第295話 見誤った実力
「この、トカゲ野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!」
卑しい魔物に舐められた。
事実がどうあれ、そう考えているジェイドの怒りは頂点に達していた。
まるで重さを感じないように軽々と大剣を振り回しながら、ジェイドはリザードマンジェネラルへと斬りかかる。
例えどれだけ強くなろうとも、所詮はリザードマン。リザードマンナイトも、リザードマンウォーリアーも、ただの一撃で屠ることができた。
故に、相手がリザードマンジェネラルだからといって、必要以上に恐れる必要はない。
これまでの戦闘からそう結論付けたジェイドは、余裕の表情でこちらを見ているリザードマンジェネラルを狩るべく、一気呵成に攻撃を仕掛ける。
「でりゃあああああああああああああああああああああああぁぁ!!」
リザードマンウォーリアーを倒した時と同じ、地面を強く蹴ってからの大上段からの斬撃……もし喰らえば、流石のリザードマンジェネラルとて無事では済まないだろう。
(
絶対回避不可能の位置まで来たところで、ジェイドは勝利を確信してニヤリと笑う。
すると、そこでようやくリザードマンジェネラルが動きを見せる。
上空から落ちてくるジェイドに対し、ゆっくりとした動作で鉄の手甲で覆われた右手を掲げる。
次の瞬間、ジェイドの刃とリザードマンジェネラルの手甲が激突し、金属同士がぶつかる甲高い音が響き、暗闇を照らす火花が激しく散る。
「な、何だと!?」
激しく散る火花の中、ジェイドの驚愕の表情が暗闇に浮かび上がる。
それはそうだろう。ここに至るまで、ジェイドはあらゆるリザードマンをただの一撃で葬って来た。
全部で五段階あるリザードマンの強さのランクの内、上から三番目までのリザードマンウォーリアーまで一撃だった。
敢えて言えば、リザードマンウォーリアーは全力で振り抜いても一刀両断にまで至らないほど硬い鱗に覆われていたが、殺せない訳ではなかった。
それが、もう一段階上のリザードマンジェネラルとなっただけで、両断できないどころか、片手で攻撃を防がれるとは思わなかった。
(まさか、俺の判断が間違っていたというのか?)
相手の実力を見誤るといったベテラン冒険者にあるまじき失態に、ジェイドは内心で臍を噛む。
すると、
「ジェイド、何をボサッとしている!」
「――ッ!?」
何処からともなく響いた声に、ジェイドは自分が呆然としていたことに気付く。
「おわっ!?」
だが、我に返ったことでバランスを崩してしまい、ジェイドはリザードマンジェネラルのすぐ足元で膝を付いてしまう。
当然ながら、そんな絶好の隙を見逃してくれる奴などいない。
顔を上げたジェイドの目に、彼が持つ愛用の大剣に負けず劣らずの特大サイズの棍棒を振り上げるリザードマンジェネラルの姿が映る。
あれで叩き潰されたら、先程叩き潰されたリザードマンウォーリアーと同じように、玄室の床にあるシミの一つとなってしまうだろう。
「シャアアアアアアアアアアアアアァッ!」
棍棒を両手で握りしめたリザードマンジェネラルは、奇声を上げながら棍棒を振り下ろす。
「…………クッ」
絶体絶命のピンチに、ジェイドは膝を立て、力を振り絞って大剣で防御姿勢を取る。
ここで回避をしたところで、態勢を整えることができなければ、ジリ貧になっていつかはやられてしまう。
ならば、玉砕覚悟で五分の状況へと戻す。そう判断してのことだった。
しかし、リザードマンと冒険者の屈指の力自慢の激突が、今一度起こるかと思われたその時、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
裂帛の雄叫びを上げながら、何者かがリザードマンジェネラルに体当たりをする。
そのまま視界の端へと消えて行った者を見て、ジェイドは立ち上がりながらその名を叫ぶ。
「――っ、ベアか!?」
「全く……調子に乗り過ぎだ」
ジェイドを救ったベアは、悪態を吐きながらリザードマンジェネラルへ前蹴りを繰り出す。
繰り出した攻撃は、あっさりとリザードマンジェネラルに防御されてしまうが、ベアは無理な追撃は行わず、距離を取ってジェイドの横へと並ぶ。
リザードマンジェネラルが攻めてこないのを確認しながら、ベアは立ち上がったジェイドへと話しかける。
「いけるか?」
「……問題ない。すまない、助かった」
ジェイドの素直な謝罪の言葉を聞いて、ベアはニヤリと笑う。
「一人で倒したいと思うだろうが、次が控えているから我慢してくれ」
「……次?」
「ああ……」
ベアは頷くと、ここからではまだ見えない奥を睨みながら、唸るように話す。
「お前たちには見えていないようだが、奥にまだリザードマンジェネラルがいる」
「マジか!?」
「ああ、ハッキリとは見えないが、最低でも後、四匹のリザードマンジェネラルがいる……そして、その奥にさらにデカい奴の姿が見える」
「おいおい、もしかしてそれって……」
「ああ、確信はないが……」
顔に冷や汗を浮かべたベアは、顎を引きながら絞り出すように話す。
「いるぞ……キングリザードマンが」
「マジかよ……」
ベアの言葉に、初めてジェイドの顔から余裕の笑みが消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます