第468話 倉庫の中には?
外から倉庫内に侵入するかのように開いた穴を、ロキがスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「……どう? 何かわかった?」
「わふっ、わんわん」
俺の問いかけに、ロキは「獣臭い」と答える。
いや、ロキも獣じゃね? というツッコミはおいておいて、どうやらこれで確定したようだ。
「リックさん……どうやらこの穴を開けたのは、外から来た動物で間違いないようです」
「そ、そうですか……それで、どうしましょう。このまま入っても大丈夫なのでしょうか?」
「そうですね。少し待って下さい……」
不安そうにオロオロとするリックさんに、俺はこの場で待つように指示を出すと、倉庫の壁に手を当てて目を閉じ、アラウンドサーチを発動させる。
こうすることで敵の索敵だけでなく、倉庫内の見取り図がワイヤーフレームのように表示されるので、中に何者かが潜んでいても、何処に隠れているかまで詳しくわかるのだ。
そうして倉庫内に置かれた肉や野菜が入っている木箱を確認しながら、俺は中の何処に赤い光点が現れるのかを探る。
だが、
「………………あれ?」
倉庫内の隅々まで探索したが、中に赤い光点は浮かび上がってくることはなかった。
念のためにと、アラウンドサーチを一旦解除して再び索敵を試みてみたが、結果はやはり変わらなかった。
俺は目を開けて壁から手を離すと、ハラハラした様子でこちらを見ているリックさんを安心させるように、笑顔を浮かべて頷いてみせる。
「大丈夫です。どうやら中には何もいないようです」
「そう……なのですか?」
「はい、ただ念のために俺とロキが先導しますから、リックさんは俺たちの後に続いて下さい」
「わ、わかりました」
リックさんが緊張した面持ちで頷くのを確認した俺は、ロキを伴って倉庫の入口へと向かう。
引き戸となっている入口をそっと開けると、中から出てきたひんやりとした空気が俺の肌を撫でる。
「わふぅ……」
するとロキも「寒いね」と口にしながら体を温めるようにぶるる、と震わせる。
だが、この寒さがあればこそ、冷蔵庫という文明の利器がなくても食材を痛めることなく保存できるのだ。
「……よっと」
中に誰もいないことがわかっているので、俺は遠慮なく扉を開け放つ。
そうして露わになった倉庫内は、予想に反して綺麗なものだった。
リックさんの性格が如実に出ているのか、整然と積まれた木箱に、天井から均等の幅で吊るされた干し芋、棚にある日付のメモが貼られた壺など、それぞれがパッ、と見ただけで何処に何があるかわかりやすく置かれている。
てっきり侵入した何者かによって荒らされ、色んなものがあちこちに散乱していると思っていただけに、この結果は予想外だった。
「綺麗……ですね」
俺の後に続いて倉庫内に入って来たリックさんも、不思議そうに首を傾げる。
「ほ、本当に何かが侵入したのでしょうか?」
「わかりません……でも、何か盗られたかもしれませんので、中の状況を確認してもらえますか?」
「わかりました……」
硬い表情で頷いたリックさんは、そそくさと倉庫内の在庫状況を確認するために入って行く。
「さて……」
何が無くなったかは倉庫の管理をしているリックさんに任せて、俺は外で確認した穴のあった場所へと向かう。
「確か、ここら辺だったかな」
一つ一つ丁寧に木箱を退けながら、俺は外から見た穴の反対側の地面を見る。
そこには、外と同じぐらいのサイズの穴が開いていた。
やはり穴を開けた何者かは、この倉庫内に侵入したようだ。
「ロキ、中に入った者が倉庫内をどう移動したかわかるか?」
「わん!」
俺が横に一歩ズレると、すぐさまロキがやって来て穴に顔を近づけてスンスンと匂いを嗅いだ後、地面に鼻を近づけたまま移動を開始する。
この時点で、何かがこの倉庫内に入ったのは間違いないようだ。
移動を開始したロキは、鼻を鳴らしながらあっちへ行ってスンスン、こっちへ行ってスンスンと匂いの痕跡を追うように右往左往する。
侵入した何かは倉庫内の事情に詳しくないのか、うろうろと倉庫内を彷徨ったようだ。
「…………」
よくよく考えれば、天井から吊るされた干し芋なんかは、見えているのだから真っ先に飛び付きそうなもののだが、侵入した何かは身長が低いのか、それとも高いところにあるものは最初から興味ないのか、干し芋の方へと近付こうとしない。
ということは、侵入した何かは芋類は食べない生き物……もしくは肉食なのだろうか。
でも、肉食動物で穴を掘る生き物って何だろう?
昨日、水飲み場で見た野生動物たちの姿を思い出しながら、あれこれと考察していると、
「……わん!」
何か発見したのか、ロキが一際大きな声で鳴いて俺を呼ぶ。
「どうした?」
その声に反応して俺はロキの方へと顔を向ける。
「わんわん!」
倉庫の隅、色々な農具が置かれた場所の近くでお座りの姿勢をしているロキは「あそこを見て」と部屋の隅へと顎で示す。
「わかった」
ロキの要望に俺は頷いて近付くと、鍬や鋤といった農具を一つ一つ丁寧にどけながらその奥へと目を向ける。
「あっ……」
そうして露わになった部屋の隅にあったものを見つけて、俺は思わず声を上げながら屈んでそれを手に取る。
それは、動物のものと思われる白い毛だった。
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