第6話 物知らぬ復讐者
――――世界秩序機関・中華共和国支部 面談室
白い壁、白い机、白い床。白のものばかりの一室で空真とレイは手錠を付けられたまま待たされていた。
「いやぁ、逮捕かぁ・・。心当たりあり過ぎるからね、僕ら。」
いつもの調子で話しかけるレイに対し空真は、そうか、と一言返す。
「・・・空真、自分を責めるなよ。」
「・・・・。」
「三年共にいて、僕にも気付いたことがあるよ空真。・・・君は『我』を忘れすぎだ。」
椅子で
首の角度を変え視界の端にレイを収めると唇が動く。
「分かったような口を聞くなよレイ。お前に何が分かる・・。親を嬲り殺され、のうのうと生きる『
逆鱗に触れた事はレイでなくてもすぐに分かった。だけどもレイも引き下がらず口を開く。
「分からないよ・・。僕には超能力も
「『寂しい』?そうか、お前にはその程度に見えるんだな。それもそうだ。お前に分かるはずもない。あそこで生まれたお前に――――。」
「それはズルいよ空真くん。」
この部屋唯一の扉が開き、女が空真の言葉を制止する。
綺麗なツインテールをふわふわとさせながら女は空真たちの向かいに座った。
「空真くん。今言おうとした言葉を最後まで言い切ってしまったら、君は『被害者』から『加害者』に変わる。それで気が収まるの?」
優しく語るがその表情は決して笑っていない。
その眼に圧し伏せられ、空真は黙る。
「自己紹介が遅れたわね。あたしはクラリッサ・プランタイン。
「・・自己紹介をするために捕まえたわけじゃないですよね?」
「そう話を急がないの。まずは、そうね。レイ君、あなたに私たちは謝罪しなければならない。」
そう言うと、細い身体を綺麗に背もたれから浮かし、そのまま見惚れるほど綺麗に頭を下げた。机に頭を着けんばかりに下げたまま言葉を続ける。
「あの時、あたしたちの部隊が『
クラリッサの頭頂部を睨み付け、何かを口に出そうと口を開き、閉じる。
「いいよ。君を罵っても皆は帰って来ない。あの苦しい日々が無くなるわけじゃない。」
言い聞かせるようにそう言う。
「それにね、僕は結構な臆病者なんだ。臆病だからもうあの日の事は思い出さない事にしているのさ、怖いからね。」
普段と差して変わらず、明るく振る舞うレイ。しかし空真は見逃さなかった。その手が堅く閉じ、込めた力を抑える如く震えていたことを。
悲しい気持ちを強く強く抑えている。目の前のこの女を頭ごなしに罵倒したい気持ちを飲み込み、耐えている。俺はどうだ?強い憎悪をぶつけるも届かず、それをレイにぶちまけているのじゃないか?レイのように耐えるべきなのか?いいや、無理だ。この気持ちだけは、この想いだけは―――。
「レイ、すまなかった。」
その様子を見ていた空真も自然と謝っていた。
「幾分か頭が冷めた。お前に強く当たるの間違いだな、すまなかった。」
「いいって!いいって!僕が深入りしすぎたのは分かってるんだ!ほら、顔上げて!」
前と横から頭を下げられる構図に、レイは困り果てる。
(ていうかこの女の人いつまで頭下げてるつもりだよ?空真も下げる止めないし・・。気持ちを即行動に移してテコでも動かない。案外、似た者同士なのかも?)
どう対処していいか分からないこの状況を切り抜ける為、頭をフル回転させる。
「あ!そうだ!クラリッサさん、何か用があったんですよね?」
「あ、ああ。そうだ、君たちを逮捕までして連れてきたのは訳があってね。まずは手錠を外すわ、腕出して。」
言われるがままに二人が手首を出すと、その手錠を指で
「まさか―――。」
そのまま紙粘土でも扱うかのように錠を千切った。
(この人、本当に人間なのだろうか・・・。)
驚きを通り越して呆れるレイに対し、空真は真剣な眼差しでそれ見ていた。
「話って言うのはね、君たちを『保護』したいって話なの。何の含みも無く純粋な意味でよ、誤解しないでね。」
「それはまた何でだ?」
「あなた達が目立ち過ぎてるからよ。反社会的勢力の数々にちょっかいかけてきたのはあたし達の方で調べが付いてる。今は何とか逃げ切れてるけどいつかそうはいかなくてなるわよ。今はまだ小さな尻尾を踏む程度よ。でも、いつか大きな尻尾を踏んで痛い目をみるわ、あなた達は『敵』を舐め過ぎている。」
空真の方へ首を向ける。
「空真くん、あなたは自分が稀な能力があるからって驕り過ぎてる。確かに世界干渉系の能力は稀よ。だけどね、これだけは覚えといて。『能力の優劣で強さは決まらない』わ。さっき見たから良く分かるでしょう。」
「・・・・・。」
「次にレイ君、君も同じよ。あなた程度の
「今まで『逆流』されたことも、ましてや『痕跡を残した』事もないのに?いい加減な事言わないでください!!」
「いい加減、ね。なら、あなたのポケットにある端末の権限をうちの部門長が強奪するから見てなさい。」
ポケットから急いで端末を取り出し中身を確認する。
「そ、そんな・・・!?」
中に蓄えらていたフォルダや実行コマンドが消去されていくのを見せつけられるレイ。キーボード出し、『割り込み』を行おうとするも、何一つとしてレイのコマンドを受け付けなかった。
「これで分かったと思うけど、あなた達のしている事は『IQ200の天才小学生がマフィアのアジトに乗り込む』、そんなレベルの事なのよ。それにね、あなた達は普通なら保護されるべき身分にある。」
一呼吸置き、続ける。
「『東京事変』で両親を失った青年、研究施設から逃げ延びた被験者の少年。あたし達はね、あなた達のような理不尽の被害者を守るためにいるの。その秩序を守る為ならばどんな相手にも戦うわ。だから安心して。」
空真はレイの顔をチラリと見る。それで何か伝わったのかレイも小さく頷く。
俯き、目を瞑り深く呼吸する。二秒ほど制止したかと思えば顔を上げ目を開く。静かに息を漏らし、空真は言葉を発する。
「『保護』は結構です。俺らは俺らの目的に向かって進みたいです。なので、世界秩序機関に入れてください。」
真剣眼差しをクラリッサへと向ける。その顔は何か吹っ切れたような爽やさがあった。
強い決意の眼差しに見惚れる。
「い、いいのかレイ君ッ!君は『機関』の名を毛嫌いしているのだと思うけど?」
「そうですね、昔を思い出して嫌だなぁとは思います。だけど、『空真がいる場所が僕の場所』ですから。あいつが対等に話せるの、僕くらいだけですしね。」
そういうと日溜まりのような笑顔を向けた。
「うーーーーん。分かったわ、降参よ。あなた達を迎えるための手続きを進めるわ。今晩、本部へ飛ぶからお土産買いたかったら今のうちにね。さて、局長にメール見ていただけるかしら・・。」
「・・ところで、レイ。」
真剣な顔でレイへと向く。
「どうしたの空真?行きたいところでも中華にあるのかい?」
「・・・・世界秩序機関って何するとこなんだ?」
二人の動きが止まり、目を丸くし空真を見つめる。
(飛行機の中での話題は決まったわね・・・。)
クラリッサはツインテールを指で梳きつつ、気付かれないように溜息を漏らした―――。
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