第13話 シブッカー嬢とのお別れ
アレテーさんの力でソプロシュネちゃんを連れ戻したぴっちぃたちは、その足で遊歩道から町役場へ向かい、シブッカーさんが仕事を終えて出てくるのを待った。
次のイヤシノタマノカケラを探しに行くために、このサターンワッカアルともお別れだ。今夜もう一晩だけ、シブッカーさんちに泊めてもらおう。
そして、お別れのごあいさつをしなければ・・。
シブッカー嬢が役場を出ると、
「おつかれさまぁー!」
元気な声とともに、三人が抱きついてきた。昨日のように、もーにも巻きついてきた。
「今日は迎えに来てくれたの?」
シブッカー嬢のでかい顔の硬い表情が緩む。
同僚たちは、シブッカー嬢の笑顔を見るのはほとんど初めてだった。彼女の思いがけない一面が垣間見えた。
〈笑うとけっこうかわいいじゃないか〉
四人は手をつないで家路についた。もーにはそのままシブッカー嬢の肩に巻きついている。
暖かくて愉快な帰り道。
それは、四人で遊歩道を歩く最後の帰り道。
道々、今日の出来事を聞かされたシブッカー嬢は、複雑な思いだった。
ぴっちぃたちと出会ってからの三日間、とてもいい気分だった。
とても楽しかったし、自分の存在が世の中とちゃんと繋がっているような安心感と責任感が心地よかった。
そして意外に早く、この子たちのこの町での仕事は終わってしまった。もうさよならしなくてはならないのだ。
部屋へ戻ると、ぴっちいは石さんたちに目で合図を送った。
かっぱっぱはこっそりピースサインを、ぺんはウィンクを、石さんたちに送った。
〈うまくいったみてゃあだら。よかったがやー〉
石たちも顔を見合わせてこっそり喜びあった。
夕食はみんなでお鍋を囲む。
昨日の残りの大根をぺんがまた一生懸命大根おろしにしてぽん酢に入れた。お肌にいいからと、ぴっちぃは骨つきの鶏肉や菊菜をたっぷりお鍋に入れた。
三人とも、シブッカーさんの美容と健康を考え、シブッカーさんのために頑張った。
たった三回目の夕食がお別れの晩餐になるなんてちょっと淋しいけれど、みんなの気持ちは前向きだった。
ぴっちぃは今日のソプロシュネの一件で、イヤシノタマのひとかけらの尊さを知り、明日からまた続く次なる長い旅路を思い、決意を新たにしていた。
かっぱっぱとぺんは、ぴっちぃほど長期的展望にまでは考えが及ばなかったが、シブッカーさんや石さんたちとの最後の夜を大切に過ごしたいと思っていた。
寝る前にかっぱっぱとぺんは、シブッカーさんのために絵を描いてプレゼントした。
絵の中心に、笑ってるシブッカーさん。肩にはもーにが巻きついてて、エスニックな装いだ。
その周りにぴっちぃ、かっぱっぱ、ぺん。みんな笑っている。
それから、みんなを囲んで踊るようにたっくさん描かれた小石たち。かっぱっぱが昨夜の石さんたちとのおしゃべりを思い出しながら、心を込めてひとつひとつの小石の絵に顔を描いた。
ぴっちぃは字が書けるから、絵の隅っこにシブッカーさんへのメッセージを書き添えた。
〈笑門来福 大好きなひね子さんへ〉
なかなかの達筆だ。
シブッカー嬢はこの絵とメッセージに涙が出るほど感激した。
「すばらしい絵だわ。なんだが縁起がよさそうな絵ね。石たちにもまるで魂が宿っているみたい」
石たちは一瞬どきり・・・。
「私ね、拾ってきた石を身の回りに置いてるでしょ。時々触ってみたり磨いてみたりするけど、たいがいはただ置いてるだけなのよね。でもね、この部屋にいると、なんだか石たちに見守られているような気がするのよ。この絵を見ているとますますそんな気がしてくるわ。心を元気にしてくれる絵だわ。みんな、ほんとにどうもありがとう」
シブッカー嬢は、明日からもこの町で、この職場で、なんとか頑張ってやっていこう、というポジティブな気持ちになっていた。
正直、自分でもかなりひねくれた性格だとは思っている。
生まれつき九〇度、自分の努力不足で九〇度、サターンワッカアルで就職してから九〇度、合計二七〇度ねじ曲がってしまった感じのする根性に、自分でも手を焼いてしまうこともある。
でも、ぴっちぃたちの純粋でひたむきな魂から注がれる素直な思いやりによって、そんな根性がきゅるきゅるっともう九〇度スライドし、最後のひとひねりをくらって正面に戻ってきたみたいだ。
合計三六〇度、元どおりじゃなくて一回転してしまったけれど、それはそれでいい、なんかすっきりしたではないか。
ダークな過去は変えられない。水底の泥は一生、消えてなくなることはないのだ。
でも、沈殿した泥を心の底に持つからこそ、尊い上澄みのささやかな日常を、感謝して生きていこう。
シブッカー嬢は決心した。
「明日からは自炊しよう」
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