「あれ?シーくんアンパンの続きは見ないの?」「このあとエッチになるから結構です。」
@rokuxhachi
第1話 シーくん
その日は久しぶりに幼稚園に行く日。
登園は何時も母親の運転で、自家用車だ。
この日も良く晴れた朝に、
彼は颯爽といつものチャイルドシートに収まり、
自らシートベルトをロックし、
ご機嫌に登園して、
そして、たっぷり幼稚園を満喫した後、
いつものように帰りの車中を迎えた。
3歳を迎えたばかりのしー君は喜びに貪欲だ。
帰りの車中だって大事な遊び場であり、
いたずらの場であり、
歌の独演会場でもある。
窓に流れる景色を見ながら、しー君はご機嫌に歌う。
「オーレーはジャイアーン!ガーきかーいーしょー! がーきかいしょーって、なんだよーーなっ!」
一方、母親は夕飯の材料が心許ないことを気にかけていた。
しかし、しー君との買い物はもちろん大変。
あれが欲しい、これ買って、
これ買ってくれなきゃヤダ、
貪欲なしーくんは聞き分けの良さで褒められるより、物欲を優先する。
だから、出来ることなら買い物をしないで帰りたい。
でもね、食材がどう考えても足らない。
しかも明日の朝ごはんのことを考えたら、ますます足らない。
仕方なく、母親は食材の買い物の為に、
スーパーマーケットに向けて車を走らせる。
そして、ある、曲がり道を左折したとき、
楽しかった半日を振り返ることなく、
しー君は新たな喜びに対するその貪欲さが発動し、交渉が始まる。
「えー、そっちに曲がるのぉ?そっちじゃない、ひ・だ・り」
「何でよ、こっちだよ。ベルクに行くんだから」
「えーっ。ゆかり先生んちに行こう? ゆかり先生んち。しーくんゆかり先生んち行きたい」
ゆかり先生は、育児鬱の際にお世話になっていた元幼稚園の先生で、
園の事情で閉園となったあともご自宅に招いてい頂き遊んだり、
本を読んでもらったりしているため、
今でもしーくんにとっては大好きな先生だ。
喜びにどん欲なしーくんは、毎日だって会いたい。
「行かないよ。突然行ったら迷惑でしょう。買い物して帰るの。」
「ちがうちがう。いつでも来ていいよって言ってたでしょ。ゆかり先生。」
「そういうわけにはいかないよ。今日は行きません。」
「んーー。。。でも、しーくん、おしっこしたくなっちゃったの。
ゆかり先生んちでおしっこしようよ。」
「・・・嘘ついたでしょ。それにトイレならベルク(スーパーマーケット)でしなさいよ。」
「しーくんは、今、おしっこをしたくなりました。
ゆかり先生んちに連れて行ってください。」
「行きません。ベルクまでもゆかり先生んちまでも一緒ですので我慢してください。」
「えー? おしっこ洩れちゃうよ?」
「そんなにすぐに漏れないでしょ?さっきトイレに行ったんだから。」
「おしっこしたいです。ゆかり先生んちのトイレに連れて行ってください」
「行かないって。すぐベルクつくし」
「ゆかり先生んち行ってくれないと、ここでおしっこするよ」
「なんだよ、何の脅しだよ?ワザとおしっこ漏らしたら車降ろすよ」
「じゃぁ、ゆかり先生んち、連れてってください」
「だから行かないって。」
「じゃぁ漏らす。しーくんは漏らします。」
「漏らすな。それにおしっこしたくなんかないでしょ?さっき園から出るとき行ったばっかりなんだから。」
「あ、ちょっと漏れた。」
「ちょ・・ちょ、何言ってるの?、漏らしたらダメてって言ってるでしょ。」
じゃぁあ、ゆかり先生んちに・・・」
「また嘘ついたでしょ!おしっこ」
「うそじゃありません。洩れました。濡れて気持ち悪いから連れてってください。」
「何言ってるの・・・・ほら、もうベルク着くから。濡れてるなら脱いで、着替えるから。」
「えー、ゆかり先生んちは?」
「行かないよ。もうついちゃったよベルク」
「・・・・じゃぁ、もうおしっこも致しません。」
「・・・・何それ? 早く脱いで!」
もちろん、パンツは濡れておりません。
さらりと乾いております。
そしてニヤリと笑うしーくん。
「おしっこは、乾きました。だから、お菓子買ってください。」
「・・・ 嘘つきには買いません。」
「えー? おしっこは乾いたから、お菓子買ってください。」
これは、一人っ子か?というくらいの傍若無人な三男の話である。
今日も新たな喜びに向かって絶好調なまでの貪欲さでもって言葉巧みに母親への交渉に臨み続ける三歳児、例えばこの子ども。
しつけを嫌い、片付けを嫌い、束縛を嫌い、末っ子三歳児としてのステイタスと兄弟に鍛えられた言語力だけが彼の武器だ。
三男、しずなり。またの名を
「いえいえ、ただのしーくんです!」
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