第29話 ミナ
俺は急いでコクピットを降りる。背後を振り返って見てみると、アメノトリフネの側面に蟲機が突き刺さっているではないか。
「そんなことがあるのかよ」
もっと早くグラビティ・ノヴァを発射してたらよかった気もするが、タイミングもあるし敵に囲まれた状態でムシコロンが虫の息になったら終わってただろうから、こうするしか無かったのかもしれない。
ひとまず蟲機の突き刺ささったところに向かうと、マキナが慌てた様子で俺の方に駆け寄ってきた。
「タケルくん!大変なことになってしまいました!!」
「どうしましたマキナさん?」
「蟲機が突っ込んだのは、ミナさんのところです!」
それを聞くや否や、俺はミナの部屋に向かって駆け出していた。何故だ!?ミナばかりがそんなことに!?部屋に駆けつけた時には、キンジョウがドアをこじ開けようとしていた。部屋が歪んでしまっている。俺は部屋の外から叫んだ。
「ミナ!大丈夫か!?」
「大丈夫!怪我とかはしていないよ!」
ひとまずよかった。しかし蟲機が接触していると言うのはまずい。極めてまずい。いつミナの身に何が起こってもおかしくない。
「蟲機は動いていないのか?」
「今のところ動いてないね」
とりあえずは朗報と言っていいのだろうか?いずれにせよ早くなんとかしないと、そう思い、ドアをこじ開けることにする。キンジョウが引っ張ろうとしているドアのネジを回し続ける。
「……タケル!蟲機が動いた!?」
くそ、思った以上に早い!ねじ回しがなんでこんなに遅く感じるんだ?ドアの隙間から俺は、その光景を見た。蟲機の機体から何かの線のようなものがミナに伸ばされるのを。
「ミナ!?触るな!」
その時、不思議なことが起こった。
「光った!?」
「うそでしょ!?」
俺たちの前で光ったのはミナの方だった。緑色の淡い光があたりを包む。
「紫外光!?GFPでも発現しているのっ!?」
ミコトが変なことを叫ぶ。なんだよGFPとかなんとかって。キリュウも気になったのかミコトに問いかける。
「ミコト、GFPってそういうライトか何かの名前か?」
「人間にライトが付くわけないでしょ馬鹿なの!?」
「ではなぜミナは光っている!?」
「あぁもう私にもわかんないわそんなの!!」
とうとうミコトがキレた。そりゃそうだよな。何故光っているのか?なんらかの物質があるから、それはいい。ではなんらかの物質が何故ミナに存在するのか?
「GFPというのは紫外線を当てると蛍光を発するクラゲのタンパク質よ。それを他のタンパク質と組み合わせて発現したかを確認……嘘でしょ!?」
「ミコトさん?」
ミコトは何かに気がついたようだ。
「タケルくん、その蟲機を破壊するのちょっと待って!何かが起きるかもしれない……我々にとって大事なことが。ミナちゃん!それは触れてもおそらく大丈夫!」
一体なにが起きるんだ?ミナが蟲機から出ている何かに触れた瞬間、ミナの光が強くなった。部屋の壁に何かが表示されている。
「これは……!?嘘でしょ!?人間の身体に情報を仕込んでいたの!?どうして!?」
「何が起こってるか俺にもわかりやすく話して欲しい……」
「あぁもう!いい!?これはミナちゃん自体に誰かが何かの情報を仕込んでいたの!しかも蟲機に接触した時に発動するように!」
「誰が!?なんのために!?」
俺も叫んでしまうしかなかった。意味がわからなさすぎる。人間に何を仕込んでたんだよ。
「誰が、は見当がついたわ。タケルくんのご両親ね」
「はぁ!?」
意味がわからない。全く。
「ミナちゃんは廃棄受精卵だった、という話をタケルくんは聞いていたわね。おそらくミナちゃんの遺伝情報のうち、不要な領域に書き込んでいたの!このGFPと組み合わせて発現する何かを!」
ミコトは興奮しっぱなしである。
「この図は蟲機の設計シークエンスのようね。そしてこれは……そんな……嘘でしょ!?」
「だから一人で理解してないで俺にもわかりやすく説明をだな」
「うるさい!ちょっとこれは……キリュウくん、ククルカンとマリア呼んできて」
「よくわからんがわかった」
キリュウが2人を呼びに行く間、俺はミナの光を見つめ続けていた。一体何なんだこれは。ククルカンとマリアがやってきてミナの光を見つめている。やがて、マリアが呟いた。
「ワシも大概悪いことしてきたが、これはもう最悪を通り越して笑うしかないな」
「まさかこれが……私たちの敵なんですか!?これをどうにかしろと」
ククルカンが言ってることも理解できない。結局なんなんだこれ。
「ククルカン、教えてくれ。何を示しているんだ、ミナの光は」
「タケルくん……アブドラに行くのは死を覚悟した方がいいです。本当に」
「どういうことだ?」
ククルカンが躊躇いがちに呟いた。
「20億の脳で形成された巨大生体コンピュータが……この世界に残った人類の、敵です」
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