第367話 壁役(タンク)との戦い方

「ハハッ、いくら作戦を立てたところで、リッターの防御を崩すことなど不可能だよ!」


 密かに話し合う俺たちに、ユウキの見下したような声が響く。


「さあ、リッター。お前の本物の戦士の力を、あの裏切り者共に見せつけてやれ!」

「…………」


 ユウキの命令に、彫像のように動かなかったリッターが俺たちに向かって突撃してくる。


「さあ、いきましょう。ロキ」

「ワン!」


 泰三のかけ声に、ロキが「任せろ」と答えながら後に続く。


 すっかり頼もしくなった親友の背中を見ながら、俺はリッターの後ろのユウキへと目を向ける。

 てっきりリッターの後に続いて俺たちの背後を突いてくると思われたが、奴は余裕の笑みを浮かべて腰に手を当てて立っている。


 どうやらリッターが負けるとは、万が一にも思っていないようだ。


 いや、俺が奴の立場でも、きっと同じように考えるだろう。

 リッターの能力が雄二と同じなら、あの大盾にはリフレクトシールド、攻撃を加えると大きく弾かれて強制的にスタン状態に陥ってしまう。


 一応、泰三とロキが互いをカバーし合うように動けば、片方がスタン状態に陥っても、一方的に殺されるような展開にはならないだろう。


 ……さて、泰三は一体何を見せてくれるのか。


 俺は万が一どちらかがスタン状態に陥った時にフォローに回れるように、腰を落として足に力を籠め、いつでも動けるように準備しておきながら戦況を見守る。


「いきます!」


 突撃してくるリッターに対し、泰三は低い姿勢から長槍による突きを繰り出す。


「…………」


 向かって来る泰三の槍に対し、リッターは急停止して二枚の大盾を構える。

 このままどちらかの大盾に槍が触れれば、リフレクトシールドの効果が発動するが、


「……フッ!」


 泰三は長槍を、大盾に触れるか触れない彼の直前で寸止めさせる。


「ガウッ!」


 すると、泰三のすぐ背後から大きく跳んだロキが現れ、上空からリッターへと襲いかかる。


「――っ!?」


 泰三の攻撃がフェイントだと気付いたリッターは、慌てて大盾を掲げてロキを迎え撃とうとする。

 だが、ロキは空中で身を捻って天井を蹴ると、大きく跳んで水路の反対側へと着地する。


「リッター、こちらですよ!」


 すると今度は、泰三が再びリッターへと攻撃を仕掛ける。

 その攻撃にリッターが再び大盾を構えるが、またしても泰三は槍を大盾が当たる直前で寸止めにする。


「ハッ! よっ! とう!」


 その後も泰三は次々とリッターへと攻撃を仕掛ける。

 その度にリッターは素早く反応して大盾を前へと突き出すが、泰三は繰り出す攻撃の全てを寸止めにして、決して大盾に触れようとはしない。


「ガルルルル……」


 さらに、泰三の攻撃の隙を埋めるように、調度いいタイミングでロキが現れ、同じように大盾に触れないように牽制していくので、リッターは四方に気を配りながら大盾を構えなければいけなくなっていた。




「そうか……その手があったか」


 俺は泰三が思いついたという作戦に、素直に感心していた。

 リフレクトシールドは、構えた盾に攻撃することで初めて成立するスキルだ。


 ならば、大盾に触れずに立ち振る舞えばいい。


 そう口にするのは簡単だが、実際にやるとなるとかなり難しい。

 自分だけじゃなく相手も動く中で、間合いを保って攻撃を直撃させることなく動き回るのは、相当神経を使う。


 おそらく泰三は、このままロキと連携を組んで、リッターが防御でミスするか、体力の限界が来るのを待つのかもしれない。

 作戦としては随分と消極的だが、慎重を期すタイプの泰三らしいといえば、らしい。

 ……だが、果たして人に命令されるまで、彫像のように一切動かない忍耐力の塊のようなリッターが、そんな消耗戦に屈することなどあるのだろうか?


 そう思っていると、


「何をモタモタしているんです! リッター、そいつ等が襲いかかってくることはありません! とっとと始末してしまいなさい!」


 リッターより先に我慢の限界に来たユウキが、リッターに向かって叫ぶ。


「命令です! リッター、そいつ等が攻めてこないならあなたから仕掛けるのです! そんな奴等、早く始末してしまいなさい!」

「――ウガアアアァッ!?」


 ユウキの檄にリッターは防御姿勢を解くと、雄叫びを上げながら泰三へと攻撃を仕掛ける。


 といっても、武器を所持していないリッターの攻撃は、当然ながら両手に装備した大盾だ。

 大盾での攻撃などに意味があるのか? と思うかもしれないが、鉄製で見るからに重量がある大盾は、それだけで鈍器としても十分な殺傷能力が期待できる。

 しかも、見るからに筋骨隆々のリッターによる攻撃だ。一撃でもまともに受ければそれだけで致命傷を負ってしまうだろう。


「泰三、気を付けろ!」


 だから俺は、本人もわかっていると思うが敢えて声をかけることにする。


「回避だ! 間違っても大盾には絶対に触れるなよ!」

「……全く、うるさいですね」


 俺の叫びに、泰三は嫌気がさしたかのように顔をしかめると、槍を回しながらその場でくるりと回り出すと、


「はあああぁぁっ!」


 気合の雄叫びを上げながら、リッターが繰り出してくる大盾に向かって、十分な遠心力を乗せた槍を振るう。


「泰三!?」


 まさか、リフレクトシールドの効果を持つ大盾に触れるつもりか? と思う間もなく、リッターの大盾と泰三の長槍がぶつかって甲高い金属音を響かせながら火花を散らす。


 このままでは泰三が大きく弾かれ、スタン状態に陥ってしまう。

 そう思われたが、


「あがっ!?」


 逆に泰三の膂力に負けたのか、リッターの持つ大盾が弾かれてその巨体が大きくのけ反る。

 するとそこへ、


「ロキ!」

「ガウッ!」


 泰三の叫びに反応してロキが現れ、無防備な姿を晒すリッターの鉄仮面へと、走った勢いそのままの前脚を振り下ろした。

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