第467話 穴……そしてまた穴
思わぬところで見つかった謎のトンネル……その正体を見極めるために、俺たちは探索チームを結成して穴の解明に乗り出すのであった。
…………………………というのは真っ赤な嘘で、山道が復旧するまでに牧場の再建を目指している俺たちに、そんな穴に構っていられる暇はなかった。
穴のサイズから小型の野生動物が掘った穴であることは推察されるが、その動物が何かとなると思いのほか種類が多く、候補を上げたらキリがないということだった。
一応、ロキを呼んで穴の中の匂いを嗅いでもらったが、これといった痕跡を見つけることはできなかった。
故に、これ以上の探索は無意味だと判断し、トンネルの街道にはみ出している部分だけを土で塞いで、この話はこれで終わりとなった。
その後は、せっかく合流したのだからとロキにも手伝ってもらい、牧場の穴を塞ぐ作業に汗水たらしながら没頭していたので、日が暮れる頃にはトンネルを見つけたことなどすっかり忘れていた。
荷車と麻袋を納屋の所定の位置に戻した俺は、凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをする。
「んん~~、今日もいっぱい働いたな……」
「わふっ!」
するとロキが「お疲れ様」と労いの言葉をかけながら、俺の背中にスリスリと身を寄せてくる。
どうやら私も頑張ったんだから、褒めてということらしい。
「もちろんだともロキ、お疲れ様。今日も助かったよ」
俺はロキの期待に応えるべく、両手でわしゃわしゃと彼女が気持ちいいと思うところを存分に撫でて行く。
「ここか? ここがいいんだろ?」
「キュン、ク~ン……」
俺の撫でテクニックを前に、ロキも堪らずメスの喘ぎ声のような鳴き声を上げながら、蕩けたように俺の体にしなだれかかってくる。
「わわっ!? ロキ、ストップ! ストオオォォップ!」
「……わふっ」
数百キロはあるロキの体重に押し潰されそうになった俺が悲鳴にも似た叫び声を上げたところで、ロキも正気を取り戻し「てへぺろ」と謝罪の意味も込めて俺の顔を舐めてくる。
フフッ……危うく自分のテクで自分自身を殺すところだった。
なんて阿呆なことを考えながら、俺は腰を下ろして胡坐をかくと、ポンポンと自分の膝を叩く。
「わん!」
それだけでどうすれば撫でてもらえるかを察したロキが、ゴロンと仰向けになって俺の膝上へと頭を乗せてくる。
「ハハッ、今日は随分と変な格好でお願いするんだな」
「わふっわふっ」
ロキの「今日はこっち」という甘えた鳴き声に、俺は苦笑しながら手を伸ばして顎の下を優しく撫でてやる。
「むふ~」
両手で少し強めに顎の下を掻くように撫でてやると、ロキはミーファがご満悦の時の声に似た鳴き声を上げる。
やっぱり巨大狼と
そういえば、この世界における人間と獣人、そして獣人と同じ名前を持つ獣との関係性について聞いたことはなかったな。
…………ダメもとで聞いてみるか。
俺は手を休めることなく、気持ちよさそうに目を閉じているロキに質問してみる。
「なあ、ロキ、ちょっといいかな?」
「わふっ?」
「ミーファたち狼人族と、ロキのような狼って先祖が同じだったりするのかな?」
「…………わふぅ、わん、わふわふ」
「そうか……いや、いいよ。謝ることなんて何もないよ」
ロキからの解答は「よくわかんない」ということだった。
俺の質問に満足に応えられなかったのが悪いと思ったのか「ごめんね」と謝るロキを、俺は気にしていない旨を伝えるために、手に力を籠めて丹念に撫でて行く。
まあ、よく考えれば、ロキが自分の生い立ちや先祖について誰かから教育を受けることなんてないだろうから、いくらなんでも無茶な質問だったと反省する。
ミーファは勿論、シドもその辺の事情は詳しくなさそうだから、今度ソラに聞いてみることにしよう。
ロキの顎の下を撫でながら、そんなことを思っていると、
「コ、コーイチさん、大変です!」
くつろぐ俺たちの下へ、晩御飯の準備のために先に母屋へと戻っていたリックさんが慌てた様子で駆け込んでくる。
その様子に、ただならぬ気配を感じた俺は、ロキに「もうおしまい」という意味を込めて優しく撫でて起きてもらうと、走ってきたリックさんに話しかける。
「そんなに慌てて、何かあったのですか?」
「ええ、すみませんが大至急、こっちに来てもらっていいですか?」
「あっ、はい……」
俺はロキと「何だろう?」と顔を見合わせて首を捻ると、早くも駆け出してしまったリックさんの後を追いかけた。
母屋へと向かうと思われたリックさんはそのまま中には入らず、壁沿いに進んで裏口へと向かう。
裏口はキッチンへと続く入口となっており、ここからは体を洗える浴室と、食料を保管する倉庫へと行くことができる。
リックさんは倉庫の前まで行くと、大声を上げながらある一点を指差す。
「コーイチさん、ここです! こっちです!」
「どうしました?」
急いで駆けつけた俺は、リックさんが照らすカンテラの灯りを頼りに、彼が指差す一点を見る。
するとそこには……、
「…………穴?」
そう、俺の頭がすっぽり入るくらいの穴が開いていた。
一体この穴がどうしたのだろうと思いながら、俺はリックさんに尋ねる。
「この穴がどうかしたのですか?」
「この穴は、今朝僕が食材を取りに来た時にはなかったものなんです」
「えっ? では、この穴は?」
「はい、今日のどこかのタイミングで開いたのだと思います。だとすれば……」
「今、この中に何かがいるかもしれない、ということですね?」
俺の問いかけに、リックさんは不安そうに頷いた。
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