三角刀

 まだ小学生だった頃、学校で彫刻刀を購入させられた。もちろん、小学生だったので、用途は立体的な彫刻ではなく、版画を掘るためだったが。


 今でも、たまに持ち出して、意味もなく机を削ったりすることがある。手持ち無沙汰で、暇を極めたときは、削りカスの造形に一喜一憂したりするのだ。


 彫刻刀、と先ほど言ったが、引き出しにしまってあるのは、正確にいえば彫刻刀セットだ。五種類の彫刻刀が並べられている、プラスチック製のケース。


 五種類中四種類はその名前すらも忘れてしまっているのだが、残りの一振りは、いまだに私を惹きつけてやまない。


 三角刀。その不思議な形状を文章で説明するのは少々難しいが、簡単にいえば直角二等辺三角形の斜辺を切り取り、残りの二辺を刃にしたようなもの、だろうか。


 彫刻刀の正しい使い分けなどもはや忘却の彼方だが、この形状を見るに、角の部分で細めの直線を引くことを想定しているのであろうことが伺える。


 直線をひくためにはこれが最適な形状であることは分かるが、直線を直角三角形と結びつけることは凡人には無理なのでは、と思うのだ。


 なんだか、そういうの無駄なところに創造性を見出していた日々が、今の自分に繋がっているような、そんな気がする。


 たったそれだけの戯言。

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