第一章 15.真実

 夕日も落ち、次第に雨がぱらつき始めた。

 どんよりとした夜だ。

 ティスタはセーレの結婚式を明日に控え、城内の庭で星一つ見えない曇り夜空を見つめ、物思いに沈んでいた。


(一人で落ち込むのはきっと自由だ……)


 そう思いながら。


「兄ちゃん! ここにいたか!」


 ジダンだ。

 遠くから慌てたようにこちらへ掛けてくる。


(何かあったのか……?)


 息を切らす、彼の表情はなんだか暗い。


「ジダンさん、どうしたんですか?」

 

「いいか、落ち着いて聞けよ、お願いだから……!」

 

 嫌な予感がした。


「……はい」


「セーレ様が……囚われているんだ、下にある岩壁の洞窟で……命が危ない……」


「え……」


 信じられないジダンの言葉に、目の前が真っ白になった。

 それは冗談でも聞きたくない言葉だった。


「よく聞け、俺がセーレ様を助けにいくから、兄ちゃんは馬に乗ってリンガー王国に通達しろ! 兄ちゃんのほうが体重も軽いし、早いはずだ! 助けに行きたいのはもちろん分かるが、ここは辛抱しろ!」


「……ちょっと待って下さいよ……何が起こってるんですか……明日は結婚式だったはず……」


 震えが止まらない。

 それと同時に言葉にならない程の怒りが込み上げてくるのが分かる。


「そうだったんだ、そのはずだったんだ…! だがこうなっている、これは現実なんだ。まだ戦争は終わっていない……!!」


「くそっ!!」


「ちょっと待て、冷静になれ!」


 ジダンの腕を強く振り切った。


「……彼女を助けます」

 

「待てって!」


 ジダンの声を浴びながら雨の中を突き進む。

 気が狂いそうな怒りと、崩れ落ちそうな悲しみと共に、この足は動いていた。


「お願いだ……無事でいてくれ……」


 彼女にもらったこの剣を力強く握りしめ、そう何度も必死に願うのだった。

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