第53話 自由騎士
それから暫くの間、俺たちは黙々と出された食事を食べ続けていたが――
「いや~しかし、まさか本当に自由騎士様たちに巡り合えるとは夢にも思わなかったぞ」
食事もそこそこに、木製の大きなジョッキに注いだワインを愉しんでいたテオさんが嬉しそうに目を細める。
「見れば三人とも、立派な騎士の顔をしておる」
「……そ、それなんですか」
俺は口の中に残っていた料理を嚥下すると、手を上げてテオさんに質問する。
「一つ聞いてもいいですか?」
「ん、何かな?」
「自由騎士って何ですか?」
さっきから何度かエイラさんにも言われたのだが、どうして俺たちをのことをテオさんたちがそう呼ぶのか不思議でしょうがなかった。
少なくとも、俺たちは自由かもしれないが騎士ではない。
俺の疑問に、テオさんは不思議そうな顔をして首を捻る。
「何でって……お前さんたち、何処か遠い世界から来たんだろう?」
「は、はい、そうですけど……」
「だろ? ワシ等の国では、そういう別の世界からやって来るものは、世界を変える力を持つ自由騎士だと相場が決まっているのじゃよ」
「そ、それじゃあ、テオさんがここに来たのも?」
「おう、今回ワシ等は、自由騎士様たちを救うってクエストを受けてここまで来たんじゃよ」
「クエストを受けたって……テオさんたちは、俺たちがこの世界に召喚されたことを知っていたんですか?」
「知っていたとも」
テオさんは大きく頷くと、俺たちが召喚された時のことを教えてくれる。
「この世界に自由騎士、お前さん方が言う異世界の門が開く時、空の色が変わり、ゆらゆらと揺れる幕に覆われたかのようになるんじゃよ」
「幕……ですか?」
「そうじゃ。こう何枚もの幕がゆらゆらと揺れてな。そりゃもう、摩訶不思議な光景じゃよ」
「なるほど……」
空中で手をくねくねさせながら説明してくれるテオさんの動きで、俺はそれがオーロラではないかと推測する。
オーロラと召喚の因果関係は不明だが、オーロラが発生するイコール異世界から何者かが召喚されたとみて間違いないだろう。
「ちなみにそれは頻繁に起こるのですか? それこそ色んな場所で発生してるとか」
「いや、ごくたま~にじゃよ。場所も限られとる。お前さん方が出てきた城、閉じたノルン城だけじゃよ」
テオさん曰く、俺たちが召喚された『ノルン城』には異世界から戦士を呼ぶ召喚装置があり、かつては色んな世界から様々な戦士が召喚されては、各地で謳われるような数々の武勇伝を残したという。
その何者にも縛られない気高き魂と、並の戦士では手も足も出ないような実力から、異世界から来た戦士たちを自由騎士と呼ぶようになったという。
だが、そんな多くの自由騎士を排出してきたノルン城にある時、転機が訪れる。
この世界には魔物が存在しているのは言わずもがなだが、それを統べている『混沌なる者』と呼ばれる所謂、魔王キャラがいるらしい。
ノルン城が異世界から自由騎士を呼ぶのも、全てはこの混沌なる者を倒すためなのだが、その事実を知った混沌なる者の軍勢によってノルン城は攻め滅ぼされてしまったのだ。
「その時の様子をワシはグランドから見ていたのだが、あれこそ正にこの世の終わり……そう呼ぶに相応しい凄まじい光景だった」
空を、地を覆い尽くす魔物の群れは、まるで黒い海のようだったという。
その時の様子を思い出した影響か、テオさんは焚き火に当たって十分に暖かいはずなのに小さく震える。
ノルン城の陥落は、この世界に住む人々にとって混沌なる者による支配のはじまりになるのではないかと思われた。
だが、僅かではあるが希望は残されていたのだ。
一つは召喚装置を管理していたノルン城の王女が、最後の命を賭けて混沌なる者を世界の狭間へと追いやったこと。
もう一つは、最後の自由騎士となった者が、混沌なる者がこちらの世界に舞い戻る前に新たなる自由騎士を引き連れて来るから、その者を導いて欲しいと言って自身の世界へと帰っていったことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます