第77話 本物の力

「はああああああああああああああああああぁぁ!」


 気合の雄叫びを上げながらジェイドはメガロスパイダーへと斬りかかる。

 唸り声を上げながら迫る斬撃に、メガロスパイダーは二本の前足を使っ迎え撃つ。


 次の瞬間、巨大な鉄の塊と二本の足とが交錯して火花を散らす。


 そのまま鍔迫り合いへと発展する両者の力は拮抗しているかと思われたが、メガロスパイダーの足はまだ残り六本残されている。

 ジェイドとの鍔迫り合いを演じながらも、メガロスパイダーはさらに二つの足を振り上げてジェイドへと襲いかかろうとする。

 だが、


「甘いぜ!」


 メガロスパイダーが足を振り上げたのを確認したジェイドはニヤリと笑うと、


「うおりゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」


 全身に力を込めて筋肉を爆発させて手に持った大剣にさらに力を込める。

 すると、これまで拮抗していた両者の力のバランスが突然崩れ、メガロスパイダーの二本の前足から紫色の血が吹き出したかと思うと、そのまま力任せに両断する。


「キシャアアアアアアアアアアアアァァッ!?」


 二本の前足を切断されたメガロスパイダーは、血を吹き出しながら黒板を思いっきり引っ掻いたような気色の悪い悲鳴を上げながら無茶苦茶に暴れ出す。


「――っ、あぶね……」


 無茶苦茶に繰り出される攻撃に、ジェイドは冷や汗を流しながら紙一重で回避し、時には大剣で受け止めながら凌いでいく。


「チッ……」


 まるで嵐のように荒れ狂うメガロスパイダーの猛攻に、ジェイドが歯噛みしていると、


「ハハハッ、隙ありだ!」


 後ろからクラベリナが飛び出して来て、メガロスパイダーへと肉薄する。


「そらそら、今度は防げると思うなよ!」


 犬歯を剥き出しにして獰猛に笑いながら、クラベリナはメガロスパイダーへと再び刺突攻撃を繰り出す。


 今度の攻撃は、いかにも硬そうなメガロスパイダーの外郭を狙ったものではない。

 見る者を恐怖させ、前後不覚に陥らせるという八つの目だ。


「ほらよ!」


 駆けてきた勢いそのままに突き出されたクラベリナの突きは、予想通りメガロスパイダーの目へと深々と刺さり、おびただしい量の出血を生む。


「ハハッ、まだまだだよ!」


 大量の返り血を浴びながらも、クラベリナは剣を引いて再び目を狙った突きを繰り出す。


「――ッ、キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ!!」


 二つ、三つと立て続けに目を抉られたメガロスパイダーは、狂ったように叫び、クラベリナの猛攻から逃れようと腹部を前に突き出して粘着性の糸を吐き出す。


「おっと、そいつは喰らうわけにはいかないな」


 囚われれば身動きが取れなくなってしまうことがわかっているからか、クラベリナは追撃をあっさりと諦め、後ろに大きく飛んだかと思うと空中を回転しながら距離を取る。


 クラベリナが離れるのを確認したメガロスパイダーは、大きく飛んで逃げるために残っている六本の足を屈んで力を溜める。


「おいおい、まさか逃げられると思っているのか?」


 するとそこへ、体制を整えたジェイドが大剣を大きく振りかぶってメガロスパイダーへと襲いかかる。


「おらあああああああっ!」


 気合の掛け声と共に振り下ろされた大剣は、メガロスパイダーの右側の間接部位にヒットし、三本まとめて一刀両断してみせる。


「――ッ!?」


 飛び上がると同時に片側の足を全て失ったメガロスパイダーは、大きくバランスを崩して少しだけ宙に浮いたかと思うと、勢いを殺し切れずにその場でひっくり返る。


「もらった!」


 無防備な腹を晒し、残った三本の足をわしゃわしゃと動かしているメガロスパイダー目掛けて、ジェイドが止めを刺すべく近付くが……、


「ハッハッハ、美味しいところは全て私がいただく!」


 同じように勝機を察したクラベリナが空中から颯爽と現れ、メガロスパイダーの腹の上に着地して急所となる頭胸部の中心部へとレイピアを容赦なく突き立てる。


「キシャアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ……………………」


 急所を突かれたメガロスパイダーは、断末魔の叫び声を上げながら二度、大きく痙攣したかと思うと、それを最期に全身から力が抜けてぐったりと動かなくなる。



 傷口から勢いよく噴き出していた血の勢いも徐々に弱まり、血が完全に止まったのを確認したところで、


「ふむ……もういいだろう」


 クラベリナはメガロスパイダーに刺さったレイピアを抜き取り、一振りで血を振り払うと、天高くつき上げて声高々に勝利宣言をする。


「魔物による脅威は全て撃ち果たしたぞ。皆の者、勝鬨をあげるがいい!!」


 その声に、クラベリナたちの様子を見守っていた者たちが一斉に「うおおおおお……」と大地を揺るがすほどの鬨の声を上げた。



「これが、本物の戦士の戦い…………」


 俺はメガロスパイダーを打ち倒した二人を褒めたたえる喝采を聞きながら、どうして自分にあれだけの力がないのだろうと、両手を名一杯、血が滲むほど強く握り続けた。

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