第2話 ひろたん

人よりちょっぴり大きな顔。

人よりちょっぴり細い瞳。

6歳のひろたんは自分は誰よりもカッコいい、

一番カッコいい信じている。

それは

「ひろたんはかっこいいね。素敵だね。世界一だね。」

と毎日囁き続けた母の愛情がバッチリ効果を発揮している証。


大事だよね。自信って。


そんな親子の七夕の前日。


七夕の短冊に祈りを書こうと張り切ってマジックのキャップを外し、

そのキャップの置き所に迷ってすでに2分間ほど固まっていたひろたんに

母がそっと声をかけた。


「何書こうかぁ。書ける? 」


「かけるよぉ。ひろたん、もうひらがな書けるもん。 」


「ひろたんって、カッコいいね。 」


「ありがと。でも、それはもう、知ってることだよ。」


「あ・・・そうだね、ゴメンね。 」


「うん、いいよ。 」


揺るぎない自信。

大事ですよね。うん。



「で、ひろたんはどんな事をお願いしたい? 」


「えっと。ひろたん、てを、太くしてほしい。 」


「・・・へ? 」


「へじゃないよ。てだよ。 」


「手? 手って、この手? 」


「うん、そう。ふとくなりたいんだよねぇ。て。 」


「えっと・・・・ なんで? 」


「うん、わかんない。

 でも、もっとかっこよくなると思うんだよね。

 てが太くなると。 」


「そ・・そうなの? 」


「うん。たぶん。 」


「手だけ? 」


「そう。て、だけ。 」


そして、ひろたんは握り締めたマジックで短冊に大きくしっかりと書きました。


『てが ぶっとく なりますように』



母は思った。


あれ? どこでかっこいいの道を間違えた?

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