第449話 犯人はウサギ?
事前にアラウンドサーチを使って安全を確認しているが、俺とロキは何が起きてもすぐに対処できるように慎重になってゆっくりと森の中を進む。
この辺りの森は、普段からニーナちゃんやマーガレットさんが普段から畑仕事のついでに、キノコや果実を取りに来るそうだから危険はそんなにない……と思われる。
だが、ロキから血の臭いがするという話を聞いた所為か、何でもないはずの薄暗い森の景色が、途端に得体の知れない者が潜む魔の森のように思えてくるから不思議だ。
ここは皆の安全を確保するためにも、勇気を振り絞って現場を確認しておく必要がある。
そう決意して森の中を進むこと数分、
「うっ……」
俺でもわかるほど強烈な血の臭いが漂い出し、俺は堪らず鼻を摘まみながら歩く。
臭いは徐々にきつくなり、むせ返るような湿気と共に大量の蝿の羽音が聞こえてきた頃、木々の向こうから見えてきたのは三つの首のない死体だった。
広範囲に渡って血が飛び散っていることから、攻撃の凄まじさを伺えるが、それより気になるのは転がっている首の正体だった。
俺は鼻と口を布でしっかりと覆うと、大量の蝿を手で払いながら一番近くの首をひっくり返してみる。
ボルゾイという犬種の犬に似た顔立ちをして、目は二つではなく左右二つずつの計四つ並んだ特徴的な顔を持つ動物……ではなく魔物を俺は知っていた。
「これは……バンディットウルフか」
バンディットウルフとは、ノルン城を出てグランドの街へと向かう途中で遭遇した狼のような四足歩行の魔物だ。
あの時は、自由騎士を迎えに行くというクエストをたまたま受けていたエイラさんと、テオさんの救援が間に合ったから奇跡的に助かったが、俺自身は実際に戦ったことがないので、こいつ等の実力がどれぐらいのものなのかはわからない。
だが、そんなバンディットウルフの首を刎ねて殺す……しかもそれを同じように三匹も殺すとなると、一体、どれだけの技術が必要なのだろうか。
いや、実際は胴体の方も損傷がかなり激しいから、ひょっとしたら普通に殺した後で、首を斬り落とした可能性もあるが、わざわざそんなことをする意味がわからない。
だが、首が斬り落とされているとなると、どうしてもアイツの仕業なのでは?
と考えてしまう。
「もしかして、これってヴォーパルラビットの仕業なのかな?」
試しにロキに尋ねてみるが、
「わふぅ……」
流石に歴戦の猛者の巨大狼でも、死体の損壊状況から誰が殺したかまではわからないようで、申し訳なさそうに首を振る。
「いや、気にする必要はないよ」
俺は申し訳なさそうに頭を下げるロキを慰めるように撫でると、三匹のバンディットウルフの死体を改めて見る。
「…………とりあえず、このままにしておくわけにもいかないな」
死体をこのままにしておくのは衛生面でもよくないし、この死体に釣られて何か別の悪いものを引き寄せたりしたらことである。
俺は大量の蝿から逃げるように距離を取ると、腰からナイフを取り出して足元の土へと突き立てる。
すると、朝の湿気の影響もあるのか、すんなりとナイフが土の中に埋まるのを見て、俺は安堵の溜息を吐きながらロキへと話しかける。
「ロキ、あの死体を埋めるから手伝ってくれ」
「わん!」
俺の声に、ロキは「わかった」とすぐさま反応して、俺のすぐ横で前脚を使って穴を掘り始める。
俺もロキの前脚を傷つけないようにするため、ナイフをしまって素手で土を必死にかき出していった。
やれやれ、朝からとんだ重労働になったな。
ロキと一緒にバンディットウルフ、三匹分の穴を掘って埋めるという作業を終える頃には、全身汗だく、服は泥だらけ、魔物の血と体液まみれになってしまった。
「ふぅ……こんなもんだろ」
俺は体中に張り付いた蠅を叩き落しながら、同じく泥だらけになって穴を掘ってくれたロキに礼を言う。
「ありがとう。ロキ、お蔭で綺麗になったよ」
「わんわん!」
俺と同じように辟易しているかと思いきや、意外にもロキは「楽しかった」とご満悦な表情でくるくると俺の周りを回る。
どうやら穴を掘るという作業が、思いのほか楽しかったらしい。
まあ、かなり大変な作業だったが、喜んでいただけたのなら何よりだ。
俺は最期にもう一度アラウンドサーチを使い、周囲に何も反応がないことを確認した後、ロキに向かって話しかける。
「流石に皆もう起きた頃だろうし、お腹も空いたから帰ろう」
そう言って俺が歩きはじめると、ロキは「わかった」と一鳴きして俺の横に並び、同じ速度で歩きはじめる。
……本当、ロキのこういうところは惚れ惚れしちゃうな。
このまま真っ直ぐ帰ってもいいが、その前に俺たちの汚れを落としておかないと、リックさんの家を汚すことになってしまう。
今らな野生動物たちがいた水場で体を洗えるかもしれない。
そんなことを思っていると、
「ん?」
視界の隅、一本の木の根元に気になるものが映り、反射的にそちらを見やる。
「…………穴?」
来る時は木の死角になって気付かなかったが、木の根元にある根の一部が盛り上がっているところに、二十センチほどの穴が開いているのに気付いたのだ。
「どうしてこんなところに?」
明らかに不自然な場所に空いた大きな穴に、俺は近付いて中の様子を見てみる。
「深いな……」
一体何処まで続いているのかわからないが、この穴はかなりの長さがありそうだった。
まるでこの穴は、小動物の巣穴のような……、
「――っ!?」
その時、俺の脳裏にある可能性が閃く。
それはウサギの中でもアナウサギと呼ばれる種類のウサギの生態の一つ……地中に複雑な巣穴を作って集団で生活するというものだった。
もし、ヴォーパルラビットがこのアナウサギと同じような生態だとしたら……。
「ごめん、ロキ。急いで戻ろう!」
俺はこの事実を確認するため、急いで牧場へと戻ることにした。
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