エピローグ☆ぴっちぃモノローグ
第54話 帰還
かっぱっぱもぺんも、いつだって素直で一生懸命で前向きで、よく頑張った。ほんとにいい子たちだ。
この子たちと一緒に旅をしたことを、ぼくは忘れない。
彼らにとっても、すごい冒険だったはずだ。良いぬいぐるみ人生経験になったと思う。
かっぱっぱとぺんの魂は、いつもおにいちゃんとちびにいちゃんに遊んでもらっている実体に、間もなく帰っていく。
ぼくの実体は行方不明だけれど、この家のぬいぐるみたちは、魂のみの参加でもぼくを仲間に入れてくれる。
みんな、いいやつでよかった。ありがとう。
あの世からはるばるやって来てくれたもーにちゃんは、ぼくらを温かく包んで、旅を支えてくれた。
そういえば、昔もーにちゃんと一緒にいた頃の懐かしい思い出を語り合うことはあまりなかった。せっかく久しぶりに会えたのに、惜しいことをしたな。
もしもいつか、ぼくの実体がどこかで正しく処理され、ぼくの魂があの世へ行くことができたなら、また会える。
そのときはじじさまにだって再会できるんだ。そうなったらいいな。
でも、もう永久に会えないかもしれない。それはそれで仕方のないことだ。
もーにちゃん、あの世へ帰ったら、じじさまによろしくね。また幸せに暮らすんだよ。
ぼくはママのぬいぐるみとして、この上なく光栄な仕事をさせてもらったよ。ママの魂に必要なものを集めてきたんだ。
それは、ママの命のためにも必要であることもわかった。
それから、ぼくは気づいてあげられなかったけど、パパの魂もダメージを受けていたことも知った。
きっとパパも、いろんなことを我慢して傷つきながら、頑張っているんだね。
最後にV茄子さまからいただいたイヤシノタマノカケラは、パパの魂にも役立つはずだ。
ジュピ田さんちの玄関先で拾ったのは 一歩踏み出そうとする意志
サターンワッカアルの時計台で取り戻した
裏の巣から分けてもらった 子育てのエネルギー
ネプチュン鳥島の海の神様から教わった 死別の摂理
マーズタコ湖で出会った もうひとつの運命
マキュリデバ高原の仲間が勝ち取った 勇気
V茄子ブリッジで掛け直してきた 愛の誓い
ぼくのリュックの巾着袋に集まった、七つのイヤシノタマノカケラ。
・・・ド〇ゴンボールみたいだ。
ふと、背後になにやら気配がして、ひゅるひゅるるっとまたなにかが顕われた。
ま、まさか・・
うそぉ、まだ呼んでないぞ。
振り向いてみても何も見えない。
けれど、確かになんかいる。べっとり絡み付いてくるような気配だ。
それは感じ覚えのある気配のようでもあり、嫌な予感も抱かせる。
またまたヘンなやつが登場してきたのか?
「ヌレオチババだわ」
と、もーにちゃん。
「ママに取り憑くのよ」
それって何? 霊? 妖怪? ポピュラーなやつ?
「うーん。あたしもよく知らない。あの世のものではないからこの世のものかもね。名前と、それ自体姿形を持たないってことくらいしか知らないけど、ママの未来に食い込んでいくのよ」
話しかけてみようか?
「無駄よ。反応しないもの。黙ってくっついていくだけよ、きっと」
どうやらこれはぼくたちの手に負える相手ではないらしい。ママ自身が対処するしかないのだろう。
またひとつ、やっかいなものをママは背負い込まなくてはならないのか?
「さあ、帰りましょう」
空飛ぶもーにちゃんに乗ったぼくたちは、パパとママとおにいちゃんたちが住む町へ帰ってきた。
V茄子ビレッジからはワンプラネットしか離れていないこともあってか、最後の行程に関しては、もーにちゃんの地図に詳細なナビは出てこなかった。
見覚えのある時計塔のイラストと、〈ご苦労さま〉と一筆。相変わらず下手くそな絵だ。
べつにジュピ田さんはサボっていたわけではない。然るべき理由があることはぼくには解っている。
ぼくたちは、この町のランドマーク、J.S.T.M.の時計塔を目標に飛んできた。
東経一三五度の日本標準時子午線が通っている天文科学館の時計塔だ。
J.S.T.M.とは、Japan Standard Time Meridian の頭文字だ。M.が何の頭文字か知らない人が多い。
一般の地図で見ると、東経一三五度線は、天文科学館の位置から若干ずれている。
一八八〇年代に国際子午線会議の決議を受けて制定されることになった標準時であるが、二〇世紀になってこの町の経緯度を測量した大学教授が『東経一三五度はここ』と地面にチョークで引いた線が人に踏まれて消えちゃったので、天文科学館建設工事の現場監督が、近くに残っていた子どものドッヂボールコートの線上に基礎を建てちゃったんだろうか?
そうではない。
では測量ミス?
それもちがう。
東経一三五度線は、三本あるのだ。地図上のは測地経度といって、世界測地系と日本測地系(旧)の二種類、二本の線。
J.S.T.M.のほうは、天文経度における東経一三五度線。
どれも正しい。
地球が幾何学的にすっきりした形をしてくれてないからややこしいのだ。
人工衛星がより正確な地球の姿や我々の位置を教えてくださるもんだから、測地学と計算式と製図技術が三つ巴に絡まってどんどん複雑化する。混乱しちゃうじゃないか。
だから、いつも地図をあてにしてはいけない。そもそも地球の表面に最初から経緯度線が引いてあるわけではない。
ジュピ田さんも、ナビを過信しないようにね、と、ちょいと教えてくれたらしい。
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