第19話 解き明かされる裏の巣の秘密(1)
さていよいよ、親鳥さんとの会見の日時が設定され、ウースは周到に準備を整える。
まず、サンプル採取の段階において、ンプチュン鳥がものすごく早口であることがわかっていたため、
〈恐れ入りますが、できるだけゆっくりお話しください〉
というフレーズをぺんに練習させておいた。
それに、相当せっかちさんみたいなので、同時通訳方式は断念した。ひと区切りごとに話を中断させてしまうと、ンプチュン鳥さんがイラついてしまうと予想されるからだ。
ぺんはインタビュアーに徹し、あとはンプチュン鳥さんに自由に語っていただくことにする。
ウースはICレコーダーで会話を録音。あとでぺんと一緒にリライトすればいい。
以下、ンプチュン鳥さんご夫妻のお話、翻訳文を掲載します。
なお、ンプチュン鳥さんたちが非常に早口であるため、改行ができなくなっております。
あまりにも読みづらい箇所のみ、作者が人為的に改行をブチ込んでおりますが、全般的にお読み苦しい点がありますことを、あらかじめお詫び申し上げます。
「ペンギンの坊や、いつもうちの子と遊んでくれてありがとう。なにしろ一人っ子でしょ、お友達ができて喜んでるのよ。でもっておしゃべりな子だもんだから、私もいちいち相手してると疲れちゃって。ほら、うち共働きじゃない? 一日中餌取りに出かけて、巣に戻るともう早く寝たいのにぺちゃくちゃ話しかけられるとうっとーしいのよね。だから昼間充分外遊びしててくれると、夜も早く寝てくれるから助かっちゃうわ。
あなた、とてもがんばりやさんね、ぬいぐるみのくせに。私たちの言葉を練習してたでしょ。あのおにいさんにはもうびっくりよ。コンピュータなしで鳥の言語を解析するなんて天才だわね。それから、言っとくけど、私たちの名前はンプチュン鳥じゃないわ。本名はネプチュン鳥っていうの。ああでも惜しかったわね。一字違いよ。私は個人的には、主人のおじいさんとおばあさんがつけてもらった〈バラの花の精〉っていうのが気に入ってるんだけど。弟さんのほうは詩心がないわね。あらごめんなさい、こんなことが聞きたいんじゃなかったわね。えーっとなんだっけ? そうそう、この巣の秘密と〈イヤシノタマノカケラ〉との関係についてだったわね。え?・・
あ、ペンギン坊や、ちょっと失礼。あらまあ、ヒナちゃん、おもらししちゃったの? 巣の中でおしっこしちゃいけませんって言ったでしょ。おかあさんは忙しいんだから。あとでまたおやつ取ってきてあげるわね。ほーら、わがまま言わないの。え? ペンギン坊やちゃん、おやつを分けてくれるの? ええ、いいのよ、何でも。この子は雑食だから。ヒナちゃん、よかったわね、お友達がおやつを分けてくれたわ。ぺろぺろキャンディよ。これでしばらくおとなしくしててね。
この巣については私より主人のほうが詳しいわ。ねえ、あなた。たしか十代くらい前のおじいさんとおばあさんがこの巣を建てたのよね」
「そうさ。十一代前だ。俺もうちのじいさんから聞いたんだが、なんでも十一代前のじいさんとばあさんは翔んだカップルだったらしくてな。結婚したとき、巣作りも後回しにして新婚旅行に出かけてしまったそうだ。そんな新婚さんはネプチュン鳥じゃ前代未聞だったから、結構スキャンダルになったって話だよ。羽を伸ばして世界をほぼ一周するほどの長期旅行をしたんだと。で、そろそろ家へ帰ろうかっていう時になって、嫁さんが産気づいてしまってな。いわゆるハネムーンベビーってやつだ。家までもたないからっていうんで、すぐに適当な場所に巣を構えて産卵しなくちゃいけない。で見つけたのがこの木だったというわけだ。こんな寂れた村にこんな立派な木が生えていたら目立つだろう? だからすぐ見つかったのさ。
なにせ急ごしらえだったもんだから、荒っぽい造りになっちまったが、それはそれで趣きがあるというか、侘び寂びっていうのかな、そんな感じだ。ところが、どさくさに紛れて変なものも一緒に巣に織り込んでしまった。なにやら光るシャボン玉みたいなやつだ。光の加減でころころ色が変わってなかなかきれいだった。変なもんが混ざっちまったがこれもインテリアのひとつってことで、ま、いっか、と思ってそのままにしておいた。で、無事に卵は産まれてヒナが孵ったんだが、それはつまり十代前のじいさまだ。そいつが孵ったとき、羽の中にお宝を抱えてたっていうじゃないか。
ここからはちいと哲学的になっちまうがな、そのお宝はまず、食えねえ。硬いのか軟いのかてんでわからん。触ることもできないんだと。要するに即物的な〈物質〉のカテゴリーからは逸脱してるわけだ。こんな食えもしないもん、捨てちまおうかとも思ったが、取り上げようとすると子が泣くし、気に入ってるみたいだから仕方がないな。そういうわけで、それはまあ気にしないことにした。どうやらそのお宝は親鳥がうっかり巣に織り込んでしまったヘンなヒカリモノの分身みたいなもので、お互い心が通い合っているらしい。それが、理論的には説明のつかない不思議な感覚を家族にもたらしたそうだ。
そいつのおかげで、どんなに手がかかっても親は子をかわいいと思えて、子のために骨身を惜しまず働く意欲が涌いてくるという。次の代のじいさんが推測するには、俺たちネプチュン鳥はそいつに選ばれたってことだ。ネプチュン鳥はな、仲間どうしで争ったりしない、非常に成熟したコミュニケーション能力を、創造された当初から持ってんだぞ。えっへん。
その秘訣はビイル薔薇さ。ネプチュン鳥はビイル薔薇の花畑に巣を作るのが本来の習性だ。このビイル薔薇ってのがいい匂いでな、嗅覚細胞がその匂い成分を受容すると、脳内にある種の快楽物質が分泌される。それは種族の連帯意識を惹起するんだ。一方この巣に織り込まれたヒカリモノはな、子育てをする時期に、実力以上の力を親鳥に分け与えてくれる不思議な擬似物質だ。
すなわち、①ビイル薔薇、②ここの巣、この二者によって、それぞれ ①空間軸、および ②時間軸、において、仲間どうしが世代を越えて仲良くやっていくためのエネルギーが与えられる、ってことだ。ネプチュン鳥に裏の巣ときちゃあ鬼に金棒みたいなもんだ。天が二物を与えたわけだ。わかるか? ペンギンくん」
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