第113話 新たな可能性
「……あったか?」
「…………ないな」
「………………ないですね」
程なくして薬草が自生している場所に辿り着いた俺たちであったが、クエストを受注した時に聞いた通り、草は生えているものの、目的となる薬草は見つけられなかった。
「だああああぁぁ! こんな子供のお使い、やってられねぇよ!」
探し始めて十分、早くも雄二が音を上げて地面に大の字に寝転がると、近くの草をブチブチと引き抜きながら愚痴り出す。
「大体、薬草たってこんな大量の草の中からどうやって見つけたらいいんだよ」
「そうだが、それを探すから報酬が貰えるんだろ?」
「わかってるよ……だけど、植物に全く詳しくない俺たちには難易度が高過ぎだろ」
「……そうだな」
雄二の言葉に、俺は頷きながら周囲を見渡す。
街の外は街道こそ整備されているが、それ以外の場所は殆ど手つかずで、植物たちは我が物顔でそこら中に自生しまくっている。
自分の腰ぐらいまで伸びた植物も少なくなく、魔物がいないとわかっていても、薬草が生えているかどうかもわからないのに、その草を掻き分けて進むのは躊躇われた。
ざっと見た感じ、ここら辺りには薬草はなさそうなので、ここはもう諦めて次の場所に向かうべきだろうか。そんなことを考えていると、
「なあ、浩一。お前のアラウンドサーチを使って薬草を探すことできないかな?」
楽をするためなら天才的な閃きをみせる雄二から思わぬ提案が入る。
「なんかさ……こう額にむむむっ、って押し当てて使うと、特定の物だけサーチできるようになるとかないのか?」
「いや、知らんけど……まあやってみるよ」
俺は見本の薬草の束からセージに似た薬草を取り出すと、額に当ててアラウンドサーチを使う。
いつも通り脳内に索敵の波が広がっていくのだが……、
……ん?
何だかいつもと違う様子に、俺は首を捻る。
アラウンドサーチを使った場合、いつもなら真っ先に反応が出るはずの雄二と泰三の二人の反応が出なかったのだ。
いやいや、まさか……そんなことを考えながらも、俺は脳内の映像に集中する。
暫くは何の反応もなく、空しく広がっていくだけの索敵の波だが、
「…………見えた」
今まで探そうとしていなかった草むらの中にいくつかの反応を見つけた俺は、目を開けて反応があった場所へと駆ける。
左手を庇いながら腰まである草を掻き分け、反応があった場所まで辿り着くと、
「……あった」
そこにはセージによく似た薬草が生えていた。
しかも、ここら辺りを探そうとした者はいなかったのか、一本や二本といった僅かな数ではなく、かなりの数が群生していた。
俺は試しに生えている薬草を一房抜いてみて、手元の見本と相違ないことを確認する。
「ハハッ……マジかよ」
雄二の戯言に仕方なく付き合ってやっただけ。そのはずだったのに、これは思わぬ収穫だった。
俺は手にした薬草を掲げながら、最大の功労者に向かって叫ぶ。
「おい、雄二。信じられないけど、お前の言う通り薬草の索敵出来たぞ!」
「マジかよ!?」
俺からの報告に雄二は勢いよく跳ね起きると、パチン、と指を鳴らす。
「おいおい、これで完全に勝ち確じゃねぇか! 浩一、他の薬草も試してみろよ!」
「ああ、そうだな」
俺は次の薬草を取り出すと、額に当てて再びアラウンドサーチを使った。
結果として、アラウンドサーチのお蔭で、薬草採取クエストは劇的に難易度が下がった。
だた、それでも薬草はかなり取り尽くされており、一箇所で見つけられる薬草は思ったより多くはなかった。
全てを採取してしまうと今後、次の薬草が生えてこない可能性があるので、最低限の薬草は残しておくようにという指示があったので、それもきっちりと守りながら採取しても、用意した籠の半分くらいまであっという間に溜めることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます