第575話 出口を求めて彷徨う
地下から脱出するため、T字路を左に進んだソラとアイシャは、細長い通路をひたすら道なりに進んでいた。
道はやたらと曲がり角が多かったが、幸いにも道は真っ直ぐ一本道だったので、二人は迷いなく前へ進み続ける。
……だが、
「もう、この道、何処まで続いているのよ」
分かれ道を進んでから結構進んだと思うのだが、一向に上の階に登る階段が見えてこないことに、アイシャは苛立ち露わにするように爪を噛む。
「この道、一体何処まで続いているのよ。本当に出口まで続いているのかしら」
「そう……ですね」
アイシャの疑問に、何かがおかしいと薄々感じていたソラは、一度立ち止まって考えてみることにする。
「……ソラ?」
相方の少女が止まったことに、何かトラブルが発生したと思ったアイシャは、駆け寄ってソラへと手を差し伸べる。
「大丈夫? もしかして、疲れちゃった?」
「いえ……それは大丈夫です」
ソラは微笑を浮かべて差し出された手をやんわり断りながら、近くの壁に手を当てて思っていることを口にする。
「あの……アイシャさん。いくら何でもおかしいと思いませんか?」
「何が?」
「この道です。私たち、一体どれぐらい進んだと思いますか?」
「そりゃ……わかんないけど、少なくとも外から見たこの屋敷よりは、遥かに長い距離を歩いているはずだよ」
「ですよね……」
そう言ってソラは再び見えてきた右への曲がり角の手前で止まると、後ろを振り返って今来た道を確認する。
そこには燭台で照らされた不気味な通路と、不思議そうにこちらを見ているアイシャがいるだけだ。
「…………やっぱりおかしい」
前後を確認したソラは、壁をなぞりながら気付いたことを報告する。
「アイシャさん……私たちはずっと騙されていたのかもしれません」
「騙されていた?」
「はい、私たちは逃げなきゃという想いが強過ぎて前だけを見続けていた所為で気付かなかったのですが、おそらく私たちはずっと同じところをグルグルと回っていたのだと思われます」
「えっ、そんなはずは……」
ソラの指摘に、アイシャは顔を青くさせながら自分たちが来た道を振り返る。
薄暗くてよく見えないが、目を凝らして見ると自分たちが曲がって来た左へと続く道が見える。
そうして前を向くと、ソラがいる場所から右へと曲がっていく。
「――っ、そんな!?」
そこでアイシャは、ソラが言いたいことに気付く。
何度も右へ左へと折れるので、方向感覚が狂わされてしまって気付かなかったが、ソラの言う通り自分たちは同じ場所をずっとグルグルと回り続けていた可能性は十分高い。
「でも、どうして……それなら、私たちがやって来た道は何処に行ったの?」
「おそらくですが、私たちがこの通路に入った時に閉じたのだと」
「閉じたってそんな馬鹿なこと……」
ないと言おうとアイシャであったが、よく考えてみれば、自分たちを地下に落とすためだけに、部屋一つの床を丸々落とすような連中だ。そのような大掛かりな仕掛けがあったとしても、何ら不思議ではない。
だが、そうなると気掛かりな問題が発生する。
「……なら地上への出口は何処にあるの?」
「それはきっと、私たちがに気付かれないように、巧妙に隠されているのだと思います」
「まあ、そうよね……」
いくら何でも出口そのものがないということはないだろうから、考えられる可能性としては、出口そのものが隠されていると考えるのは妥当だろう。
「そうなると……私たちより先に逃げた子たちは、既に出口を見つけたってことかしら?」
「かもしれませんね」
「そうかなぁ……」
可能性を示唆するソラに、アイシャは首を捻って懐疑的な表情を浮かべる。
「私が知る限り、店の子たちでソラみたいに賢い子なんて殆どいなかったよ」
「そ、そんなことないと思いますけど……」
「いやいや、あるでしょう。そもそもそんな頭があれば、あんな店で働く必要もないでしょうからね」
アイシャの仲間たちの散々な評価に、ソラは「ハハハ……」と乾いた笑い声を上げながらも、名前も知らない彼女たちをフォローするように話す。
「ですが、得意なことは人それぞれですから、私たちに気付かなかった隠された道を、いち早く見つけることができることだってありますよ」
「……フフッ、ソラは優しいね」
ソラの気遣いに気付いたアイシャは微笑を浮かべると、手を伸ばして自分より一回り小さな少女を胸に抱いて頭を優しく撫でる。
「そんな気を使わなくていいんだよ……でも、ありがと。ソラにそう言われると、私たちみたいな人間も、捨てたもんじゃないなって思えるよ」
「そんなことありません! アイシャさんは、素晴らしい人です!」
自分を卑下するようなことを口にするアイシャに、ソラは真剣な顔で詰め寄りながら熱い思いを語る。
「私、初めてアイシャさんのダンスを見た時、とっても綺麗だと思いました。私もアイシャさんみたいに踊りたい、他人を感動させるような特技を身に付けたいって……」
「……それは、コーイチ君に見せるため?」
「――っ!?」
その意地悪な質問に、耳まで真っ赤になるソラを見て、アイシャは堪らず「プッ」と小さく拭き出す。
「ゴメンゴメン、ちょっとからかっただけだから」
「もう……アイシャさん!」
「悪かったって、お詫びにここから無事に出たら、ソラにダンスを教えてあげるよ」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
途端に年相応の顔になって目をキラキラと輝かせるソラを見て、アイシャは満足そうに大きく頷く。
「本当よ。だからまずは、気合いを入れて出口を探しましょ」
「わかりました。約束ですからね」
余程ダンスが教えてもらえるのが嬉しいのか、真剣に出口を探し始めるソラを見て、アイシャは小さく嘆息する。
「……本当、何としても生きて帰らなきゃね」
なんとなくその約束が果たされることはないんじゃないか? そんなことを思っていた自分を恥じるように小さくかぶりを振ったアイシャは、ソラに続けと地上へと続く出口を見つけるため、近くの壁に張り付いて怪しい箇所はないかと探り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます