第31話 融合
漆黒のドーム。
その中には数十億の人間が閉じ込められ、生体量子コンピュータとして何かをさせられている。下手したら人類滅亡のための計算を人類がさせられているのかもしれない、そうだとすると悪魔の諸行というだけでは生温い。だいたい悪魔ですら、人類に滅亡されたら商売上がったりだろう。
いずれにせよ、ドームから人類を救出しないといけない。それはそうだが戦力が足らない。無数の蟲機がまた押し寄せてくることだろう。それをどうにかするにはアブドラ王立大学の例の兵装を手に入れる必要がある。そもそもそこまで行けるかどうかも気にはなっているが。
などと考えているとだ。
ミナと接触していた蟲機が変形をはじめた。そしてだ。
「タケル!これ……乗れる!?」
「蟲機に乗れるだと!?どういうことだ?」
ノジマの叫び通り、コクピットが開くように蟲機の身体の一部が展開する。そこにはシートのようなものまである。蟲機の中にこのような構造があるとは……これではまるで、ミナを乗せてどこかに向かわせようとしているようにすら見える。蟲機の一部がまた光る。
「……また何か投影する?」
「二次元バーコードだ。文字コード解析してみる。……経度と緯度、だと?」
俺が解析してみた結果、そこに記載されているのは経度と緯度。現在位置からそこまで遠くはない。
「これ……この座標」
「アブドラ王立大学の位置、ですね」
ククルカンがつぶやいた。何故アブドラ王立大学の位置情報が?蟲機に触れていたミナが俺にこう言った。
「タケル、わたし、行かなきゃ」
「どういうことだミナ!?危ないぞ!?」
「この蟲機が『カギ』なんだよ。そしてわたしも」
なんだよそれ。そんな危ないことさせられるかよ。
「しかしだな」
「タケルたちは後からついてきて。蟲機ならドームを出入りできるみたいだし」
ミナはそう言うと蟲機に乗り込んで行った。そして、アメノトリフネから、跳ねるように飛び立った。
「飛んだぞ!?」
「絶対に見失わないでください!アブドラ王立大学に『いと高き所の王』がある方に賭けましょう!」
ククルカンが叫ぶ。俺たちはミナの駆る蟲機の後を飛び続けた。何かに操られているかのように、俺たちはそこを目指す。
夕暮れ時に、俺たちはアブドラ王立大学の付近だと思われる場所にたどり着いた。まだ西の空の一部は明るいのだが、空に漆黒の孔が空いているかのように見える。あれが、『ドーム』か。
「あちこちにドームがあるように見えますね」
「人類の黄昏時、か……」
「まだそうなったわけじゃねぇだろキンジョウ!」
「……そうだな。嬢ちゃんは?」
「ドームに接触しようとしてますね」
ミナの乗った蟲機が、ドームの漆黒の壁面に接触した時、ドームの壁に変異が起こった。ドームの外壁に、穴が開いていく。船が十分通れるサイズだ。このまま、何事もなく行けるのか?
……そう思ったのがいけなかったのだろうか。
突然漆黒のドームから、闇の底のような黒い色の蟲機が無数に現れた。
「まずい!このままではミナが!」
「いえ!ミナさんは大丈夫みたいです。むしろ問題なのは我々の方です!!」
ククルカンの叫び通り、アメノトリフネに向かってミナには一瞥もせず、無数の蟲機が向かってくる。
「ムシコロン、もう一踏ん張りしろ」
『……痛い!痛いいたい痛い!全身が千切れる系の痛みだ!』
「いま、ミナが『いと高き所の王』のところに向かった」
『……なんだと!?ここは……!?いつの間に着いてるのだ!?』
お前が寝てる間にだよ、とは言わなかった。
「それよりあの黒い蟲機からアメノトリフネとミナを守りたい。できるか?」
『……やるしかなかろう?ならば、一気に決めるしかあるまい』
「あ、前使ったアレは使えないから」
『……そんなことだとは思った。使える武装は……まさかこれだけか!?』
右腕のコイルガドリングガンをムシコロンが持ち上げる。
「アメノトリフネの動力回してもらうんだ、贅沢言うな」
『それならそれで、縮退炉使わせてくれないのか?』
「迂闊に使えば船が落ちるだろ」
『ええぃ!ままよっ!』
ムシコロンはコイルガドリングガンを蟲機に向かって叩き込み始めた。狙いをつけながら俺はムシコロンに語りかける。
「お前が寝てる間にちょっとした改造をしておいたぞ」
『何をしたのだ?』
「コイルガドリングガンに冷却機構積み込んだ。多少は重いが銃身が焼きつく前に弾切れになるだろうな。弾が10万発程しかないが」
『もう少し欲しかったな』
「言ってろ」
次々と蟲機に30mm口径のコイルガドリングガンを叩き込んでゆく。全タングステン弾より若干軽い砲弾だが、それでも威力は十分だ。
しかし数が多い。
いくら弾切れや銃身の問題が無いとはいえ、こうも数が多いと非常にまずい。
『タケル!ぼやぼやするな!』
「ノジマが!機体が破損してるぞ!このままじゃ持たない!」
『どんどん撃て!それしか無い!』
あれほどあった弾丸が今や2割を切る状況になってしまった。もう、もたない……アメノトリフネのあちこちも燻っている。
「ここまでか……」
『ああ……ん?……待て!タケル!あれを見ろ!』
ムシコロンが指さした先には、一体の首のない巨体が空を舞っていた。アレが……
「『いと高き所の王』!まさか!」
『タケル!遅くなってごめん!!』
ミナの声がする。まさか、持ってきてくれたのかよ!!
「ムシコロン!」
『応!アメノトリフネとのシステムパージ!コアユニット射出!』
ムシコロンの機体が飛び出し、『いと高き所の王』に向かって一直線に飛んでゆく。
『モードチェンジ!ターゲット……アキシスコントロール正常!行けるぞ!』
「よっし!行くぞムシコロン!融合合体!』
『いと高き所の王』とムシコロンが合体し、ムシコロンにエネルギーが伝わっていく……この機体にも縮退炉が搭載されている!しかも固定武装が……おまけにムシコロンの武装も全て使える、だと!?
『遂にこの時がきた!完全形態、バァ……おいタケル何入力してる!?』
「融合合体!真!ムシコロン!やってみせろぉ!!」
『何クソダサい名前つけてくれてんだお前ぇ!!!』
名前のセンスが気に入らない真・ムシコロンが、怒りとともにヤケクソで放ったムシコロン・グラビティ・ノヴァで、漆黒の蟲機たちは星空に落ちて行った。そんなのでいいのか、とは少し思った。なんとかなったが……。
『タケル!やったね!』
「ミナ!本当に助かった!ありがとう!ありがとう……」
『バァ……バァ……くそ、サーバネームが真・ムシコロンに固定されてやがる!ふざけんなタケルううう!!!』
キレてるムシコロンはさておき、早くノジマを救助しないと……と思ってそちらに向かうと、キリュウがノジマを助け出していた。
「よかった、助けていたようだな」
『待て。様子がおかしい』
キリュウが茫然としている。ノジマが動く気配もない……。まさか……そんな……
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