第2話 ただ一人の共犯者
――――東京某所 某マンション 三○一号室
爽やかな風がカーテンを揺らし、光が差し込む。まだ日が高いこともありリビングは灯りを付けずとも明るい。ソファ、椅子、机と最低限のものだけがある殺風景なリビングは牢獄のようにも思えた。
そんな牢獄空間の椅子に、中性的な顔つきの少年が鼻歌混じりに座っている。椅子が大きいのか、はたまた少年が小さいのか、少年が
「あーあー、
手元にあるタブレットPCの画面を見ながら言葉を漏らす。
「能力を過信しすぎなのかなぁ~?こりゃ帰ったら小言だぜ♪」
少年は椅子を回転させ、タブレットを操作し始めた。遠心力のままにブロンドの長髪が揺れる。束ねられたそれは回転するプロペラのようだ。
画面を操作し、タッタタタ、と小気味好い音を奏でていると、独り言の登場人物が宙に現れそのままソファに着陸する。
「ちょっとぉ!玄関使えって前も言ったじゃんかぁ!」
「靴は脱いである。」
「そういう問題じゃないよ!」
ぷくぅっと膨れ、あからさまに憤慨の意を表す少年。それを気にする様子も無く、無造作に伸びた髪をかき上げながら空真はキッチンへと歩いていく。
「レイ、お前と組んで三年になるが一つ思ったことがある。」
冷蔵庫から炭酸水を取り出す空真。
言葉の続きに興味を示し、キッチン間に設けられた吹き抜けから「レイ」と呼ばれた少年はその様子を目で追っていた。
「お前、顔だけじゃなくて性格も女っぽいな。」
「な、なんだと~!? 」
プシュ、と気持ちのいい音が響きパチパチと気泡が弾ける。飲み口からほんのり冷気が漏れ出し、熱と汗が入り混じった皮膚を労っているかのようだ。
汗を拭い、喉へとそれを流し込みながらリビングへと戻る。筋肉質で背も高めの空真が行うと、その所作はまるで飲料水のCMかのように様になる。
「レイ、お前が優秀な
全く驚いたような素振りは見せず、真顔で、尚且つ平坦な声で本人への偏見をぶちまける。
レイ本人も今の話のどこまでが冗談か測り兼ねていた。
「よくもまぁ本人を目の前にして偏見を語れるね空真くん?」
これまた気にする様子も無くソファに寝そべり、器用に炭酸水で喉を潤していた。
「能力者ってのはみんな君みたいなのかねぇ・・・。そういえばさっきの強盗、どうだったの、アレ。」
「スカ七、当たり三ってとこだな。」
「(ほとんどスカじゃないか・・・。)」
やれやれ、と身振りするレイに対して空真は言葉を続ける。
「接触元は国際郵便だった。ゴミ箱から見つけた封筒によると差出は北京だ。ほら。」
横になりながら腕を伸ばし、封筒を渡す。
「ほんとだ、北京の郵便局から出てるね。まぁ問題は差出人の住所がどこかなんだけど、これ多分
「だろうな。」
飲み終えたボトルを床に置き、口からゆっくりと炭酸を逃がす。
「だから中華へ渡るぞ。少しでも早く情報がほしいから五日後に経つ。準備しといてくれ。」
「き、急だね・・・。第一、僕らのパスポートどうするわけ?」
「
「だろうね、スキャン後即レッドアラートだよ。」
「そこでお前の出番だ。」
はぁ、と溜息を一つ。レイは、「さも呆れてます」といった具合にしかめっ面をする。
「人に偏見ぶつけたり頼み事したりと・・・。空真は無神経というか図々しいというか・・。」
「結構気にしてたのか、そいつはすまなかったな。それで出来ないのか?」
「僕を誰だと思ってるんだい?“枝”さえ張れればなんとかなるさね♪」
「頼りにしてる。それじゃあ俺は寝るから頼んだ。ふぁ~あ・・・。」
そう言うと空真は横を向き背もたれに顔を埋め、寝息を立て始めた。
「少しは手伝ったりとかさぁ」や「結局僕任せなんだから・・」等とレイが独り言を出してはいるが、聞こえているかは定かではない。
*
能力者はその能力の行使に脳の演算機能を限界近くまで使う。更に空真の能力は『世界干渉系』という系統に分類され、能力を使用した際の“反動”を強く受けていた。故にこれ以上に無いくらいに脳に疲労が蓄積していたのだった。
「『世界の修正力』・・とか言ったっけな。案外苦労してるのかな、空真も。」
複数のタブレットを操作しながらも考え事に興じるレイもまた、常人の域から逸脱しているのだがそれはまた別の話。
「そう言えば空真の能力、なんて言うんだっけなぁ?うーん・・?しぇいくナントカだった気がするんだけどなぁ?」
タブレットに文字を打ち込みながら、うーんうーん、と唸るレン。その邪気の無い童顔からは
「・・・『
ソファから平坦な声が届く。レイが手を止め、目を向けると先ほどと態勢変わらずに寝息を立てている。
レイはその様子をしばらく見た後少し満足気に微笑み、鼻歌を歌いながらまたタブレットを触り始めた――――。
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