第17話 調査開始

 ウースはぴっちぃたちを家へ招いて両親に紹介した。

 両親も、アレーテイアからのメールで、ぬいぐるみちゃんたちが来ることを聞いていたので、ごちそうをどっさり用意して待っていた。


「あれまぁ! こんたまこちむじ子たっじゃっどこれはほんとにかわいい子たちだよ!」

 と大歓迎してくれた!


 父さんはさっそく、ぴっちぃたちを床の間へ案内して座らせる。

 母さんがお茶を淹れ、お茶うけの漬物や小さな甘いお菓子を、お箸ではさんでみんなの手のひらにのせてくれた。この村ではこのようにしてお客さんをもてなすらしい。


 ただ、ぴっちぃたちにはご両親の話す言葉が、訛りが強すぎて全然わからないのだった。必要に応じてウースが通訳してくれた。


 ご両親は予め、事情をよくご存知でいてくださった。おかげで、ぴっちぃたちはいろいろ説明する手間が省け、その代わりにごちそうをたくさんいただくことができたのだ。


 父さんは、

「ま、一杯呑まんね」

 と焼酎をすすめたが、母さんが、

「ぬいぐるみに酒飲ませてどげんすっとね」

 と止めた。

 結局、父さんと母さんが二人で一升瓶を空けてしまった。


 父さんは声がますますでかくなり、お客さんを歓迎する当地の民謡を朗々と歌ってくれた。母さんも陽気に手拍子して、ウースはシラフで踊ってくれた。なんて素朴で素敵なご家族なんだろう!

 もちろん、ぴっちぃたちも一緒に踊りだしちゃったことはいうまでもない。


 翌朝は、父さんも母さんも昨夜の酔いをまったく持ち越さず、元気にみんなで朝ごはんを食べた。なんて肝臓の丈夫なご両親なんだろう。


 その日からぴっちぃたちは、アレテー家に住み込みで家事や畑仕事を手伝いながら、裏の巣の現地調査を開始する。


 ぺんは、父さんと一緒に山へ芝刈りに行くついでに、おいしそうな木の実を集め、かっぱっぱは、母さんと一緒に川へ洗濯に行くついでに、魚を捕まえ、ぴっちぃは、得意のお掃除やお料理をして働く。


 もーには意外なところで活躍した。

 ウースが勉強するとき、もーにが肩掛けになるついでにウースの耳を塞いであげると、雑音がシャットアウトされて勉強に集中できるのだった。


 なにしろ、つい先日、裏の巣の卵が孵ってヒナが生まれたのだが、こいつがまたおしゃべりなやつで、生まれたばかりのひよっ子のくせに、偉そうにハイトーンヴォイスでぺちゃくちゃしゃべりまくるものだから、我慢も限界に達していたところなのだ。


 もーには、ときには頭巾になるついでに耳を塞いであげることもあった。普通の耳栓ではこうはいかない。暖かいし落ち着くし、とても重宝した。


 みんなは暇を見つけては足繁くカロンの木に通い、裏の巣と鳥(アレーテイアは『バラの花の精さん』とロマンチックなお名前をつけたが、ウースは鳥の鳴き声どおり『ンプチュン鳥』と呼んだ)の観測を続けた。いや、続けるつもりだった。


 ところが、かっぱっぱとぺんには巣も鳥も全然見えない。

 裏の巣は子どもには見えないのだ。

 そうだった・・・。

 ぴっちぃともーにには、たまーにうっすらと見える時もあったが、すぐに陽炎のように視界から消えてしまう。オトナになりきれていないのか? 苦労して人生を歩んできたわりにはまだまだ修行が足りないようだ。


 でもだいじょうぶ。

 昔アレーテイア姉さんがつけた油性マジックの目印のおかげで、目的地点を特定することができるのだ。

 ぴっちぃたちは、見えなくてもせめて気配だけでも感じ取ろうと、近くの枝に座り、裏の巣があるはずの地点へ向かって意識を集中させた。


 一か八か声をかけてみたりもした。

 そしたら、なんと、ンプチュン鳥さんから応答の声を受信した。

 奇跡だ。

 姿のほうはどうやっても見ることができなかったが、声だけは聴き取れるようになった。お話できるかもしれない!


 しかしそんなに甘くはなかった。ぴっちぃたちにも鳥語は解らないのだ。

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