第481話 私のしるし
いざ、うどんの新居捜しに出たミーファたちであったが、特にこれといって当てがあるわけではなかった。
「う~ん、どうしよっか」
そう言ってニーナは、可愛らしく小首を傾げながら一枚の羊皮紙を取り出す。
「ニーナちゃん、それな~に?」
見たことのないアイテムの登場に、ミーファが興味津々と言った様子で駆け寄る。
「……それって、ちず?」
「えっ、ミーファちゃん、地図知ってるの?」
「うん、まえにおにーちゃんがおしえてくれたんだ」
地下での一幕を思い出しながら、ミーファはニーナが広げている地図を横から覗く。
ニーナが持つ地図は、彼女が家畜の世話をする合間に書いた手製の地図で、牧場や林、川や街道が分かりやすく子供っぽい絵で描いてあった。
「ここがニーナちゃんち、こっちはかわで……」
ミーファはニーナが描いた地図を、一つ一つ指差しながら確認していく。
そうして地図を指していったミーファは、端に気になるイラストを見つけて嬉しそうに声を上げる。
「あっ! トニーがいる!」
丸っこくかなりデフォルメを利かせたギガントシープのイラストを見て、ミーファが顔を輝かせながら嬉しそうに尻尾をふりふりと振る。
「ねえねえ、ニーナちゃん。ここにいけばトニーにあえるの?」
「ううん、これはそういう意味じゃないよ」
ニーナは苦笑しながら、これは自分の地図の証であることを示すために、トニーのイラストを描いたことを伝える。
「だからこのトニーが描かれた地図は、私のだってことなんだよ」
「ほえ~」
ニーナから説明を聞いたミーファは、目をキラキラさせながらトニーのイラストが描かれた地図を食い入るように見る。
「じゃあじゃあ、このえは、ニーナちゃんがかいたの?」
「うん……変かな?」
「ぜんぜんへんじゃないよ!」
ミーファは自分の首が取れるのでは? と思うほど激しく首を横に振りながら話す。
「このトニーすっごく……すっごくじょうずだもん」
「本当?」
「うん、ミーファこんなにじょうずにえをかけないもん……いいな……いいな…………」
余程ニーナのイラストが気に入ったのか、ミーファは穴が開くほど地図に描かれたトニーを見つめる。
そんな様子のミーファを見て、ニーナは「じゃあさ」とある提案をする。
「もしよかったら、ミーファちゃんのために何か描いてあげるよ?」
「……いいの?」
「うん、トニーだと私と同じになっちゃうから、違う絵でもいいかな?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、うどんの家を探し終わったら、絵を描くから、何に何の絵を描くかを決めておいてね」
「うん、わかった!」
ミーファはコックリと大きく頷くと、もう一度ニーナの地図に視線を落として再び「えへへ~」と相好を崩した。
「さて、それでうどんのお家捜しだけど……」
ミーファから自作の地図を返してもらったニーナは、これから何処に向かうかを思案する。
「うどんが住むのなら、やっぱり住みやすい環境がいいと思うのよね」
地図の上を指でなぞりながら、ニーナはロキの背中の毛皮に半ば埋もれているうどんを見やる。
「う~ん、黒いロキの毛皮の中だと一段と目立つな……」
ここまで見事に白い毛並みだと、緑豊かなこの季節、身を隠すのはどうしても地面の下に限られてしまうような気がした。
かといって、穴の中にずっと隠れていると、餌の確保は疎か、飲み水にも困ってしまう。
幸いにも、うどんは草食動物であるから、餌に関してはそれほど難しく考えなくていいかもしれない。
何故ならこの付近は、草だけならそれこそ無尽蔵にあるのだ。
ただ、それがうどんの好みに合うかどうかは別問題となるが、それについてはニーナのあずかり知らないところである。
「となると、あまり移動しなくてよくて、涼しくて飲み食いに困らないところ……」
ニーナは地図を見ながら該当する場所を検討する。
「そういえば……」
そこであることに気付いたニーナは、ミーファに質問する。
「ねえ、ミーファちゃん。うどんって前は川の近くにいたって話だよね?」
「うん、かわがちかくにある、すずしいばしょだって」
「じゃあさ、先ずはここに行ってみない?」
そう言ってニーナは、地図に描かれた沢山の丸を指差す。
「ここは野生動物たちの水飲み場になっている場所なんだけど、水場の近くで涼しいし、他の草食動物も多いから、ひょっとしたらうどんに合うかもしれないよ?」
「そうなんだ。じゃあ、うどんにきいてみるね」
ミーファはロキの背中で丸くなっているうどんの背中をちょいちょいと叩くと、最初の目的地について相談する。
「プッ……」
「いいって」
話が通じたのか、ミーファがうどんの頭を撫でながら話す。
「うどん、ほかのどうぶつさんをみたことないから、みてみたいって」
「わかった。今の時間ならきっと色んな動物が見られると思うよ」
ニーナは地図をクルクルと巻いて鞄の中に大切にしまうと、ミーファに倣ってそっと手を伸ばしてうどんの頭を撫でる。
「フフッ、ここは私もお気に入りの場所だからさ。うどんも気に行ってくれるといいな」
「プゥプゥ」
話が通じたかどうかはわからないが、うどんはニーナの方を見ると、こっくりと大きく頷いてみせた。
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