第20話 解き明かされる裏の巣の秘密(2)

(ぺん)えっと、あの、とても難しいのですが、あとで考えます。

 それで、ネプチュン鳥さん、毎年この巣にお見えになるのはどうしてですか? 本来のご自宅は、そのビイル薔薇のお花畑がある、どこか他の場所なのでしょうか?



「ま、うちの家訓みたいなもんだな。十代前のじいさんが抱えてたお宝はどっか行ってしまったが、それと呼応していた巣の中のヒカリモノのほうは巣の奥に居着いちまって出てこないのさ。こんな侘び寂びの巣でも結構居心地が良くなったんじゃないか? 住めば都っていうしな。

 十一代前のじいさんとばあさんは、ビイル薔薇も咲いてないこんな田舎でずっと暮らすわけにもいかないし、かといって自分たちが作ってしまった巣を放置して帰るなんて、発つ鳥後を濁してしまうから鳥の倫理に反する。巣を解体の上、原状回復してから立ち退くべきなんだが、ヒカリモノのやつが気持ちよさそうに寝息を立ててたもんだから、騒音出しても悪いなと思った。それでいちおう自宅へは戻るけど、子どものほうは、結婚したら、新婚旅行を兼ねてこの巣へ戻って手入れをし、時間軸上の効果となる巣のパワー、いわば子育てに悦びを感じるパワーだな、それを利用して、ついでにここで産卵して子育てまで済ませちまう、というのが、代々俺たちの家系の慣例になっているというわけさ」


「それでもね、ペンギン坊やちゃん。ネプチュン鳥の世界ではここ数年少子化が進んでしまってね、それは一生独身でキャリアを磨こうと思う若者が増えたことも原因なんだけど、自宅のあるビイル薔薇畑の環境が徐々に悪化してきて、地元では子育ても大変になってきてるのよ。ビイル薔薇を原料とする製品製造のために工場が次々と建設されてるものだから。

 だったらネプチュン鳥はみんなこの巣で子育てすればいいじゃないかと思うでしょ? でもそう簡単にはいかないのよ。みんなが一度に一つの巣を使うことはできないし、近いところで、この木にみんな巣を作るとしたら、敷地の関係で住宅が密集してしまうから、それも困るのよね。日当たりとか悪くなるし。第一、ネプチュン鳥は渡り鳥ではないのよ。ドワフプルトくんだりまで毎年通ってるのはうちの家系くらいよ。

 それで少子化の件だけど、社会的な要因がそんなだから、一羽のメス鳥が一生のあいだに産む卵の数が激減して、そろそろ子孫が続かなくなる家系も出てきたわけよ。だから、うちだってこの先何代までここの手入れに通えるかわかんないのよね。できるかぎり続いてほしいんだけど。だって、この巣、ほんとに居心地いいのよ。将来うちのヒナちゃんのお婿さんもきっと気に入ってくれると思うわ。ま、この子がキャリア一筋の道を選ばなければの話だけど」



(ぺん)あの、ところで、この巣の、その時間軸上のパワーって、一体何に由来するものだとお考えですか?



「それはね、ちょっとややこしいんだけど。むかーしむかし、あるところに、同姓同名の神様がいてね。正確には頭文字だけ違うスペルなんだけど、〈クロノスさまA〉と〈クロノスさまB〉。Aさまのほうは、時間を統べる神様。エライのよ。そしてBさまも、古くてエライのだけど、そのBさまの父神様が〈ウラノスさま〉っていうの。AさまとBさまがうっかり混同されちゃって、〈ウラノスさまが時の神のとーちゃん〉って誤解されちゃったの。ご先祖さまたちも忙しかったから、細かい差異を追及しなかったらしいわ。おおらかね。既成事実化しちゃえばもうこっちのもんよ。どさくさに紛れて〈裏の巣〉が時間の神様の縁起も担いじゃったわけ。だいだいそんな感じよねえ、あなた」


「おう、そうとも。しかしそれだけじゃないぞ。裏の巣はな、カロンの樹頂を通して天空の神Uranusと繋がっているのさ。こっちがクロノスさまBの親父さんだな。でもって、カロンの根っこを通して大地とも繋がっている。天地が交わるところで、次世代の命を育てる仕事の尊さを体現しているのがうちの家系のネプチュン鳥だ。いわば俺たちは命の代送りの媒介者、裏の巣はその象徴ってわけだ」


「そうそう、だから、あなたたちに必要な〈イヤシノタマノカケラ〉はきっと、〈裏の巣〉のエネルギーよ。だって、あなたたちのママってDamin-Gutara-Syndrome ってことは子育ても手抜きなんでしょ? この巣の神秘的なパワーを少し分けてもらったら? ね、そうすればいいわ」



(ぺん)はい。あの、ではそのパワーを分けてもらう具体的な方法について、なにかご存知ですか?



「具体的方法っていってもなあ。特に決まりがあってやってるわけでもないし。先祖の幸運にあやかろうってつもりで代々通ってるだけだからなあ。ま、適当にゲンをかついでまじないでもするこった。そのへんの石ころにでもパワーをコピーしたつもりで持って帰ればなんとかなるさ。要は気持ちの問題だ。なあ、おまえ」


「そうよそうよ。適当でいいのよ。なんたって子育ては忙しいんだから。細かいこと気にしてらんないわ。ほら、よく〈なんとか地蔵〉みたいなお話があるでしょ? 特定の病に効くとかいう言い伝えがあって、お地蔵さんにお参りして御身体を触った手を患部に当てると治るっていうやつ。ああいうノリでいいんじゃない?」



(ぺん)わかりました。たいへん貴重なお話をうかがうことができました。どうもありがとうございました。



「いえいえどういたしまして、ペンギン坊や。仲間の皆さんにもよろしくね」


「ま、気楽にやんな。幸運を祈ってるよ」


「ぺんちゃん、キャンリィありらろキャンディありがと(ぺろぺろ)」

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