第21話 お持ち帰りの方法
一晩かかって、ウースとぺんは翻訳作業を終えた。
「あ~疲れた~~!」
「うーん・・・・」
ぴっちぃはちょっと頭を抱えてしまう。
やはり、裏の巣にイヤシノタマノカケラを象徴するパワーが秘められていることは確かなようで、その点は嬉しいのだが、
〈しかし・・大山鳴動して鼠一匹というか、結論の部分がどうも頼りない。『気持ちの問題』って、そんな非科学的なことでいいのだろうか?〉
ウースは素朴だった。
「そっか。そんな原始的なことでいいんだ」
そう言いながら、本棚から五巻セットの文庫本を引っぱり出してくる。
『金枝篇』
そうだ。ぴっちぃも思い出した。
〈ぼくも見たことあるぞ、この本〉
「いわゆる共感呪術ってやつだよ。類似あるいは模倣の原理によるものと、感染あるいは接触の原理によるもの、の二類型に大別される。模倣や接触によって、霊的な力とか
「?」
ウースが説明してくれたが、かっぱっぱにはちんぷんかんぷんだ。ぺんは寝ちゃった。
「鳥のご主人が言ってたように、石にパワーをコピーして持って帰ろうか・・」
カロン付近の地面に転がっている石に、この件をお願いしてみよう。
事情を説明し、何個かの石にきいてみた。
ところが、ここの石はなにしろ生粋のドワフプルト石たちだ。
サターンワッカアルで大勢の他地方出身石の間で世間の荒波に揉まれて多少ともソフィスティケートされたあの石どんとはちょっと違う。
何が違うかというと、ここの石たちは超ディープなドワフプルト弁なのだ。
ぴっちぃたちが話しかけるとお返事してくれて、とてもフレンドリーにお話してくれるのだが、言葉がさっぱりわからない。
ウースに通訳してもらいながら、なんとか聴き取った話はおよそ次のとおりだ。
原語のままではさっぱりわからないから、標準語訳でお届けします。
「ぬいぐるみちゃんたち、まあ遠くからよくドワフプルトへやってきたね。ウェルカム!
君たちが到着したときから、我々は話を全部聞いていたよ。
ウース君も、ネプチュン鳥語研究、よく頑張ったねぇ。
実は我々石は、年の功っていうか、ヒマっていうか、いろんな生き物の言語がたいてい解るんだよ。マルチリンガルさ。
ところが、ネプチュン鳥の言葉は独特の強い訛りがあって、十年以上も毎年聞いててもほとんど何を言ってるのか解らなかった。それをウース君がわずかな期間で解聴したんだからたいしたものだ。
ぺんちゃんも健気に発音練習を続けていたし、偉いなぁ。
それで、君たちからご依頼の件だけど、まず、石に目をつけたのは概ね正解だ。
共感呪術の道具として、石はかなり広範囲にわたる時代および部族において使用されてきた。大小の違いはあるけどね。媒体としては第一級だ。
だから、裏の巣のパワーを石にコピーしたらどうだって言うあのネプチュン鳥はなかなか理解があるね。
しかし問題はだね、ドワフプルトの石はきわめて地元密着型であるということだ。
ここは田舎だから我々もヒマなので子沢山だ。大家族だ。
カロンの木の〈裏の巣〉のエネルギーは君たちの想像以上に強力なんだよ。
ドワフプルトのカロンに〈裏の巣〉があるように見えるが、むしろ〈裏の巣〉があるカロンにドワフプルトが内包されているともいえるくらいだ。
カロンの木は根っこも巨大で、この村の地下全体に行きわたっている。
それで、ネプチュン鳥のいう〈時空間軸上の効果〉の影響を土地全体が受けていて、常に接地している石はなおさらだ。みな、家族をとても大切にしている。
ウース君のお姉さんの鞄にくっついて行ってしまった奴はまだ独身だったからよかったようなものの、それでも親きょうだいと離れて暮らすのは辛かろう。
だから、あいつが『アレテーさんのお守り石になった』と聞いて安心したよ。
コピーについては我々も協力してあげたいのはやまやまなんだけど、このような事情ゆえ、単身赴任はちょっときついんだ。
家族全員連れて行くのは重すぎて、もーにちゃんが可哀想だろう?
ほんとに申し訳ないけど、ごめんね」
石さんらしく、堅実なご回答だ。
そうやって話をしている間にも、ネプチュン鳥ご夫妻がせっせせっせと働く声が聞こえてくる。実に働き者だ。
かっぱっぱはつい、うちでいつも昼寝ばっかりしている怠惰なママと比較してしまう。
「あーあ、ツメの垢でも煎じてうちのママに飲ませてやりたいよ」
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