第8話 気づいたら俺は振られていた、そもそも告ってもないが????

……………………


 また前の休み時間にトイレに行けなかった。マジでまずい。さっきの百合を見て一瞬引っ込んだけど、また尿意は復活してる。しかも復活した時点でもう既に限界を迎えている。体は勝手に内腿を擦り合わせてモジモジしてるし、股間辺りを手で抑えつつ尿意との戦いに全力である。もう思考は全て””おしっこしたい””と””我慢しなきゃ””に塗り潰されている。正直なんも考えれてない。


 なので、ここから先は思考ではなく副音声です。


しかも今は授業中だ。手を挙げて、先生に許可を得て先生、トイレ!と叫んでから立ち上がってトイレに行かなくてはならないのだ。最早股間の辺りから手を離すと漏れそうだし、声を出すとお腹に力が入って漏れそうだ。立ち上がったら絶対漏れる。尿意の波を見極めて動かないと死ぬのに行程が多すぎる。TAS金髪幼女ロシア人さんでギリ行けるか?って気持ちだ。男の俺普段の俺ならもうちょい我慢出来そうなはずなのにここまで追い込まれてるのってアレか?膀胱括約筋の強さが女の子準拠になってるってことか?ふざけやがって、、、あっ……やば、むr……もれちゃ……くぅ……我慢だ……俺は出来る子……ふぅ……何とか乗り切れたか。もう完全に消耗戦へと移行してる。些細な刺激も全てが敵と化している。高校生にもなって漏らしたなんて世界のお終いである、学校生活サヨナラバイバイだ。俺はしっこマンと呼ばれて生きていくことになる。それだけは、勘弁したい。


 そして、その”終幕おわり”は唐突に訪れた。


 前の席の奴が指名され立ちやがったのだ。ギリギリで持ち堪えていた俺の膀胱は、前の席が動く振動に耐えれはしなかった。1度漏れ出した清水黄金の水は止まらない。羞恥と開放感で目尻に涙が滲む、終わった。さようなら俺の学校生活。嗚咽が漏れるのを防ぐことくらいしか俺に出来ることはもうなかった。尿は漏れてるけどな、


 バシャッ!


「いい加減寝てないで起きなさいよバカ!!!」


 突然上から結構な量の液体を掛けられる。驚いてチビってしまう。いやもうとっくの昔にチビってるからもう出ねーわ。振り向くと織音が野球部用の麦茶(3Lはあったはず)を持っていた。空っぽの容器を置くと織音はにこやかに先生に謝る。


「すみません。目の前でガッツリ寝られてたので、水でも掛けて起こそうとしたらついやりすぎちゃいました。このバカの着替えの世話と掃除はしますんで授業を進めててください。申し訳ないです。ほら、行くよ杏弥!」


 呆気に取られて固まる先生とクラスメイトを尻目に織音は俺の手を引いて教室の外に連れ出す。仙石はやれやれって肩を竦めていたけどなんだアイツ、何様のつもりだ?っていうかどういうこと?どうなってるんだ?濡れ鼠になったのはわかる。でもなんで織音が?旧校舎の空き教室まで来るとやっと織音は手を離した。


「な、なんで……?」

「はぁ……アンタ、だって漏らしたんでしょ?はい、さっさと着替えなさいな、あとウチの予備の制服貸してあげるから使いなさい。下着は……まぁ女同士だしいっか、これ使っていいわよ。ナニかあった時用の新品だから汚くはないし。」


 テキパキと制服や下着を渡されて言われるがまま俺は着替える。びちゃびちゃの制服を袋に仕舞うとやっと人心地ついた。セーラー服を着てるのが少し嫌だけども背に腹はかえられぬのだ。


「すまん、助けてくれてありがとうな。」

「別に、アンタのためじゃないんだからね!……アンタが学校に来なくなったらウチも寂しいし、昔からアンタってこう、助けなきゃってなる所あるし。」

「ん?すまん後半聞き取れなかった。」

「なんでもないわよ。ウチが勝手にやったことだし。」

「つーか、てっきり俺、お前に嫌われてるって思ってたのに、なんで助けてくれたんだ?嫌いな奴のこと普通助けないだろ?」

「はぁ?アンタのこといつ嫌いになったのよ、昔から変わってないわよウチの気持ちは。」

「え?、」

「だから、別にアンタのことなんか嫌ってないわよ。むしろわ。」


 そう言いながら織音は少し泣きそうな顔をしていた。”好き”になにか特別な意味を感じて俺は、


「それってLike的な意味友達として好きだよな?」

「今は、ね?アンタがTSする前はLove的な意味愛してるだった。今は、正直に言ってわからない、整理がついてないから、ごめんね、ただ、ウチの恋愛対象は異性しかないのかも、って」


 苦しそうに笑う織音に心が締め付けられる。なんか壊れてしまいそうで、消えてしまいそうで咄嗟に抱き締めてしまう。そんな俺を織音は優しく撫でる。あぁ……なんか、昔にもこんなことあったな……何となくそんな気がする。


「見た目が変わってもアンタ杏弥は何も変わってない、か……仙石くんの言う通りそうかもしれないわね。」


……………………

 Side:織音


 杏弥がTSしたって聞いて、さよならウチの初恋って思ってた。確かに、会ってみたら確かに杏弥は変わってたけど、アイツは、どこからどう見ても杏弥なんだなって、、死ぬほど鈍感でバカでどうしようもなくて。やっぱ中身は変わってないんだなって。

でも、女の子にしか見えない杏弥に、どうしたらいいのか分からなくて想いがあふれる。たぶん言ってしまえば”終わり”と感じてるのに、なんて言えばいいのか分からなくて、口が止まらない。勝手に言葉が紡がれてしまう。好きlikeなのか、好きloveなのか、ウチの気持ちはどっちなんだろう。混乱して、泣きそうになる。


突然杏弥に抱き締められた。少し驚くけど、なんか昔にもこんなことがあった気がする。ぐちゃぐちゃになった気持ちが少し解けたかも?


こうやって抱き締められて、わかった。ウチ、やっぱ杏弥のこと好きloveみたいだ。


……………………

 Side:杏弥


 とりあえず織音と話して落ち着いた俺は、教室に戻るとびちゃびちゃになった床を拭き掃除する。ついでに授業後に家庭科室で追加の麦茶も制作してる。野球部用の麦茶なくなっちゃったしな。


「ちゃんと早く作んなさいよ!誰のせいでわざわざ麦茶作り直しになってると思ってるのよ!」

「はいはい、分かってますよ〜織音さまのおかげで助かりましたよ〜。」


 なんか織音の態度少し軟化したかなって思ったけど、全然そんなことなさそう、相変らず当たりがきついまんまだ。織音心はよく分からんなぁ〜。


「ニマニマしてないでさっさと手を動かしなさい!気色悪いわよ!!!」


全くやれやれだぜ……ただ、分かってるのは俺は織音にTSしたせいで振られたってことだな。そんなんだったらTSしたくなかったわ。キレるぞ神様。

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