危機

 しかしいくら走れど化け物との距離は遠くならない。


 「ハァハァ…。何で…?」


 ランニングマシンに乗ったみたいにずっと同じ場所を走り続けている感覚だ。


 「出口もないわよ。閉じ込められてるのだから。」


 「えっ!?」


 奴は早口でまくし立てる。


 「大人しく死ぬまでここに居るしかないわ。」


 奴はそう言うと悲しげな顔をした。


 こいつは本当に出口を知らないのか。

 

 思わずゾッとする。


 ふざけるなよ。こんな所で死んでたまるか。


 オレはどこかに突破口がないか探し回った。

 やはり真っ暗な空間が続いているだけで、何もない…。

 

 「無駄よ…。」


 人間を襲って閉じ込めた割には、何故悲しそうなのか。


 最初こそ恐怖を感じていたが、奴にはどうやらオレを攻撃する意思は無さそうだ。


 何でこんな目に遭わされなきゃならないのだろう。

 その理不尽さに苛立ちを感じてきた。


 「自分で閉じ込めたクセして何で落ち込んでんだよ。」


 すると奴が額に青筋をうっすら立てた。


 「…私じゃないわ!」


 「何だよ。お前がやったんだろ?」


 奴の目が血走った。


 「違う!」


 奴の両腕がオレの首に伸びた。


 マズい!


 「うっ…!」


 奴はオレの首を掴んだまま、自分の顔の高さまで持ち上げる。


 力が強くて振り払えず、オレはバタバタ手足を動かすだけしかできない。


 苦しい!


 「あなたのせいで私の方がこんな所に閉じ込められたのよ!!もう姉さん達と会うこともできない!!」


 奴の主張が耳に入ってくるが、さっぱり意味が分からない。

 

 ここまでか--!


 そう思った時オレの後ろから光が差した。


 

 

 

 

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