第355話 汚名を雪ぐ
改めて俺たちに名乗ったユウキは、違法風俗店での摘発や地下でのリザードマンによる襲撃、そして冒険者たちによる裏切り、その全てを自分が主導したと話す。
「正直、この結果を受けて私は驚いているんですよ」
ユウキは手の平を上に向けて大袈裟に肩を竦めてみせながら、ニヤリと笑う。
「平和ボケした日本に生まれ、アスリートでも何でもない一般人のあなたが、まさか私が用意した数々の罠を乗り越え、果てにはキングリザードマンを倒すなんて偉業を成すとは思いませんでした」
「あれは俺一人の力じゃない。シドが……皆がいたからできたことだ」
「ハハッ、ご謙遜を……それに、極めつけは私の包囲網を突破してみせた発想力です。まさかあんな方法でアラウンドサーチを無力化させるとはね。お蔭で、部下の前で醜態を晒す羽目になりましたよ」
そう言ってユウキは笑いながら自分の鼻の頭をコンコンと叩く。
奴が言うあんな方法とは、言うまでもなく大量の魔物を活性化させて、索敵できる許容を超えるように仕向けたことだろう。
あの時、俺は激しい頭痛がした瞬間にアラウンドサーチを解除したが、もしかしたらユウキはその後も暫くスキルを使い続け、脳に何かしらのダメージを負って鼻血でも出したのかもしれない。
もしそうならざまあみろと思うが、それでも与えたダメージは微々たるものなので、あまり喜んでもいられない。
「……ふむ、どうやらあなたは私のように、無様な姿は晒さなかったようですね」
俺の態度から何かを読んだのか、ユウキは満足そうに何度も頷く。
「生憎と私は自分の力には疎くてですね。よかったらこの後、ええと、なんでしたっけ……アラウンド……サーチでしたか? その力について、詳しく教えてもらいますよ」
「はぁ?」
「いやはや、あなたのその柔軟な発想と、咄嗟の判断力があれば、あの方の復活に大きく近付くと思うんですよね」
「おいっ、ふざけるな!」
身勝手な話を続けるユウキに、これまで我慢していたい俺の怒りが爆発する。
「お前がイクスパニアを恐怖に陥れた殺人鬼と知って、混沌なる者の尖兵と聞いて、俺が仲間になると思っているのか!?」
「ええ、なりますよ」
俺の怒りをまともに受けることなく、ユウキは余裕の笑みを浮かべると、パチンと指を鳴らす。
すると、その音に反応して暗闇の向こうから、カンテラと思われる灯りが次々と現れ、大勢の人間が移動する大量の足音が聞こえ出す。
「なっ!?」
そこで俺は、ユウキとの会話に付き合っていた所為で、奴の仲間に接近を許すという致命的なミスを犯していたことに気付く。
ほどなくして、俺たちは二十人以上の自警団の制服に身を包んだ者たちに囲まれてしまう。
「ハハッ、これまで数々の罠をくぐり抜けてきたコーイチ君とは思えない失態ですね。どうしますか? 完全に逃げ場を防がれてしまいましたよ?」
「クッ……」
「どうしますか? 私の仲間になるというのなら、そこの獣の女と役立たずの幼女、その二人もついでに助けてあげますよ」
ユウキの嘲笑する声が示す通り、前後左右、何処を見てもカンテラの光が見え、俺は歯噛みしながら、相棒に謝罪する。
「……シド、ゴメン」
「もういい。過ぎたことを悔やんでも仕方ない。それより、お嬢様を守るぞ」
「……ああ、わかった」
落ち着いたシドの言葉で少し冷静になった俺は、二人でリムニ様を守るように囲む。
「すみません、リムニ様……しくじりました」
「気にするでない。それより万が一の時は、躊躇なく我のことは見捨てるのじゃぞ」
「それは……お断りします」
「おい!?」
思わず背後でリムニ様が抗議の声を上げるが、自分のことを見捨てて欲しいなんて願いは、死んでも願い下げだった。
「わがままだと思ってもらって結構です。でも、俺は誰かを見捨てるなんて真似は、二度としたくないんです」
「コーイチ……」
「どうにか……どうにかして切り抜ける方法を考えてみせますから、俺のことを信じて下さい」
「……わかった」
俺の言葉に、背後でリムニ様が頷く気配がする。
「どの道、我には信じることしかできん。だからコーイチ、何としてもこの状況を切り抜ける妙案を思いついてみせるのじゃ」
「はい、お任せください」
リムニ様の小さくて温かい手が俺の背中に当てられるのを感じながら、俺は力強く頷く。
「…………」
いざ、生き込んでリムニ様に強がってみたものの、実はこれといった対策が思いついているわけでじゃなかった。
何か……何かないのか。
状況を打破する手立てはないものかと、必死に頭を巡らせる。
ここからでは、暗がりでどれだけの人間がこの場にいるのか、何処の守りが薄いのかはわからない。
アラウンドサーチを使えば周囲の状況を確認することはできるが、その隙をユウキが許してくれるとは思えない。
もし、俺がアラウンドサーチを使う素振りを見せれば、ユウキの号令の下、取り囲んでいる自警団が一斉に襲い掛かってくるだろう。
取り囲んでいる自警団の連中も、普段からそういう訓練をしているのか、がっちりと陣形を組み、ネズミ一匹どころか、アリの子一匹逃がさない態勢でいる。
「クソッ……」
どう足掻いても逃げ道など無い状況に、シドが親指の爪を噛みながら吐き捨てるように言う。
「せめて、奴等が隙を……陣形が崩れるような隙を晒してくれれば、なんとかなるのだが……」
「――っ、それだ!」
シドの言葉を聞いた俺の脳裏に、ある閃きが生まれる。
「ありがとう。シド……もしかしたら、もしかするかもしれない」
「本当か?」
「ああ、任せてくれ」
そう言って俺は一歩前へ出ると、大きく息を吸う。
今回の失態を招いたのは俺のミスだ。自分の汚名は、自分自身で
そう固く決意しながら、俺はできるだけ大きな声で、それこそここにいる全員に聞こえるように叫ぶ。
「お前たちをまとめているブレイブという男は、混沌なる者の尖兵だ! 君たちは、騙されているんだ!」
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