第18話 ぺんの才能、覚醒!
そんなある日、休憩時間にオニごっこをして遊んでいるとき、何気なくかっぱっぱがぺんに訊いた。
「ぺんってペンギンでしょ? だったらトリの仲間だから、トリ語聞いたことあるんじゃない?」
そうだった。
ぴっちぃもあっと気がついて、ぺんに言う。
「水族館にいた頃を思い出してごらん。ペンギンさんたちの言葉をなにか覚えてないかい? 単語だけでもいいから」
ぺんは言われたとおり、ちびにいちゃんちへ来る前に入っていた福袋、その前にいた水族館のおみやげショップ、それから、水族館にいた本物のペンギンさんたちのことを順に思い出してみた。
「うーん・・・あんまり覚えてない・・・。でも・・ほんのちょっとだけなら・・・話せるかもしれない」
みんなはカロンに登り、ぺんが油性マジックの×印で挟まれたポイントに向かって、何とかかんとか思い出した言葉を言ってみる。
「・・λο⊞ξώ⋇ντβχ☄π⊙?」
すぐにお返事が返ってきた。
「ΩΣ♆♨〄▽ΘΩ☮⊋ΓΞΦΑΣΨΥΧΗΔΙΚΑΙΩΣ☆♁々ΘЯЛЖ☭☭!」
おーっ、なんか一気にまくし立てたぞ!
「・・・・・・・・」
「どうしたの? ぺん」
「鳥さんはなんて言ったの?」
「なにかわかった? ぺんちゃん」
ぴっちぃ、かっぱっぱ、もーにが畳みかけるように尋ねる。
ぺんに注目するみんな。
「・・・わかんない・・・」
消え入りそうな声でそう答えたぺんは、そのままうつむいてしまった。
みんなはまたトボトボ引き返した。やっぱり無理だった。
「ぺんが水族館にいたのは赤ちゃんの頃だから、まだ言葉がわからなかったんだね」
「いや、もしかしたら、ぺんの言葉は標準語で、ンプチュン鳥さんのほうが訛りがきつすぎるのかも」
「そもそもペンギン語とンプチュン鳥語って互換性があるわけ?」
「あっそうか。外国語どうしかもしれないね」
最後尾を歩いていたぺんは、うつむいたまま黙ってついて行くが、とてもショックを受けている。
〈ぼくはトリの仲間だったのか。知らなかった。ペンギンのおばさんたちの言葉を少しは思い出したつもりだったのに、通じなかった。あの水族館のおばさんペンギンはみんなオ○サカのおばちゃんペンギンだから、特異な部類に属するのだろうか? ンプチュン鳥さんの言葉も全然わからなかった。ぼくはお役に立てなかったんだ。ママ、ごめんね〉
ちびにいちゃんとママのことを思い出したら悲しくなった。ぺんの黄色いお口がふにゃふにゃと歪み、鼻の穴がヒクヒクしてきて、とうとう泣き出してしまった。
「ふぇ~~ん」
ぴっちぃたちはびっくりして振り返り、泣いちゃったぺんに駆け寄って慰める。
ぺんは涙がもう止まらない。
大声で泣きじゃくるぺんの背中をもーにが優しくさすってやり、ぴっちぃも頭を撫でていい子いい子してあげる。
ぺんがショックを受けていた様子にも気づかずに、無神経なおしゃべりをしながら歩いていたのだ。かわいそうなことをした。
でもぴっちぃは大泣きしているぺんを見てちょっと思う。
〈泣いてもかわいい〉
家へ戻ったら、いつものように父さんと母さんがおやつの用意をして待っててくれてる。
ぺんは泣き疲れて眠ってしまった。ぴっちぃは、もーにちゃんをぺんに掛けてあげた。今日のもーには〈おひるねケット〉だ。
いつの間にかもーにも眠ってしまった。
ウースが学校から帰ってきて、縁側でお茶してるみんなに合流。
ぺんのトリさん語事件の顛末を聞いたウースは、策を練った。
ぺんがお昼寝から覚めると、ウースがぺんを呼び、お膝に抱っこして語った。
「ぺんちゃんは、ペンギン語が少しは解るんだよね。小さいのに偉いな。
僕はね、ちょうどンプチュン鳥の鳴き声からその言葉の意味を探ろうとしていたんだよ。音声パターンと行動パターンのサンプルを何セットも収集して、その規則性を分析し、意味のある言語体系を抽出するんだ」
「・・・?」
後半はちんぷんかんぷんだ。
「おしゃべりヒナ鳥はうるさいけど、おかげでサンプルがたくさん採れたんだ。ねえ、ぺんちゃん。僕と一緒にンプチュン鳥語を学んでみようよ。僕が意味を解いて、ぺんちゃんはそれを発音するんだ。そして、ンプチュン鳥とお話ができるようになったら、ママのイヤシノタマノカケラのことも何かわかるかもしれないよ。やってみるかい?」
ぺんはウースの温かいお膝の上で、こんなふうに励まされ、なんだかちょっぴり勇気が湧いてくるのを感じる。
「・・う、うん、そうだね。ウースにいちゃん。イヤシノタマのために、ぼく、がんばってみるよ」
なんて健気なぬいぐるみなんだろう。
こうしてウースとぺんの共同研究が始まった。といってもほとんどがフィールドワークだ。
ウースの音声解析力はコンピュータも顔負けだ。それに生身の体を使っているから、音声のみならず、視覚および嗅覚的要素や周囲の状況など、多岐にわたる情報を総合的に、一度に入力できちゃうようなものだ。突然停電になったって関係ないのだ。
若者といえども、田舎の子は根気強い。
ウースは膨大な作業をこなし、次々とンプチュン鳥語を解読した。いや解聴したというべきか。
ぺんも、なかなか語学のセンスがあるみたいだ。
単語によっては耳で聴いた音をすぐに正確に発音できちゃったりする。難しい単語やフレーズは、何度も発音練習が必要だが、頑張って練習すれば、ちゃんと言えるようになる。
思いがけない才能が発掘されることもあるものだ。
ぺんは、ママのために一日でも早くンプチュン鳥語をマスターしたかった。かっぱっぱは、ぺんが語学習得に集中できるよう、芝刈りを代わってあげたりしていた。
みんなは、ウースとぺんの努力と、それがまたどんどん成果を上げていくすごさに感心してしまう。
そんな二人のために、母さんは時々、膝枕で耳掃除もしてくれる。これがまた気持ちいいのだ。
短期間のうちに、ぺんのンプチュン鳥語は驚くほど上達した。
裏の巣へ声をかけてみると、お返事の鳴き声の意味が解るようになったのだ。
ご夫妻が餌取りのためご不在の時は、ヒナ鳥がお返事をしてくれる。
ぺんはもう、ヒナ鳥と同程度まで、ンプチュン鳥語会話ができるようになっている。
どうやらヒナは巣の周りをよちよち歩き回っているようだ。
ぺんが油性マジックの印に近づいて枝の上を転がってみたら、ヒナは大喜びで真似っこしている。
こんなふうにして、ぺんはンプチュン鳥のヒナちゃんと仲良しになった。でも姿が見えないから、たとえば透明人間とオニごっこしてるみたいだったりする。
だがいつまでもヒナちゃんと遊んでいるわけにはいかない。目標は親鳥さんから事情聴取すること、そして目的はイヤシノタマノカケラなのだ。
ウースもぺんも、さらに上級のンプチュン鳥語の習得にむけて研究と訓練を続けた。
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