そもそも、この手足だって的が小さい。これを破壊するのは難しい。これなら脳を狙った方がいい」
「いえ。確かに各手足は細く見えますが、この四つを合計するとそこそこの面積になります。それなりの防衛装置で身体を護るでしょうが、そうだとしても命中すれば損傷することは可能であるかと」
「ふむ……合計するときたか。だが移動不能にするには、この四つすべてに命中させねばならない。あまり現実的ではないと思うが?」
「四つすべてではありません。移動不能であれば、この下部にある二か所の"どちらか"を損傷させれば可能です」
立体模型のエイリアン下部に位置する二本の部位が点滅する。確かに形としては、その身体を二本だけで支えているように見えた。
「なに? この二つだけ? しかも片方でいいと? 本気で言っているのか?」
「嘘は言いませんよ。ヤツらエイリアンは、下部の二本でのみ身体を支えています。加えて、片方が動かなくなれば移動は難しくなります。上部左右にあるもので歩行、移動することはできません」
「な、なんと……。では、この上部にある二本の部位は何なのだ? 手足ではないのか?」
「いえ。私たちの言葉で言うなら手足で間違いないのですが、身体を支えるほどの能力を持たないのです。筋力が衰えており、十分に歩くのは無理でしょう。恐らく物を持ったり、運んだりすることに特化しているのでしょう」
「……なんというか、よくその体で生きてこられたな……。そんなにか弱いとは思っていなかった」
「筋肉質の解剖結果としては、ヤツらの母星の重力は私たちの星のそれより弱い力なのでしょう。もしこの想定が正しければ、エイリアンは私たちの星の上では弱体化すると考えられます。重力が強いのですから、普段通りの動きはできないはずです」
「なるほど……なるほど! よぉし! 希望が見えてきたぞ!」
そう宇宙軍元帥が興奮する様を、空軍元帥は「単純なヤツめ」と小声で軽蔑するが、そういう彼の中にも希望が見え始めていた。
「しかし、その希望と言うのもこの手足が破壊できれば、の話ではないのですか。それとも、少し傷付けるだけでも効果が出ると?」
「はい。これはほぼ確証を得られているのですが、エイリアンは生身の部位を傷つけられた場合、それだけで徐々に衰弱します。そしていずれは死亡します」
「傷付けられただけで? 自然治癒が間に合わないということか?」
「もちろんそうなのですが、このエイリアンは身体中に体液をめいっぱい巡らせています。どこかの部位が損傷するだけで、その体液は外部に流出するでしょう。それが減って行けば、私たちと同じように死亡します」
「それはそうだろうが……。そう簡単に体液が流出するとも思えないのだが……」
「私も驚きましたが、案外少し傷付けただけで体液の流出を確認しました。そして測ってみると、驚くべきことに、このエイリアンの身体は半分以上"水分"で構成されています」
「半分以上……!? 水分だぞ? では、ヤツらの母星にはその、水分が豊富にあるということになるが……?」
「そうだと思われます。実際、観測局の報告では、ヤツらの母星は"青かった"とあります。その青い部分のすべてが、水分であるのでは、と」
この言葉に一番衝撃を受けたのは環境局長だった。自分らが欲している希少物、水が有り余るほどあると言うのだから、何も思わないはずがない。
同時に腑に落ちることもあった。エイリアンが好む成分、ガス8が大量にある惑星であるのなら、確かに水も多く発生するだろう。
「もし、もしも……ですよ。私たちがこの星の防衛に成功したら、それを追ってエイリアンの母星を攻めることも可能なのでは?」
「ええ……! 課題はまだあるものの、不可能ではないでしょう。そこで水を大量に持ち帰ることができれば、我々の科学力も大きく向上します。エイリアンの母星の制圧はその後でもいい!」
「そうとなれば勝たずにはいられない! 敵は傷付ければそのうち死ぬような弱いエイリアンだ。勝てる! 勝てるぞ!」
宇宙軍元帥の盛り上がりは他の者たちを鼓舞する効果もあり、その場にいる者たち全員を奮い立たせた。ずっと落ち着きを見せていた本部局長でさえ全身に力が思わず入っていた。しかしすぐに我に返り、自分のやるべきことを思い出す。
「……んん。研究局長。報告は以上でよろしいですかな? それでしたら、本日は解散して、明日また会議を開くことにしましょう」
「あ、はい。私からは以上になります」
「あ、では、私から一つ質問があるのですが」
すると博士に向けて質問を投げる男が一人。それは博士の席の隣にいた通信局長だった。今回彼は記録係に徹しており、あまり話す時間がなかった。
「はい、なんでしょう」
「雰囲気を壊すようで申し訳ないのですが、エイリアンとの交流はできないものでしょうか。宇宙で遭遇してから戦いしかしていませんでしたが、やはり通信局としてはエイリアン側から送られてくる通信に興味がありまして……。もし戦い自体を避けられるなら、それに越したことは無いのだと思うのですが」
「ああ、それでしたら、少し考えたら分かりますよ。通信局長」
そう言いながら、博士は自分の席に戻りつつ通信局長の"耳"を指し示す。
「私たちの交流手段はコレ、電波です。これを送受信することで会話が成り立ちます。対してエイリアンは、空気の振動で会話するのです。私たちは意味を有する電波を飛ばしますが、ヤツらは意味を有すると思われる振動を飛ばす。これでどう会話が成立しましょうか」
「ああ、なるほど……。お互いがそれを会話手段だと認識ができない……ということですか」
「そういうことだ」
通信局長は納得すると、それまで自分が会議内容を"記して"いた帳面を見下ろし、今の会話内容も加える。その鉱物でできた帳面には一見何も書かれていないように見えるが、彼らの”目”であれば"読む"ことができる。そうやってしっかりと記し込んでいると、支援局長が突然笑いながらこんなことを言った。
「それこそ、私たちが"友好関係を持ちましょう"というメッセージをエイリアン共に送ったとしても、ヤツらはその言葉の意味を理解しないだろうな。はっはっは」
その彼にとっての冗談は、その場にいる全員の冗談となり、少しの笑いを誘った。
そう、きっと彼の発言の内容に間違いはないだろう。
受け取る側が逆だとしても。
我々の惑星を狙うある侵略者について ねぎまる @KTNR
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