針の足音

@kdbsd011

遊び

 「起立!礼!」


 授業の終了と共に放課後が始まった。


 「今日何かする?」


 一人の友達がオレの席に駆け寄ってそう聞いてくる。

 

 「いやネタもうないでしょー。」


 また一人友達が駆け寄って来る。


 「そこを見つけるんだよ。オレ達は。」


 こうして一人、また一人と集まって、男ばかり10人くらいになった。


 教室にオレ達以外はもう居ない。

 

 「何しようかな。結構色々したもんな。」


 オレはそう言うと教室の中をぐるりと見渡す。


 「アレ使ってみようや。」


 オレは教室の壁に掛けられている時計を指差した。


 最近放課後に男子ばかりが集まってたわいない遊びをしている。

 最初はありきたりなことをしていたが、次第に自分達でゲームを編み出す様になった。

 けれど当然だがいつかネタは尽きる。

 今では教室にある備品を使って遊ぶ様になっていった。


 「時計なんか使ってどうすんの?」

 

 オレは椅子を使って取った時計を自分の机に置いた。

 

 「ん?こうする。」


 時計の電池を抜き取って、時間を止める。


 「おいおい。先生怒るんちゃうかー?」


 一人の忠告を無視してオレは続ける。


 「戻せば大丈夫だろー。ほらこうして…。」

 

 そう言いながらオレは裏面から針を全力で動かす。


 「何これ…?何すんの?」


 「意味分からねー。」


 口々に皆が喋っている。

 皆オレのやってることを不思議そうに見る。


 「これで誰が一番早く回して12時にできるか競う。」


 皆乗るか分からないが、とりあえず案を出した。


 「そんなん皆同じくらいだろ。」


 「ジュース賭ける?」

 

 「ならやるか!」


 皆気分が上がってきたみたいだ。

 

 「誰が最初に針回す?」


 オレがそう問い掛けると皆オレを指差した。


 「分かったよ。言い出しっぺだもんな。誰か時間計ってよ。」


 「じゃあオレやるわ。」

 

 計測係も決定した所で、遊びは始まった。

 

 「行くぞー。よーいスタート!」


 係の合図でオレは時計を回し始めた。



 パキッ--

 

 すると勢いよく回した瞬間に小さな音が聞こえた。


 「うわ!壊した!」


 「折れてるじゃねーか!」


 皆の声でオレは恐る恐る時計の前面を見た。


 「ヤベ…!」


 まさか一発目でこんなことになるとは。


 時計の針が脆かったのか、オレがスピードを出しすぎたのか、長針が折れてしまったのだ。


 いや、それよりどうしよう。


 実はこれまでも何度か備品に被害を及ぼした事がある。

 前回の件からそんなに経過してないし、次こそはさすがに休学にさせられるかもしれない…。

 

 「ど、どうする…?」


 計測係はもう顔面蒼白になっている。パニックに陥って思考が停止しているのだろう。


 頭の中でグルグルと思考を巡らしたが、もう答えは二つだ。

 

 素直に謝るか、それとも隠すか。

 

 迷わずオレは後者を選んだ。


 「オレが折ったんだし、修理出すわ。それまでどっか使ってない時計置いとこう!」

 

 オレのその合図で全員空き教室に時計がないか探し始めた。

 急な思いつきだったし、代わりの時計が見つかるか心配だったが、すぐに一人が時計を見つけた。


 「あった!空き教室から見つけた!」


 持ってきた奴が時計を見比べて違いがないか確認する。


 「全く同じだな。いけるだろコレ!」



 「早いうち掛けとこ!お前早く今から修理出せよ!」


 オレは大きくうなずき、もう皆に促されるまま、時計とカバンを持って教室を出た。

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