第7話 好きの加速
閉店時間まであと30分。
ホールには誰もいない。
土日の慌ただしさとはうってかわって
月曜日の夜は有線の音楽だけが
響いている。
ほぼ締め作業を終えてしまった
大滝さんがいつものように
「あれ、お客さんいないの?」
なんて言いながらホールにやってきた。
大滝さんとは
あのバラエティ番組が面白かったとか
あそこのハンバーガー美味しいよねとか
今日もそんな普通の話をしていた。
「大津さん、笑笑ゴッド見てる?」
ふと話題に上がった
深夜のバラエティ番組
「見たことない?
絶対大津さん好きだと思うな〜
DVDでてるから今日
レンタルしてこようかな」
店から車で10分くらいのところに
24時間営業のレンタルショップ屋
があるらしい。
私は、引っ越してからまだ
バイト先となるこの徒歩10分エリアしか
ほぼ行ったことはないが
大滝さんは車通勤なのでよく
仕事終わりに通っている。
「大津さんも行く?」
「えっっ」
思わず変な声が出てしまった。
時々こんな誘いをしてくる。
私があははといつも笑い飛ばすことを
知っているからだ。
けれど好きと自覚してしまった私には
もうできない。
「はい、私
大滝さんと一緒に行きたいです。」
「…えっっ」
大滝さんも同じく変な声をだして
驚いていた。
「じゃぁ…行く?」
本当にいいの?と疑る感じで聞いてきたが
私は大滝さんを見て頷いた。
ちゃんと目を見れていただろうか、
熱い…たった一言発しただけなのに
恥ずかしさで
どこに視点をやればいいのか分からない。
けれど、まとまらない視点から
目に写る大滝さんの額もやっぱり
いつも以上に赤くて
またそれが嬉しくて…
私と大滝さんは
ふわふわしながら
じゃあ後でと交わして仕事に戻った。
大滝さんが厨房に戻ってからの私は
あまり覚えていない
ただふわふわと地に足がついていなくて
心臓の音がバクバクと鳴り止まなかった。
あれからお客は誰も来なかったので
早々に締め作業は終わり
みんなで休憩室へ上がった。
5分ほどして
店長は「後 大滝くんよろしくー」といって
帰っていた。
重なるように「お疲れ様でした」
と言う声が聞こえて
私の着替えが終わるとアルバイトの
大場さんの姿も無かった。
休憩室に大滝さんと私の2人。
大滝さんは
「ごめん、あと5分くらいで
終わるから待ってて」
とパソコンで打ち込みをしている。
私は椅子に座って
大滝さんの仕事が終わるのを待った。
どうしよう…
にやけが止まらない。
大滝さんの背中を横目に見て
ただ待つこの時間が胸を
締め付ける。
「じゃぁ行こうか」
スーツに着替えた大滝さんは
「好き」がひたすら溢れくる。
この夜私は初めてのキスをした。
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