第10話 ソプロシュネちゃん救出作戦

 翌朝、シブッカーさんが出勤すると、かっぱっぱは待ちかねたように、ぴっちぃとぺん、もーにちゃんに昨夜の出来事を話した。


 思いがけない展開に驚くみんな・・・


〈この部屋じゅうにゴロゴロ並んでいる小石たちがおしゃべりをする?〉

 ぴっちぃは半信半疑で小石たちを見回している。

〈それに、あの大学にイヤシノタマノカケラが?〉


 そんなぴっちぃの胸中を察してか、ゆうべのあの石さんがぴっちぃにも声をかけてきた。


「くまちゃんよ、おみゃあも若ぇわりに苦労しとるみてゃあだな。おらもきっと、時計台のソプロシュネちゃんがその例のカケラだと思うがや。あのドワフプルト石も何かの縁だで連れて行ってやれや。うまくいくよう、おらたちも祈っとるでよ」


「わぁ! 石さんってほんとにおしゃべりできるんだ! すごいや! わーいわーい!」

 ぺんは無邪気に喜び、さっそくそこらへんの小石に話しかけている。


 ぴっちぃも納得して、石さんたちに感謝した。

「みなさん、いろいろ教えて下さってどうもありがとう。これから行って確かめてくるよ。じゃあ、ドワフプルトの石さん、一緒にまいりましょう」


 三人と一枚と一個は、ソーラーシステム第六大学の時計台へ向かった。

 もーにちゃんが空飛ぶもーにで本当によかった。もーにもお役に立てて嬉しい。



 煉瓦造りの美しい学舎の前に突っ立って時計台を見上げている学生がいた。

 彼女は毎朝、始業前のひとこま、ここに立っている。

 何か理由でもあるのかと友人が訊ねると、

「えっと・・・この時計台の建物がね、なんか好きだから・・・」

 とか適当にお茶を濁して答えていたのだが、本当は彼女は、時計台の上になにか切実なものの気配を感じていて、それがどうしても気になって仕方がない。


 入学直後のオリテでここの制御室を見学したときに、すぐそばで誰かが助けを呼んでいるような気がしてならなかったのだ。

 同時にそれは、なぜか懐かしいような気配がした。


 制御室は普段はひとつ下の階の入り口から施錠されており、もう入ることはできない。

 その〈誰か〉が、ほかでもなく彼女からの助けを待っているような気がするのだ。


〈あの時計台の上に誰かいるのかしら? 何かあるのかしら? なぜ私を求めているんだろう? なぜ私はその気配を懐かしく感じるのだろう・・・?〉

 確かめるすべもなく、もどかしい思いでいた。

 毎朝毎夕、必ずここに立って見上げてしまう。


 そろそろ講義の始まる時間だ。


 教室へ向かおうとして、もう一度振り返って見上げてみたとき、上空をひらひらこちらへ近づいてくるものが見えた。


〈紙? もしかして布? ・・・えーっ! 何あれ!〉


「おおっ! あれはアレテーさんでごわす。おいどんはあん人の鞄の底にくっついちょったでごわす。ああ、懐かしかぁ。おーい、アレテーさーん!」

 ドワフプルト石が手を振って(?)彼女を呼んだ。


「あの人がアレテーさん?」

 ぴっちぃたちも思わず一緒に叫んでいた。

「アレテーさーん」

「おーい」

「ここだよー」


 目の前に降りてきたのは、ぺちゃんこになったベビー毛布のようだ。その上にぬいぐるみが三匹のっかっている。

 くまさんが石を掲げて手を振っている。

 くまさんたちが興奮した様子で・・・

〈私に・・・手を振っている??〉


 目がテンになってしまったアレテーさんに、ぴっちぃたちはおじぎをしてごあいさつした。

「はじめまして。ぼくはぴっちぃと申します。この子はかっぱっぱ、こっちはぺん、そして、このベビー毛布はもーにといいます。それから、ほら! この石はドワフプルトからやってきた石さんですっ!」


「え? ドワフプルト?」

〈私の出身地を知っているの? このぬいぐるみ・・・。超ローカルな村なのに〉

「み、みなさん、どうして私の名前やドワフプルトを知ってるの? あなたたちはいったい・・・」


 そのとき、始業のチャイムが鳴った。

「あ、講義が始まるから。ごめんなさい。あの、あなたたち、何か事情がありそうね。もしよろしければお昼休みにでもお話を聞かせてもらえる? むこうの芝生横のベンチのところにいるわ」

「わかりました。では後ほどまたお会いして、お話させていただきます。お勉強がんばってください」

 ぴっちぃはアレテーさんと約束した。


 アレテーさんの話し方は、字で書くと普通だが、アクセントがこの石さんとそっくりだ。純朴で、あたたかい感じがする。


「さ、ぼくらはソプロシュネちゃんに会いに行こう」


 もーにが再び離陸して時計台の上空をゆっくり旋廻し、みんなはソプロシュネの姿を探した。

 しかし、どんなに目を凝らして見ても、それらしき姿は見当たらない。


「彼女の声は確かにこのあたりから聞こえてきたんでごわすよ」

 石どんも一生懸命探した。

 それでもどうしても見つからなくて、石どんは声をかけてみた。

「ソプロシュネちゃん、おっとかいるのかい? 救助隊が来てくいやったど! おったら返事しっくいやん!」


「・・・そのお声は、いつか私を励ましてくださったお方?」

 小さい声で応答があった。


「ソプロシュネちゃんか?」

「はい、そうです。ソープフロシュネーです。あぁ、そのお声。優しいお声をまた聴くことができるなんて。あなたのお言葉に、私はどれほど慰められたことでしょう」


「どこにおっとか? ソプロシュネちゃん」

「ここにおります。私には色も形もありません。物質ではないのです。ですから触ることもできません。でも聞くことができます。話すことも、感じることもできます。お優しく励ましてくださっていた、あなたはどなた?」

「おいどんは石でごわす」

「石・・・さん?」

「さようでごわす。そしてここにいるぴっちぃどんと、かっぱっぱちゃん、ぺんちゃんと一緒に、空飛ぶもーにちゃんに乗ってここまで来もした」


〈ぴっちぃ〉〈もーに〉と聞いて、ソプロシュネはきらっと光を発した。

〈どこかで聞いたような名前。懐かしいような、切ないような・・・〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る