第114話 捨てたいもの
貰った地図に書いてあった採取場所を三箇所ほど回った後、俺たちは小高い丘の上に陣取って昼食を取ることにした。
「それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
三人で手を合わせて唱和して、俺たちは食品街で買ってきたホットドッグ……ではなく、サブラージという名前で売られていたサンドイッチを取り出す。
細長いロールパンに腸詰め肉と香草が挟まれ、上にマスタードのような黄色いソースがたっぷりとかけられた形状は、正にホットドッグそのものだった。
俺たちはこの見た目に一目惚れして今日の昼食に抜擢したのだった。
俺は大きく口を開けると、サブラージへと齧り付く。
「うん、美味い!」
黄色いソースは柑橘系の果汁が使われているのか、酸味が効いたさっぱりとしたソースで、何の肉かわからないがかなりスパイシーな腸詰めと非常によく合う。
日本で食べていたパンと比べ、若干パンが固いのが気になるが、それでもこのサブラージを昼食に選んだのは大正解だったようだ。
「ふぅ……風が気持ちいいな」
あっという間にサブラージを二つ食べ終えた俺は、木のカップに入ったお茶を飲みながら、流れゆく雲を見つめていた。
この後も地図に書き記された薬草の採取場所を回るつもりではあるが、アラウンドサーチがあれば持って来た籠いっぱいに集めるのも時間の問題だろう。
後は、どの順番で回るかだが……、
「ねえ、浩一君。ちょっといいですか?」
地図を取り出してどの順番で回るかを考えていると、泰三がこっちにやって来る。
「ご飯食べながら辺りを見ていたんですけど……」
そう言いながら泰三は、俺たちがいる場所から五十メートルほど離れた位置にある深い藪を指差す。
「少しの間でしたが、あそこの藪に不自然な動きが合ったんです」
「本当か?」
「ええ、間違いないです。ですからアラウンドサーチを使ってみてもらっていいですか?」
「ああ、わかった」
これまで泰三が何か見たような気がすると言って、その予想がはずれたことがないのだから、今回もきっと何かを見たのは間違いないだろう。
果たして、今回は一体何を見つけたのだろうか。
できればバンディットウルフのような危険な魔物だけは勘弁願いたい。そう思いながら俺はアラウンドサーチを使う。
脳内に索敵の波が広がると、先ず雄二と泰三の二人の反応が出る。
そして、そのまま放射状に波が広がっていくのを見守っていると、泰三が指差した藪の中から赤い光点が現れるのを確認する。
「……いるな」
「やっぱり……何かわかりますか?」
「わからない。だけど、寝ているのかさっきから全然動かないんだ」
こうして泰三と話している間にも、見つけた赤い光点が動く様子はない。
こうしてアラウンドサーチに反応がある以上、それなりに大きな生物だと思うのだが、
「…………どうする?」
どう対処したらいいかわからず、俺はとりあえず二人に相談してみることにする。
「今は藪の中以外は、他に反応はないみたいだけど、一先ず避けて進むか?」
君子危うきに近寄らず。かの有名な孔子先生もそう言っていたし、正体不明の存在には下手に手出しするべきではないと思うのだが、
「いや、せっかくだしこっちから仕掛けてみないか?」
雄二が俺に待ったをかける。
「反応は一つだけだし、藪の中に隠れるサイズということは魔物としても随分と小柄だと思うんだ。それに、近くには強い魔物は出ないって話だから、ここは一狩りいっとくべきだろ」
「そう……ですね」
雄二の言葉に、泰三も続く。
「僕としても、これから冒険者としてやっていくためにも、早いところ童貞を捨てたいと思っていたところです」
「そう、それ! あの童貞呼ばわりされるの、腹立つよな」
これまでソロやキャシー、他にも口には出されなくとも、言外に童貞呼ばわりされていたのを察していたのだろう。雄二は憮然とした態度を見せる。
「というわけで、俺は一刻も早く童貞を捨てたいんだ。浩一は見ているだけでいいから、俺たちに指示を出してくれ」
「お願いします」
「わ、わかったよ」
二人の凄むような勢いに圧され、俺はカクカクと何度も頷くと、改めてアラウンドサーチを使う。
対策を話し合っている間に何処かに行ってしまうかと思われたが、赤い光点はまだ藪の中にいるようだった。
「…………もしかしたら、本当に寝ているのかもしれないな」
どうやら本当に動く気がなさそうなので、俺は身振りで対象に近付こうと提案し、足音を殺して移動を開始する。
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