第一章 15.真実(ジダン編)
ジダンはとある部屋の前で息を潜めていた。
「くそっ、やはりそうだったか……報告しないと……」
外は雨がぱらつき始めている。月や星も見えないどんよりとした夜だった。
そんな夜に慌ててティスタの元へ向かう。
彼はいつも元気なそぶりを見せてはいるが、結婚式が近づくたびに日に日に気落ちしているのが分かる。
そんなティスタに
密偵を頼まれた時、キレリア女王に聞かされていた。
ゴル帝国に『不穏な動き』が見られると。
だがそれは予想だ。
万が一に備えてのこの密偵任務だった。
彼にもうこれ以上の苦しみを与えなくていいはずだ。
だからティスタには黙っていた。
この予想が的中しないことを願って。
「なのに……こんなことってあるかよ!」
だが、この敵国で今頼れる者は彼しかいない。
そして誰よりもセーレを愛しているのも彼だ。
この重い現実を受け止めきれなくとも、動かなくてはならない。
例え、苦しみもがきながらでも。
「兄ちゃん! ここにいたか!」
庭にいるティスタを見つけた。
振り向く彼の目が少し赤い。
「ジダンさん、どうしたんですか?」
自分のこの顔を見て、なんだか不安そうだ。
「いいか、落ち着いて聞けよ、お願いだから!」
「……はい」
「セーレ様が……囚われているんだ、下にある岩壁の洞窟で……命が危ない……」
「え……」
ティスタの顔から血の気が引いていく。
「よく聞け、俺がセーレ様を助けにいくから、兄ちゃんは馬に乗ってリンガー王国に通達しろ! お前のほうが体重も軽いし、早いはずだ! 助けに行きたいのはもちろん分かるが、ここは辛抱しろ!」
「……ちょっと待って下さいよ……何が起こってるんですか……明日は結婚式だったはず……」
下を向き小刻みに震えている。
そんな彼をこれ以上見ていられない。
「そうだったんだ、そのはずだったんだ…! だがこうなっている、これは現実なんだ。まだ戦争は終わっていない……!!」
「くそっ!!」
「ちょっと待て、冷静になれ!」
ティスタの肩を掴んだこの腕を払いのけ、その真っ青な顔で下の岩壁へ強く駆け始めた。
「……彼女を助けます」
「待てって!」
瞬く間に行ってしまった。
(止めることが出来なかった……)
ジダンは今から馬を走らせ母国へ通達に行けたとしても、間に合わないことを知っていた。
だが、彼を危険な目に合わせたくはなかった。
あんなにも純粋にセーレ王女を愛し、彼女の幸せを願って生き抜こうとする彼を。
時間がない。
今出来ることは二人で王女を助けることだ。
限りなくゼロに近いとしても救う方法はもうそれしかない。
「くそったれ!」
誰に言ったわけでもない、ただこの腐った現実に少しでも歯向かいたかった。
一体どこまでこの世界は続くのか。
不穏な空の下、ジダンはティスタの後を追うのだった。
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