33 気配
普段の学校帰りよりも二時間半も早く、ルークとレイルはロック宅に到着した。お互いに昼飯は既に済ませていたので、挨拶もそこそこに探索の準備を整えに庭に向かう。
準備を全員でしながら、ルークとレイルは学校であったことを、一部の事実は伏せてロックに説明した。
具体的には、ジョインが遺跡を掘っていた人間の知り合いで、ウェスト通りの人間であること。また、三人が穴掘りをしていることは知っているが、本人はどうやら詳しくは知らないであろうことなどだ。
「つまり、その話でいくと、そのジョインって子は地底に居た奴とは別なんだな?」
ロックがパソコンをいじりながら質問する。もう熱も下がったようで、いつもと変わらない顔色をしていて一安心だ。
「多分な。最初は俺もそうかと思ったんだけど、聞けば聞く程“地底人”とは関係なさそうだった」
「なるほど。なら、まだ役者は増えるってことか……」
「そいつらもウェスト通り関係か……」
レイルがポツリと呟いたが、事情を知らないロックは、地底人が他にいる事実の方に頭が働いているようだった。考えるタイプの二人が黙ってしまい、ルークは仕方なく準備する手だけを動かす。
「とにかく、潜ってみないことには始まらないな。パソコンの調子もバッチリだ。今日もよろしく頼むぜ」
睨みつけていたパソコンの画面から視線を外し、明るい声を出すロックに、ルークは軽く握り拳を突き出して応える。
「了解。レイル、行こう」
「先、行くぜ」
レイルが軽い返事を返し、さっさと穴に飛び降りる。それにルークも続く。軽く受け身を取った後、無線機の感度を確かめる。
「どうだ?」
『問題ない。明後日の休日までには決めたいな』
「ああ。来週からは、お前も一緒に走り回ろうぜ」
決意も新たに遺跡へと向かう。ルークの後ろではレイルが愛銃の感触を確かめている。比較的小型のその拳銃は、彼女の細い手によく馴染んでいる。
「その銃、使う機会なさそうだな」
「そうだと良いがな。あのミミズ野郎には、この程度の弾じゃ心許ない」
坑道の奥を見ながらそう言うレイルの表情には、言葉以上の警戒の色が滲み出ている。既に歩き慣れた感のある坑道を迅速に、しかし警戒しながら進む。
今の武器は、レイルの拳銃とルークのナイフのみ。この状況であの巨大ミミズが出てくれば、まず勝ち目はない。
白木に囲まれた出口から飛び出し、広い空間に足を踏み入れたルークは、小さな違和感を覚えた。
ヒタヒタと、何かが走るような音が聞こえた気がした。立ち止まったルークの後ろで、レイルも周りを見渡している。
『どうした?』
ロックが無線越しに問い掛ける。
「何かが、いる」
既に相手には、こちらが侵入したことはバレている。漆黒の闇の中、二人の頭の上のライトは、これ以上ないぐらいの目印だ。目立つ照明の下に急所をぶら下げている自分達は、かなり滑稽な気がしてくる。
「撃ってみるか?」
レイルが拳銃を両手で構えながら提案。
「相手は人間だぞ?」
「こんなに暗かったら、そう簡単には当たらねえよ」
普通の人間――それも女の子なら、例え当たらなくても発砲は気が引けるはずだ。ルークはレイルの人間性を疑いながら、それでも了承の頷きを返した。普段からこんなことを言う娘ではない、はずだ。
「そんじゃ、遠慮なく」
鋭い不快な音――生命を奪う音なのだから当たり前だ――を発しながら、レイルの拳銃から二発の弾が飛び出す。その弾丸はあっという間に空間を横断し、低い音を立てて反対側の壁に突き刺さった。
何かに当たった感触は、ない。
「な? 外れたろ?」
涼しい顔で言ってのけるレイルに、ルークは呆れる。
「なにも二発も撃たなくても……」
「なんとなくだけど……二人いた気がした」
ルークが思わず独りごちた言葉に、レイルは暗闇を睨みつけたまま返した。
ルークは背筋が少し寒くなるのを感じたが我慢。そんなルークには目もくれずに、レイルはさっさと暗闇の中を進み出す。
ヒタヒタとした足音は、小さくだが響いている。
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