第264話 お悩み相談

 世の男性が悩む二択に、悩んだ末に俺が選んだ答えは……、


「ハハハッ、勿論、大きいのも小さいのもどっちも大好きさ」


 なんとも玉虫色な答えであった。


 何とも中途半端で、逃げの回答と思うかもしれないが考えてみて欲しい。

 あの場には胸の大きさにおいては対照的な二人、シドとソラがいたのだ。

 もし、胸の大きい人が好きと答えればソラが悲しみ、逆を答えればシドとの関係が微妙なものとなる。


 せっかく三姉妹の仲が悪くならないようにミーファに気を使ったのに、俺の回答で、別の意味で三姉妹の間に亀裂が生まれてしまっては元も子もない。

 当然ながらそんな曖昧な回答をする俺に、シドもソラも微妙な顔をしていたが、質問をした張本人であるミーファは納得したのか、ちゃっかりと俺の分のパンまで食べて、波瀾万丈な朝食は終わった。




 その後、休憩して仕事の疲れを取った俺たちは、いつも通りの時間にやって来た行商人に、今朝の成果を見せた。


「……ほう、今日はまた一段と多いな」


 袋二つ分の遺品を見ながら、行商人は満足そうに頷く。


「まともに戦えるようになったから少し欲を出した、ということろか」

「…………いけませんか?」

「いや、悪くない」


 少しむくれたように言う俺に、行商人は相変わらず表情の読めない仮面のまま頷く。


「自分にできることが増えたのなら、それに挑戦することは悪くない。ただ、二人だけであまり仕事を取り過ぎると、他の者との間に不和が生まれるから気を付けることだな」

「……そうですね」


 今朝方のベアさんたちとのやり取りを思い出しながら、俺は少しだけ後悔する。


 考えてみれば、この集落で死体漁りスカベンジャーとして活動しているのは俺たちだけじゃない。それどころか、この仕事が収入の大半を占めるという人の方が多い。

 そんな中で、周りより早く活動をする俺たちが、与えられた情報を元に他の人の分まで仕事を取ってしまったら、他の人の食いぶちまで潰してしまうということだ。


 正直、今朝はこれまでの仕事の遅れを取り戻したいという思いと、運良く経験を積むのに適した魔物を見つけてしまったこともあり、教わった回収地点の殆どを回ってしまった。

 さらに、ベアさんたちとのいざこざの所為で、情報の共有がしっかりとできていないので、今日の彼等は無駄足を踏む可能性がかなりあった。


「浮かない顔だな」


 また表情に出てしまっていたのか、行商人が探るように顔を近づけながら話しかけてくる。


「何か不安なことがあるのか……」

「い、いえ……その…………はい」


 今回の件について、調度誰かに相談したいと思っていた俺は、思い切って行商人に相談してみることにする。



「なるほどな」


 俺から話を聞いた行商人は、深く頷きながら白い仮面を傾ける。


「それで、お前はどうしたいのだ?」

「どうしたいって……そりゃ、こんな狭い集落内でいざこざなんて起きてほしくないですから、一日でも早く仲直りしてもらいたいですね」


 だが、意固地になった大人が和解することは容易ではない。


「……そう、だな」


 行商人もそれがわかっているのか、唸り声を上げて何やら思案しているようだが、これといった解決策は浮かばない様だった。


 おそらく俺より年長だと思われる行商人からこれといった解決策が浮かばないのであれば、会社で問題を起こしてほぼほぼクビになった俺では役に立たないだろう。


「…………あっ!?」


 そこで俺は、もう一つの懸念材料を思い出す。


「あ、あの……一つ聞いてもいいですか?」

「ん? 何かね?」


 おとがいに手を当てて考えごとをしていた行商人は、顔を上げて俺へと顔を向ける。


「何かいい妙案でも思いついたのか?」

「いえ、そうではないのですが……実はシドが気になることを言っていたんです」

「気になること?」

「はい……シドはこの集落に人間を入れたら、絶対に俺たちの敵になると言っていたんですが、それについて何か思い当たるものがありますか?」

「…………ああ、ある」


 俺の質問に、行商人はゆっくりと頷く。


「ここが昔、監獄として使われていたことは知っているな?」

「はい、知ってます」

「そうか、では何故ここが使われなくなったかはわかるか?」

「えっと、確か……」


 俺は以前、シドから聞いた話を思い出しながら話す。


「ネームタグが広まって、グランドの街から罪人が減り、最近は罪人はとっとと処刑するから監獄が必要なくなったとか……」

「……そんな都合のいい話があると思うか?」

「えっ?」


 思わず聞き返す俺に、行商人は探るような声音で質問してくる。


「罪人が減り、残りは処刑するから監獄が必要なくなるなんてこと、あると思うか?」

「それは……確かに」


 実際、行動記録が残るネームタグがあっても、日常的にそこかしこで犯罪行為はあったと思うし、そもそも違法行為を行う前にはネームタグを外しておくなんて裏技を使う者もいた。

 実際、俺も違法風俗店に行った時にはネームタグを外して行ったし、それが原因でこんな地下で生活をする羽目になったのだが……、


「では、それが本当の理由ではないんですね」

「ああ……」


 行商人はゆっくりと頷くと、この監獄が放棄されたという本当の理由を話す。


「この監獄はな……呪われてるいるんだよ」

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