第346話 自分を打破する

 地下水路へと潜った俺は、移動しながらシドに、ブレイブが俺と同じアラウンドサーチを使えるかもしれないという説明をした。


「そうか……」


 真っ暗闇の中、先頭に立って俺の手を引きながら歩くシドは、繋いだ手に力を籠めながら確認するように聞いてくる。


「その話が本当だったとして、何か有効的な打開策はあるのか?」

「…………」

「おいおい、まさかないのか?」

「うっ……しょ、しょうがないだろ。俺もまさか、自分と同じ能力を持つ人間が現れるなんて思わなかったんだ」


 グラディエーター・レジェンズをプレイしていた時も、アラウンドサーチをはじめとする第四スキルを手に入れる条件が厳し過ぎる所為で、同じ力を持った相手と対戦することがなかった。

 まさかここにきて自分と同じ能力を持つ者が現れ、ずっとオンリーワンでやって来たから対策ができていないという弊害が出るとは思わなかった。


 だが、現実にこうしてそういう敵が現れた以上、今からでも対策を講じなければなるまいが、実際問題のんびり考える余裕なんてあるはずがない。


「……クソッ」


 一刻も早く何か案を出さなければならないと思うのだが、焦っている所為か、まともに頭が働かない。


 すると、


「なあ、コーイチ」


 いつの間にか息がかかるほどの距離にいどうしていたシドが、俺の手を両手で包み込みながら話しかけてくる。


「もし、対抗策が思いつかないのなら、逆に考えてみたらどうだ?」

「逆?」

「そうだ。コーイチと同じ能力なら、コーイチがやられて嫌なこと、困ることを思い浮かべてみたらどうだ?」

「そう……だな」


 確かにその発想はなかった。


「ありがとう。ちょっと考えてみるよ」


 俺はシドに頷いてみせながら、アラウンドサーチの弱点について考える。


 アラウンドサーチの弱点といえば、こうして目を閉じなければ状況を確認できないこと。

 自分から索敵の波が広がるようにできているので、遠くの者を察知するには多少なりとも遅延が発生すること。

 赤い光点で見ることはできるが、それが何処の誰で、敵か味方の区別はつかないこと。

 そして、高さや遮蔽制限があり、ある一定の条件を満たしてしまうと、反応そのものが消失してしまうことだ。

 後は力を使い過ぎると動けなくなるが、一度体験して以来、一度もあの領域に至ったことがないから、一回一回の発動による体への負担は、思った以上に軽いのだと思われる。


 とまあ、いくつかアラウンドサーチの弱点を思い浮かべてみたが、相手が近くにいない状況ではいくらでも索敵し放題なので、弱点が弱点として機能しているかどうかは微妙だ。


 おそらくブレイブは、遠く離れた地で索敵した結果を部下たちに伝えて動かしていると思われるので、奴に近付いて能力を使わせないという作戦は現実的ではない。

 敢えて言うなら、作戦指示を出してから自警団の連中が動き出すから、情報伝達はかなり遅く、俺たちが動き続ける限り、奴等と鉢合わせする可能性は低いということだった。


「……ん?」


 その時、俺の頭にある作戦が閃く。


「……シド、ちょっとごめんよ」


 俺はシドに断りを入れて彼女と手を繋いでいる手を離して壁に手を当てると、目を通してアラウンドサーチを使う。

 脳内に広がるワイヤーフレームのように表現される地下水路のマップと、赤い光点を見ながら周囲の状況を確認する。


 そうして最初に反応が現れるのは、自警団の連中と思われる移動中の三つの赤い光点。

 三つの赤い光点は地下水路にはいないのか、周囲のワイヤーフレームで表現された壁を無視して移動している。


 この地下水路では、アラウンドサーチの高さ制限に引っ掛からないのか、地上にいる連中を索敵することはできるようだ。

 自警団の連中は最低でも二人、もしくは三人で動いているのか、隊列を組んで動いている。


 そして、赤い塊となって蠢いているのは、巨大ネズミだろうか。

 他にも魔物と思われる赤い光点がいくつか見えるが、ピクリとも動かないのは既に寝ているか、食事中ということだろう。


 俺たちの位置がわかっているのか、いくつかの赤い光点の集団は真っ直ぐ俺たちの方へと向かってきている。しかも、こっちは地下を移動しているのか水路に沿って移動しているので、今すぐにでもここから動かなければ、十分もしないうちに連中がここにまでやって来てしまうだろう。


 だが、そこでまだアラウンドサーチを解除せずに、さらに索敵範囲を伸ばしていく。

 まだ……まだ奴は見えない。


「クッ……」


 脳裏に映る赤い光点が多くなり、脳に負担がかかるのか頭痛がするようになるが、それでも俺は索敵範囲を広げていく。



 そうして、一分、一分半と経過して索敵範囲がこれまでの最高記録を更新しようかという頃、


「……見つけた」


 俺は脳裏に一際大きな赤い光点の集団を見つける。


 ここからだとかなりの遠く、おそらくまだリムニ様の屋敷の近くにいると思われるその集団が、ブレイブたちだと思われた。

 俺が奴を見つけるまで二分弱……この時間が、奴がアラウンドサーチを解除した後、再び俺たちを認識するのにかかる時間だ。


 そして今、まさに次の赤い光点が動き出そうとしているのを見て、


「よし、移動しよう」


 俺は目を開けてアラウンドサーチを解除しながら、シドたちに移動を促す。


「どうやら何か思いついたようだな」


 今の俺は余程悪い顔をしているのか、シドの呆れたように嘆息する声が聞こえる。


「……期待して、いいんだな?」

「ああ、上手くいけば、敵の数を減らして、且つ奴等の目を欺くことができるはずだ」


 俺は自信を持って頷くと、目的の場所へ向けて移動を開始する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る