第74話 露出多き人たち

「やあ、待っていたよ」


 遠目から見て恐らく美人だろうと思った女性は、近くで見ると思わず見惚れてしまうほどの美貌の持ち主だった。

 エイラさんが可愛らしいと表現するならば、目の前の女性は美しいという言葉がとてもよく似合った。


 …………エイラさん。


 思わずもういなくなってしまった彼女の笑顔を思い出し、俺は思わず泣きそうになって堪らず「ズズッ」と鼻を啜る。


「……何だ。この私、クラベリナ様の美しさに感涙でもしてしまったか?」


 一目見ていきなり泣き出した俺に、クラベリナと名乗った女性は、怪訝な表情を見せるどころか、逆に唇を赤い舌でペロリと舐めると、身に付けているマントを外してビキニアーマーを衆目に晒す。


「まあ、私の美しさなら当然だな……安心しろ。この体は、命を張る戦士には好きなだけ視姦することを許している。存分に堪能して夜にでも一人で励むがいい」

「えっ? い、いやいや……すみません。これはそういうんじゃなくて……」


 この人はいきなり何を言い出すんだ。俺は慌ててかぶりを振りながら否定する。


「そ、そんなことよりお願いがあるんです」

「そんなこと? 貴様、私の美貌についてそんなことと言ったか? いくらロキが認めた男だとしても、今のは聞き逃せんな」

「ええっ!?」


 な、何だかわからないけどこの人、話が通じないぞ。


「さあ、私を見ろ。今すぐ見ろ。隅から隅まで穴が開くほど見ろ」


 自分に魅力がないと言われたと思ったのか、クラベリナさんはビキニアーマーの胸元を強調しながら距離を詰めてくる。

 しかし、日本で下手に胸の谷間を見ようものならセクハラで訴えられる可能性が高いので、見ろと言われても俺は素直に見ることができないでいた。


「むっ? 私から目を逸らすとはいい度胸だな……こうなったら」


 そんな俺の態度が女性の癇に障ったのか、女性はさらに俺に詰め寄って来ようとするが、


「馬鹿者。いい加減にしろ」


 迫って来る女性を、一緒にいた上半身裸の筋骨隆々の男性が肩を掴んで止めてくれる。

 無精髭を生やした野性味溢れる男性の呆れた様子に、女性は怒りを露わにして掴まれた手を乱暴に振り払う。


「むっ、何をする脳筋ジェイドよ。お前に私を見る資格はないぞ」

「黙れ、この変態痴女。さっきから自由騎士殿が困惑しているだろうが」


 ジェイドと呼ばれた男性は、頭痛に耐えるかのようにこめかみのあたりを押さえながら苦言を呈するが、クラベリナさんは一向に気にした様子を見せない。


「そんなことは知ったことか。私は誰にも縛られんのだ」

「お前は馬鹿か? いいか、そもそもの問題は……」


 この二人、仲があまりよくないのか、俺を差し置いていきなり口論を始めてしまう。


「いいか? 俺たちはな……」

「ハッ、知ったことか。私たちは……」


 しかし、今は一刻を争う事態だ。こうしている間にも、テオさんを助けられる可能性は確実に減っていくのだ。


 俺は大きく息を吸うと、勇気を出して間に割って入り、二人に必死の形相で訴えかける。


「あ、あの、俺の話を聞いてもらえませんか?」

「むっ、何だね?」

「許可しよう。話したまえ」

「えっ? あっ、は、はい……」


 思ったよりあっさりと受け入れられ、俺は思わず面喰ってしまったが、気を取り直して本題を切り出す。


「そ、その……俺たちをここまで連れて来てくれたテオさんという冒険者がいるのですが……」

「ああ、知ってるよ。我々がここに来たのは、彼からの救援信号を受け取ったからだからね。確か今回は、彼と同じ孤児院出身の妹が一緒だったはずだが彼女はどうしたんだい?」

「そ、それは……です………………ね…………」


 エイラさんのことを聞かれた俺は、目から涙が溢れてそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。



 そんな俺の態度から大まかの事情を察してくれた男性、ジェイドさんは俺を抱き寄せると、慰めるように頭を乱暴に撫でながら静かに話しかけてくる。


「そうか……辛い思いをしたな。だけど、テオの名前を出したということは、彼はまだ生きているのだな?」

「は、はい、そうです」

「そうか、それなら彼の方は問題ないだろう」


 すると、ジェイドさんが大きく頷いてこれまでの大まかな状況を教えてくれる。


 ジェイドさんはグランドの街で冒険者たちを統括するギルドマスターの立場で、テオさんからの救援信号を見て、ギルド所属の冒険者総出で救援に向かったという。

 そして、大挙して行動を開始するジェイドさんたちを見て何かあると思ったグランドで自警団を取り仕切り、団長を務めているクラベリナさんが強力を申し出てくれ、先程の矢の雨を降らせて俺たちを助けてくれたのだった。

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