第28話 空の奈落
アブドラへ向かうために、蟲の群れを突っ切らなければならないということになった。普通に考えたら大変なことだ。だが、ここにちょうどいい武器がある。
『タケル……汝、我をそんな目でみるのはどういうことだ?』
「ムシコロンはしばらく休んでてくれ、
『不穏な単語しか聞こえないんだが』
「ということでマリアさん、よろしく」
「やれやれ、
ムシコロンに
『な、な、な何考えてるタケル!!』
「休んでる間に、ちょっと身体に働いてもらうつもりだ」
『や、や、やめろぉおぉぉぉぉ!!』
ムシコロンは注射を打たれてしばらくジタバタしていたが、やがて動かなくなった。生体パーツだからな、麻酔してないともたんだろ。しばらく寝ててくれ。俺はキンジョウに声をかける。
「キンジョウさん、騎将たちとムシコロンを艦首に付けるの手伝ってくれますか?」
「これ、付けるのか……ひょっとしてタケルくん」
「そうです。突っ込むことにします。
「お、おう……」
「ムシコロンもそういう使われ方するとは思ってなかっただろ」
キンジョウとノジマが呆れ果てた目で俺と動かなくなったムシコロンを見比べる。キリュウが呟く。
「しかしムシコロンは動かないんだから、
「そこはアメノトリフネの動力をムシコロンに流します。重力場を発生させて突撃させれば、無数の飛蝗とはいえ耐えられるものではないでしょう」
キリュウにも馬鹿にされたような目で見られているが、ほかにいい方法があるなら教えてほしい。なんとか艦首にムシコロンを設置することができた。ムシコロンが意識がなく、動かないうちに突っ込むことにする。
魔女の館を飛び立ち数百キロ、無数の蟲機が飛び回っているのが見えて来た。こちらに迫ってくる蟲機は、まさに黒煙の如くである。相対速度が音速にも迫ろうとしている黒煙の中に突入するアメノトリフネの先端で、俺は歯を食いしばる。
「縮退炉出力全開!轟天直撃!ムシコロン・グラビティ・ラムううぅぅ!!!!」
縮退炉の出力をムシコロンの拳に伝達し、重力の渦に蟲機を引き摺り込みはじめる。飛び交う蟲機たちは、その機体を捻じ曲げられながら破壊されていく。無数とも思える蟲機だったが、その数は猛烈な速度で減っていった。黒煙が、晴れてゆく。無数の蟲機の残骸が地面に落ちてゆくのを横目に、俺は進行方向を睨んでいた。
それは、突然だった。
アメノトリフネの側面に、一体の蟲機が異常な速度で突入してきた。船の側面に接触したと思った次の瞬間。
……猛烈な振動を感じた。
砲弾の直撃でも喰らったかのような衝撃だ。船体が軋むような音がしているではないか?
「爆発でもしたというのか!?」
船体の損傷も気にはなるが、次々と前から向かってくる蟲機の対処で手一杯だ。縮退炉の出力の制御をしながら、重力の渦で無数の蟲機が砕けていくのを確認しつつ、次の一手の準備を行う。寝ていたムシコロンを叩き起こす。
「ムシコロン」
『……なっ!?今どうなっているタケル!?』
「アメノトリフネの艦首に接続してる。重力掌底を
『……我の機体の扱いが雑ではないか?』
「そこでだ。
『おい待てタケル!汝何を言っているかわかっているのか!?あれを使うのか、
ムシコロンがドン引きしているが、俺は静かにうなづいた。この状況を打破するにはそれしかない。
『ええいどうなっても知らんぞ!縮退炉出力臨界!重力場補正0.53!慣性モーメント制御再開!射線方向コリオリ修正!』
「3、2、1、コネクト!いっけえええ!星々の砕ける様を!ムシコロン・グラビティ・ノヴァあああぁぁぁぁぁ!!!」
ムシコロンの胴体部から、小さな点が現れる。その点が、猛烈な速度で加速していき、空間を歪めていく。空間が、裂ける。その断裂した空間に蟲機が落ち込んでゆく。空に向かって……落ちてゆく。
「第三宇宙速度まで加速後、重力場を崩壊させる!!」
『わかっている!……わかっているが、しかし!地球上で使うような武器じゃない、これは!』
蟲機たちが全て空に落ちていき、落ちていった先の宇宙の深淵……漆黒の闇が、一瞬だけ見えた。落ち込んでいく奈落の先から、無数の閃光が空を覆う。
『超新星爆発にも匹敵するエネルギーだ。1匹たりとも、残ってはいまい……』
「だな。さて、俺は船の方に戻るぞ」
『おい、待て。我はこのままか!?』
ムシコロンが騒いでいるが、すぐ取り外すこともできないからな。俺だけ向かわせてもらう。
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