12 装飾銃
ゆっくりとロックの部屋に戻る三人。
パソコンに入った映像は、ディスクに焼いてある。そのディスクはロックが膝の上に乗せていて、彼を挟むようにして歩く二人の荷物は、ベストと無線機と資料とライフル。
二人共、手荷物のせいでロックの車椅子を押すことが出来ない為、ロックの速度に合わせてゆっくりと戻っているのだ。
途中で痛みに耐えるかのように呻くロックのことが、ルークは心配で堪らなかったが、他人様の家を無断で走り回る訳にはいかない。相手は、ルーク達からは手の届かないような上流階級なのだ。
レイルはレイルで「ライフルの構造をしっかり勉強したい」と、警官の娘としてもっともらしい言い訳を考えてはいるようだが、やはり邸宅の人間には知られたくないようで、何か事が起こる前に戻しておきたいという気持ちが伝わってくる。
「お前、勝手にパチって来たのかよ?」
「仕方ねえだろ。ほんとは許可取りたかったけど、お前助ける為だったんだぜ?」
「一応僕の許可はあるから、怒られるとしたら僕だ」
「んなの、言う訳ねえだろ」
苦しみながらもロックがフォローに入ると、レイルが口を尖らせながら言った。拗ねたような態度の彼女だが、それは本心だろう。ルークだって、それは同じだ。
どこもかしこも煌びやかで、埃の一つもない長い廊下を進む。真っ赤な絨毯に泥でも付けてないか、ルークはそっちも心配でならない。
廊下の真ん中に、何かを飾るようなスペースがあった。中庭を一望出来るそのスペースは、太陽の光をふんだんに取り入れるために、反対側に大きな窓があるのが印象的だ。今は綺麗なオレンジ色に、空間自体が輝いている。
二つのシックなデザインのランプに挟まれて、そのスペースは主の帰りを待っていた。
「ちょっと待ってて」
そう言いながらレイルは、慣れた手つきでライフルをそのスペースに固定していく。
シルバーの台座は、それだけでも厳格な雰囲気を醸し出していたが、やはりライフルを戻すと、その雰囲気は更に厳つくなった。さっきはチラッとしか見ていなかったが、銃自体の装飾も美しい。
「父が名工に頼んであしらった、世界に一つのオーダーメイドだ」
「お前んちには、世界に一つがいっぱいだな」
「世界の全てを知りたいっていう考えが、飛躍してオーダーメイド好きに」
「親父さん、そういう考え好きそうだもんな」
ルークとレイルは、最近見ていない彼の父親を思い出す。
ロックの父親である昔からこの街きっての天才と呼ばれていたらしいクロードは、三人と同じ高校を卒業後、付属だった大学、大学院を卒業し、今は同じ大学の教授をしている。
三人からは遠いOBとなる彼の専攻は民俗学。趣味と研究の為に世界中を飛び回った彼は、今は息子の為に飛び回っている。
「親父さん、元気にしてる?」
この状況で少し無粋だったか?
ルークは少し後悔したが、ロックに気を悪くした様子はない。
「僕もこの頃見てないけど、お前らはまた見れると思うぜ」
「見てないって、家族としてどうなんだよ?」
ルークの葛藤などなんのその。失礼過ぎるレイルのツッコミに、ロックは苦笑い。
思ったことをすぐ口に出す彼女は、たまに地雷を踏む。彼女の家庭環境もなかなか大変そうではあるが、だからこそなのか彼女は、他人の家庭に関しても比較的ドライな反応を見せる。
「俺らは見れるって? どういう……」
とりあえず話題を戻そうと、ルークが疑問を口に出した瞬間、廊下の反対側から人影が近付いて来た。使用人の女性が驚いた顔で、こちらに小走りで寄って来る。
「ぼっちゃま! そこで何をしてるんです!?」
レイルがまだ銃に手を掛けていたのがマズかったようで、悲鳴に近い金切り声を上げられた。
「気にしないでくれ。レイルに我が家の宝を見せてただけだ」
涼しい顔でいけしゃあしゃあと話すロックを見て、こいつらは普通の心臓は持っていないとルークは痛感する。
冷や汗の止まらないルークの横で、レイルは今更内装を汚していないか確認している。
「あまりに良い造りだったんで、つい」
笑顔でそう言うレイルに、使用人の女は表情を緩めない。レイルはそんな彼女の態度にも笑顔を張り付けたままだ。
「私は、使用人というだけで、貴方達と同じか更に下の家柄です。ですから、貴方達がどれだけ泥んこで歩き回ろうが、ぼっちゃまが過激なミリタリーごっこをしようが、口を出すつもりはありません」
そこまで一気にまくし立て、彼女は一息。それから、優しい笑顔になる。
――むしろ、嬉しい。
彼女の瞳はそう言っていた。年上の女性の笑顔でルークは顔が熱くなり、レイルも照れたように視線を逸らしている。
「私が心配しているのは、銃を扱うことだけです」
ロックだけが真剣な表情で彼女を見やる。
「力を持てば、使いたくなる。それがはずみだろうが故意だろうが、他人を傷つけるのは決して許されることではありません」
「わかってるよ。その言葉は何度も聞いた。そろそろ部屋に戻って良いかな?」
ロックは彼女の言葉に頷き、優しく問い返す。
一瞬、レイルが何かを考えるような顔をしたのが気になった。
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