第4話 地下に向かう3人
会長と同じ組じゃなくてよかった。あの人無茶ぶりはする、こちらの気持ちも構ったもんじゃないと突き進む。正直しんどん。けどいつも最後にするあの笑顔で全部許しちまう。惚れた弱みだな。
階段を先頭で下る。ここに来るまでレントゲン室や2階の診察室で横切る何かを見た気がする。でも藤橋や田中のビデオには何もなかった。人数が多い割に狭い範囲で動いたから全員の動きを把握しきれていないから何とも言えないが。
俺は指向性のマイクを動かし、ヘッドホンを片耳に当てているが聞こえるのは外の野良猫の鳴き声位だ。
3人だともうちょっと鋭敏になるので色々気づけると思う。藤橋が何か映してくれると会長も喜ぶと思うが。
空調が効いてないから階段を下っていくだけで少し涼しい気がする。
2人ともちゃんとついてきているか。声を掛け振り返る。二人とも返事をするがマイクを向けてしまったためヘッドホンから二人の声が音割れし大きく聞こえて顔をしかめる。
一番後ろは怖いから嫌だと言ったのはどれくらい前だろう。中学生の時、臨海学校で肝試しを海岸近くの観光洞窟で行った事がある。
あの時先生があの洞窟は戦国時代に隠れキリシタンの幼い姉妹が逃げ込んだけど潮が満ちて出られなくなって溺れ死んだなんて言ったから妙にビビっていた。自分らの班が行ったときにじゃんけんで負けて一番後ろになった。
何か声が聞こえたと思った時に丁度首筋に冷たいものが感じて驚いて叫んだな。
後で首に感じたのは天井から雫が落ちただけ、声は洞窟が風を反響させているだけ。そう言われて納得した。怖いと思うと自分の感覚すべてが怖いものと勝手に結び付けて感じる。そう前期の心理学の講義で教授が言っていた。全ては思い込みだと。
実際に存在してるもの達と違う妖怪の多くも人の心が均衡を保つために作り出したのだ。まったくそうであってほしいもんだ。
廃病院とか入るのは初めてだが、俺らの起こす振動でたまに天井の欠片がぽろぽろ落ちてくる。
頭に落ちた事を感じたので手で払う。きゃっと、布藤先輩がちょっとだけ踏み外す。いちいちこの人は可愛らしい。どうすればこの人を彼女に出来るのだろうか。
また頭に落ちて来た。全く古いな。払いのけ下げた肘にあの時と同じ冷たさを感じた。
上を確認する。踊り場へ続く天井には剥きだしのパイプがある。
何だ、ほら、水道管だ。怖いと思うから怖いのだ。ハンカチで恐怖心と一緒に拭き取った。
しおりは昔からこういう探検が好きだった。
2人でツチノコを探して遭難しかけた事に始まり、中学校の校舎の屋上に侵入しUFOを呼び続けた。ふと廊下を走る先生に気づいて逃げた。
ノストラダムスとマヤ文明について調べるため国会図書館に侵入した。伯父さんの目を盗みコピーした見取り図が役に立った。
大学生になりお金と時間に余裕ができて移動手段に車を得てからは色々な心霊スポットや軍事基地に行った。
私の役目はしおりにブレーキをかけるのでは無く、引き際を教える事。よく見極めが天性のものだと言われるがそれは間違いだ。
本当に危ない所。新種の知性体を見つけた時や無味無臭の超磁場や重力点を訪れた時、
しおりは必ず武者震いの様に肩を揺らす。他にも色々な要素を判断しているのだ。
長い付き合いなのだ。それが分らなくてはしおりの隣は歩けない。
きゃっ、と何かを踏み、階段を踏み外す。すぐに下に居た安田君が支えてくれた。この子また太ったかしら。大丈夫よと二人に言い、下を見ると布片があった。
踊り場にはボロボロの扉があり〈リネン室〉とある。
中を調べるか悩むが、安田君は降りてしまうので後を追う事にした。あんまり心霊現象的なものが起きないため警戒心が薄れていくが、私は覚えている。病院の駐車場で確かにしおりは震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます