時計屋

 時計屋なんてあっただろうか?

 校門を出たオレは、カバンからはみ出る時計を隠しながらいつもの帰り道を辿る。

 腕時計もつけないし、そんな店に興味もないから分からない。

 スマホで近所に時計屋がないか検索をかけた。


 すると一件見つかったのだ。

 それも現在地から近い。


 「ここ…真っ直ぐ行けば着くな…。」

 

 直進すると右手に古い時計屋が見えてきた。

 少し暗い店の扉を開いた。


 「いらっしゃい。」


 物珍しそうに老眼鏡を掛けた爺さんがこっちを見てくる。

 どうやら店主の様だ。


 「あの…時計の針を折ってしまって。修理してもらえませんか?」


 うなずきながら店主が手を差し出す。

 オレはカバンから時計を出した。

 店主は老眼鏡を外して時計の針を見た。


 「…針替えるのがいいね。折ったものは普通くっつかないし。」


 「針替えるのにどれくらいかかりますか?」


 「お金は2000円位。日にちは…どうかなあ。量産型だけど、この針すぐに仕入れられるかな?」


 金額は何とか出しても、日数だけは急いで欲しい。


 「何とかして早くできませんか?」


 店主はうーんと唸った。


 「針の替えってメーカーの在庫次第だからね。メーカーに聞くしか…。」


 「…そうですか…。」


 「とりあえずメーカーに明日電話してみるから、名前と連絡先を教えてね。また連絡するから。」


 オレは名前と電話番号を書いて店主に渡すと、店の外に出た。

 

 「あー…バレたらどうしよう…!」


 あんな訳分からない遊びなんてするんじゃなかった。後悔の念ばかりがよぎる。


 オレは家に帰ろうと重い足を動かした。

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