木枯し

 木枯しが、そっと頬を撫でた。


 冷え切った掌が、私の頬をなぞる。


 ぎこちない手つきで、角ばった手で、私の頬に触れる。


「怖がらないで、嫌わないで」


 そんな声が聞こえた気がした。


 私は耳当てを外して、思い切り木枯しを吸い込んだ。肺がいっぱいになっても、まだ吸い込んだ。


 木枯しは、嬉しそうに私の肺をぐるりと一周すると「ありがとう」と呟いて、南へ去っていく。


 ぶるりと体が震える。不快感はない。


 今日の晩ご飯はシチューにしよう。あつあつチーズがいっぱい入ったやつにしよう。

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