第343話 宣戦布告
シドの制止を振り切り、天井をぶち抜いて飛び降りた俺は、油断なく周囲を警戒しながら、壁際にエスクロを庇うように立つブレイブへと話しかける。
「俺のことを自由騎士と呼ぶということは、お前もまた俺のことを忘れていないようだな」
「ハハッ、ご明察だ。管理者用のネームタグというのがあってね? 他と違って、それを付けている者は、記憶
「管理者用だって……それを俺に話すということは、やはりお前が……」
「そうだよ。お前と、あのお気楽な馬鹿を嵌めてやったんだよ! 残っているタイゾーも、お前を処分した後に適当な理由を付けて殺してやるから安心しな」
「お前っ――」
顔を歪めて嘲笑するブレイブに、俺は反射的に飛び出して奴へと斬りかかりそうになるが、自制心をフル稼働させてどうにか留まる。
今はこいつと刺し違える覚悟で戦ったところで、無駄死にする未来しか見えない。
だが、このまま黙っているのも癪なので、
「……そんな安い挑発に乗ってやるほど俺は甘くないぞ……ユウキ」
奴の本名と思われる名前で呼んでやる。
「…………」
俺にユウキと呼ばれたブレイブは、てっきり何かしらの反応を見せるかと思ったが、
「……人の名前を間違えるとは、随分と無礼な奴だな」
特に感情の起伏を見せることなく、淡々と話す。
「そもそもユウキとは誰だ? それと私に何の関係が?」
「知らないのか? お前がこの世界に召喚される前の名前だろ? そして、イクスパニアで史上最悪の殺人鬼となった最低最悪のクソ野郎……それがお前の正体だろ?」
「ハッ、何を言うかと思えば……」
ブレイブは話にならないと、大袈裟にかぶりを振りながら肩を竦める。
「確かにそんな名前の殺人鬼はいたらしいが、当然ながら私とは何の関係もない。それに、奴は無数の戦士によって追い詰められ、山奥の谷から落下して死んだはずですよ」
「そうらしいな。だが、俺はどれだけ傷を負っても、たちどころに傷を治してしまう薬の存在を知っているよ」
「そうか、私も知っているがそれが何か? それとも私がその件の殺人鬼だという証拠でもあるというのか?」
「ないね。だが、俺はお前がブレイブなんて洒落た名前じゃなく、地球からやって来た召喚者にして殺人鬼、ユウキだと確信しているよ」
「…………」
「…………」
そのまま俺とブレイブは、無言のまま睨み続ける。
入口の方では、俺がブレイブのことをユウキと断じた所為か、何やらヒソヒソと話している者もいたが、証拠がない以上、奴が認めることは絶対にないだろう。
…………このまま奴が自白するまで、何かボロを出すまで問い詰めたいが、そろそろ限界だろう。
おそらく奴とこれ以上会話しても、得られるものは何もないし、何処からか援軍がやって来て逃げられる機会を失いかねない。
俺はブレイブから視線を逸らすと、痛々しい姿のリムニ様の正面に膝を付いて彼女へと話しかける。
「……リムニ様、大丈夫ですか?」
「……………………コ…………イチ?」
「はい、浩一です。すみません、助けるのが遅くなりました」
「――っ!? ふえぇ……」
俺の顔を見たリムニ様は、顔をくしゃっ、と歪めると、
「うわああああああああぁぁぁん、コ、コオオオオォォイチイイイイィィィ!」
大粒の涙を流しながら、俺へと抱きついてくる。
「おわっ、リ、リムニ様!?」
かなり酷い目に遭ったのか、感極まった様子で抱きついてくるリムニ様を、全力で慰めてやりたいと思うのだが、生憎とそんな状況ではない。
「お前たち、何をボサッと見ている。早くそこの侵入者を処理するんだ」
ブレイブの鋭い声に、入口近くで固まっていた自警団の面々が室内へとなだれ込んで来る。
各々の得物を手に、
「コーイチ! 我は…………我は…………」
「ちょっ、ちょっと、リムニ様!?」
リムニ様が泣きながら俺にしがみついてくるので、まともに動くことができないでいた。
しかし、だからといって今の状態のリムニ様を突き飛ばすのも躊躇われる。
きっとここでリムニ様を突き飛ばし、やってくる自警団を迎え撃つのが正解なのだろう。
だが、俺は敢えてそれをしなかった。
何故なら、ここで俺がリムニ様を裏切るような真似をしたら、彼女の心は本当に壊れてしまうような気がしたからだ。
それに、わざわざ俺が迎え撃たなくても、心から信頼できる相棒がいる。
「リムニ様、こちらへ……」
俺はリムニ様を体をしっかりと抱えると、向かって来る自警団たちから距離を取るように窓際へと下がる。
「覚悟!」
「獣に与する恥さらしが」
「人類の敵め!」
勝手なことを言いながら突撃してくる三人の自警団たちだったが、そんな彼等のすぐ背後に、天井から人影が音もなく降りてくる。
天井から舞い降りたシドは、一番後ろの自警団の男の首へと手を伸ばし、一瞬で骨を折って倒すと、残る二人も奪った剣で薙ぎ払って一撃で黙らせる。
「……ったく、バカ、コーイチ! そんな人間、黙って見捨てればいいものを」
「悪い。でも、どうしても見捨てられなくて……それに、シドが助けに来てくれると信じてたよ」
「――っ、そ、そんなの当たり前だろ!」
シドは照れたように笑うと、怯えたように身を竦めるリムニ様を見て小さく嘆息する。
「それで、もう何の役にも立たなくなったガキをどうするつもりなんだ?」
「決まっている。速やかに逃げるんだよ」
「……まあ、
「そういうこと」
俺たちは互いの目を見て頷き合うと、周囲を見渡して逃げる算段をつける。
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