第51話 V茄子さま

「あったりー! よくわかったわね、こぐまちゃん。そりゃそうよね。愛と美の女神ですもの。この美貌を見れば誰にだって一目瞭然よね。ははは」

 いやそーゆーわけではなくて、とも言えず、ぴっちぃは絶句する。

〈たまたま名前が挙がったときにタイムリーに現われたから・・・。あーあ、やっぱりこのおばさんがV茄子さまか。なんかイメージ違うんだけど・・・〉


「ゆうべも遅くまでカップルが五月雨式にやって来て、南京錠のまじないをして行くもんだから、雑用が多くってさあ、ここんとこずっと寝不足なのよね。あーお肌に悪いわ、まったく」

 そーゆーわけでお肌も荒れてるわけだ。みんなは妙に納得して頷く。


「起こしちゃってごめんなさい、V茄子さま。ぼくたちは旅のぬいぐるみです。主人たちのために探し物をしているのです。まだ眠かったらもうひと眠りしてからでも結構ですので、ぼくたちのお願いをきいていただけませんか?」

「いいわよ。でももうひと眠りしちゃったら今度は午後まで起きられないわ。私、低血圧だから朝が辛いのよ。ま、今日はもういいわ。このまま起きてあげる。珍しいお客さまたちだもの。あ、ちょっと待ってね。顔洗ってくるわ」

 がさつそうでちょいともたもたしてるけど、悪いおばさんではなさそうだ。


 しばらくして、

「おまたせ」

 と戻ってきたおばさん、いやV茄子さまは、どこから調達してきたのか、淹れたてのたっぷりのコーヒーと人数分のカップをトレーに載せている。いい香りの湯気がほかほか・・・。

 みんなはモーニングコーヒーでほっこり落ち着いた。


 V茄子さまはコーヒーにどっさりお砂糖を入れて飲んでる。それで血糖値が上がったせいか、すっかり機嫌が直り、お肌の色艶もこころなしか良くなったみたいだ。

〈愛と美の女神〉って言われれば、そこはかとなくそのような気品だって漂う・・・ような気がしないでもない。

 V茄子さまは神様のくせにとてもフレンドリーで、近所の普通の呑気なおばさんのような気さくさでぴっちぃたちに接してくれる。

〈神様がこんなのでよいのだろうか?〉

 と、ちょっぴり心配になっちゃうくらいだ。

 

 ぬいぐるみたちは、コーヒーをおかわりしながら、それぞれの生い立ちやご主人さまたちの状態、これまで旅をしてきて幾つかのイヤシノタマノカケラを手に入れた冒険譚、そろそろ虚体としての限界が近づいてきてるらしいから、この村で最後の上等のイヤシノタマノカケラを見つけたいという願い、等々、V茄子さまにかしこかしこみ申し上げる。


「いい子ね、あなた達。ここには毎晩たくさんのカップルが訪れて願い事をしていくけれど、ぬいぐるみが来たのは初めてよ。若いカップル達って、利己的なのが多いのよね。なのにあなた達ったら、自分のためじゃなくて、ご主人さまのために苦労して旅を続けてきたなんて、ほんと偉いわぁ。感心しちゃう」


「恐縮です。でも、ぼくたちも、この旅でいろーんな人に出会い、みなさんに親切にしていただいて、素晴らしい体験をすることができたので、楽しかったですよ。

 とても悲しい出来事もあったけど・・・」


「ああ、ネプチュンさんとこの若者達ね、私もBCCメールで読んだわ。なんせあそこはここよりうんと田舎だし、もともと平和な島だから、あんまし事件とか起きないのよね。バラ中のカリスマ社長が自首したなんてのは、あそこにしては珍しくちょっとした噂になる情報だったわよ。

 そのバラ中社長は罪状認否では全然争わなくて、公判はスムーズに進んでるみたい。ま、実刑は確実なんだけど、ネプチュンさんの子分達は、懲役何年になるか賭けをしてるらしいわ」


「『ネプチュンさん』って、もしかしてネプチュン鳥島の海の神様のことですか?」

「そうよ。あの寝ぼすけおやじったら、ビイル薔薇臭素を世界じゅうに拡散させちゃってさぁ。おかげで人類が大繁殖して結構大変なんだから」


 みんなが語り合っている間、無限大記号もどきはV茄子さまの周りをひらひら飛び回っている。時折ふんふんと鼻歌も聞こえてくる。なんだか嬉しそうだ。

 V茄子さまの頭に留まると小さな髪飾りのようだし、耳元で光ればイヤリングみたいだ。

 V茄子さまのほうも、もどきをうっとーしがる様子もなく、自分の周りをきらきら舞うように浮遊するもどきちゃんを喜んでいるふうでもある。

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