化け物

 時計屋を出て少し歩いた所だった。


 うちの学校の制服を着た女子が何やら泣きそうな顔でこちらを見ていた。


 顔を見ると結構可愛い。


 見つめ返すのもおかしいと思い、意にも留めない風を装って彼女の前を歩いて行く。


 カッカッ--

 

 背後からそんな音が聞こえた。


 振り返ると彼女がオレの後をついて来ている。

 もしかすると同じ方向に家があるのか。


 「あの、うちの学校の人ですよね?」


 オレがそう尋ねると彼女はうなずいた。


 「家はこっちなんですか?」


 「いいえ…。」


 余りにも暗く小さな声で彼女は言った。


 「そうですか。いつも通るんですか?」


 「いいえ…。」


 彼女の声は今にも消えそうだ。


 失恋でもしたのだろうか。


 オレにもチャンスがあるかもしれない。

 

 何とか会話を繋げて彼女の連絡先をもらう事はできないか。


 「どの辺りまで行くんですか?オレも家こっちなんですよ。」


 オレがそう言うと彼女は暗い声で言った。


 「…分からなくて。」


 「迷ったんですか?」


 「いつもは姉や妹が一緒なんです。一人だと分からなくて…。」


 「場所は?どこに行くんですか?」


 「実はいつも二人と行動するから場所なんて知らないんです。」

 

 「へ?」


 彼女ちょっとヤバい奴なんじゃないのか。

 姉妹といつも行動して、行き先が分からなくなって落ち込んでいるとは。

 おまけに声が小さ過ぎる。

 どんなに可愛くても面倒な奴は好きになれない。

 さっさと話を切り上げよう。


 「そもそも何でここに一人で来たんですか?」


 オレがそう尋ねると彼女は下を向き、ボソボソ何かを呟いた。

 聞き取りにくい声が更に聞こえづらくなる。


 「ここに来た目的分からないなら、合流した方がいいですよ。」


 オレは会話を終わらせたくて、敢えて突き放す言葉を選んだ。

 こうすれば相手も怯むだろう。


 しかし予想と反して彼女は正面を向いてオレの方を睨んだ。


 「え?」


 そしてやっと出た大声でこう叫んだ。


 「私だってこんな所に来たくなかった!」


 「は、はい?」


 次の瞬間辺りが真っ暗に包まれた。


 道路がない。

 標識もない。

 建物だってない。

 何もかも呑み込む真っ暗な空間だ。


 変わらないのはオレと彼女だけ。

 さっきまで帰り道だった場所からオレはどこに異動してきたのか?


 「なっ何だ!?」


 彼女はオレを睨み続けている。


 「ここは時間が止まってるの。」


 「どういうこと…?」


 そう言うと彼女がさらに距離を詰めて近づいて来た。


 カッカッという音と共に彼女の姿が段々と大きくなる。


 遠近法がおかしい。


 その大きさは人間のものではなかった。


 3mくらいだろうか。

 

 縦にばかり伸びた彼女は体を曲げてオレを見下ろす様になった。


 会った時に声が小さく感じたのは、随分と後ろに下がっていたからだったのだ。


 「う、嘘だろ…?」


 彼女は人間ではなかったことに気づいたオレは恐怖で体が震える。

 

 とにかく逃げないと!


 そう思ったオレは出口を探そうと無我夢中で走り回った。


 

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