第2話 やっぱり俺の中では何も始まってないわ……

 俺は朝からダイニングテーブルで滅多にないウーパールーパーの名前を決める時以来の家族会議に出席している。学校はお袋が体調不良として休みの連絡を入れたようで遅刻か欠席のどちらかになったようだ。親父も会社に連絡して遅れると伝えているので時間はあるらしい。そもそも俺はショックで茫然としていたので何もしてない。


 あの後、喜んで歯を磨きに行くついでに鏡を見に行ったが、鏡に写っていたのは昨日と変わらない顔をしたお世辞にもイケメンとは呼べないフツーの顔をした”男”だったのだ。予感はしていたが一瞬の間だけでも”女の子である俺と男のままの俺が重なったシュレディンガーのTS”状態になってしまっていた為それなりのショックがあった。


「とりあえず杏ちゃんを病院に連れていくべきだと思うのよ。」

「そうは言っても何処の病院に連れてけば良いんだ?息子が女の子になってしまったようなので診て欲しいって何科の病院に言えば良いんだ?」

「それは……うーん……杏ちゃんを産んだ病院なら相談できるかしら?」

「あそこかぁ……あそこの先生なら親身になって聞いてくれるかもしれんな」


 俺は両親をぼんやりと眺めながらこれは夢か、それか両親の頭が可笑しくなってしまったのでは無いか……と真剣に考えていた。

 鏡は真実を映すとよく言うし、世界の間違いのようなTSした自分と言うモノを映せないのかもしれないと思い鏡を見たあとすぐスマホのカメラで自撮りしてみたのだがやはり写るのはよく見知った昨日と同じ顔男の俺の顔だったのだ。

 しかしその自撮りを見た両親は黒髪のストレートロングヘアで可愛らしい泣きぼくろが有り目鼻立ちの整った八重歯のチャーミングな美少女が写っていると答えたのだ。しかも自撮りを見せる時にTSしてねぇじゃんかよと言ったら現実逃避してる扱いされたのでとてもつらい。

 そもそも息子がちゃんと股間に居るし、朝起きた時点で元気に寝間着のスボンにテントを張っていたので絶対間違えがないはずだ。俺は間違ってない。


「そうと決まればとりあえず病院行こうよ。家でグチグチ悩んでても仕方ないしな。」


 俺はとりあえず両親以外の人間からなら、男として扱われるはずと希望的観測を抱いて病院へと両親を急かした。

 …………


 あけぼの病院、俺の産まれた病院で予防接種を受けたりインフルエンザや風邪を引いた時にいつも来るかかりつけの病院だ。単なる個人開業医の病院なのに総合病院の如く幅広い診療科があるのが特徴で、あと医師の佐藤先生が腕は確かなのだがとても変人なのが欠点だ。

 その死んだ魚のような目を何とかしたら多分モテる佐藤先生が気だるげに話す。

 両親には席を外してもらっている。佐藤先生が最初に2人きりで話したいと言ってきたためだ。


「血液検査による染色体の確認の結果なのですが……」

「はい」

「杏弥くんが産まれた時の結果がコチラで今回の結果がコチラです……生まれた時は確かにxyだったのですが、今回の結果はxxとなっており女性化してしまっていますね……そしてDNA鑑定を同時に行ってみたのですが、昔採った杏弥くんのDNAと完全に一致しています……世界でも類を見ない症例なのでこれからは定期的に来てください……あとこれからは杏弥くんじゃなくてアンズちゃんって呼んでも良いですか?」

「ありがとうございます。俺からはTSしてるように見えない理由とかって分かったりしますかね?今までと変わらないんですよね」

「恐らく……確証は無いのですが、精神的な自己防衛機能により自己を認識したくないのでは無いかなと考えてます……アンズちゃん自身が現実を受け止めきれてない可能性が高いです……突然もの凄く可愛くなって驚いちゃってるんですね……」

「なるほど……ところでアンズちゃんって呼ぶのはともかく、さりげなく太ももに手を伸ばすのはやめてくれませんかね?ぶっ飛ばしますよ?」


 気だるげに見えた佐藤先生だがどうも目に光が宿ってる。


「いい太ももなので触らないと太ももに申し訳ないですよ……ズボンの上からなのでセーフです……」

「やめろぉ!太ももサワサワするな!この変態医師!そのまま流れるようにスボンに手を突っ込むなぁ!」

「ぬへへ……先っちょだけ……先っちょだけ……」


 俺は必死にナースコールをしてケダモノ変態女医佐藤先生から逃れられるよう奮闘する羽目になったのであった。


 前言撤回、死んだ魚のような目を治しても佐藤先生はモテないと思います。



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