第11話 反旗
セントラル保安部に俺たちは銃を突きつけられている。前は俺とミナだけだったが、今度は俺たち全員である。しかも連中も俺たちの3倍近い数いやがるし、ご丁寧に
「ムシコロン、あいつら相手にしたらどうなる」
『殺すつもりなら全滅させるのは余裕だな。重火器でコクピット抜かれるのが一番怖い』
「殺虫剤でも撒いたらどうだ?」
『効くわけないだろ人間なのに』
「びびらせるくらいの効果はあるだろ」
「おいおいこれはどういうつもりだぁ?」
ダイナの怒鳴り声で、ビクッとする保安部の歩兵。声でかい怖い。1人大きな奴がそれに怒鳴り返してきた。
「どういうつもりだだぁ!?それはこちらの台詞だ犯罪者共!」
「犯罪者?蟲機を倒して、セントラルを守っている俺たちのどこがだ?」
「セントラルはそれを了承していない。わかっていないのはそちらだろうが!」
蟲滅機関のメンバーたちから不穏な空気が漂ってきた。セントラルが、保安部が蟲機を駆除していたのか?やってるのを見たことがないぞ。
「私的に武力を集め、更にはセントラルの指示に従わない危険な集団が、大戦時の兵器を持ち出したのだぞ!?これ以上放置していられるか!」
「今まで蟲機を放置し、いたずらに被害を増すばかりの保安部が何をいうか!」
ノジマもキレている。でも正直、これからどうすんだよ。ムシコロンが本気出したらどうなるかくらいわかっているよな?どうするつもりなんだよ保安部。などと思っているとだ。なんか俺とムシコロンに向かって拡声器で怒鳴りつけてきた。
「そこの機体のパイロット、今すぐ投降しろ!」
『投降?何故だ。今乗ってるタケルなしでは、我は動かすことすらあたわなかったぞ。メンテナンスできるのか汝らに?』
「何を言っているんだ、このパイロットは?」
「パイロットは俺だが、ムシコロンは自律行動も可能なんだぞ。俺が降りてもお前らが気に入らない行動したら殴るだろうな」
その俺の発言にざわめきが走る。今しゃべってるのが機体自体だと俺たちは知っているが、もしこんなのが暴れたらどうなるか。わかるだろ?
「ムシコロンが本気出したら、お前らは挽肉になれたらまだ幸せだと思うぞ」
『跡形も残らぬと思うが』
「な、なら命令を下せ、攻撃をしないように……さもなく……」
と言った次の瞬間、
『汝ら、今の動き見えた?我はユウナの見えなかったのだが』
「ひいい……く、だが、貴様らの横暴を赦すわけにはいかん!構えっ!」
もういつ撃ち合いが起きてもおかしくない状態だ。突っ込んで盾になるか?と思っていた時。
「おやおやおや、これはまたどういうことかな?遊びにしては物騒な」
恰幅のいい男が、俺たちの間に割って入ってきた。おい、大丈夫かよおっさん。誰だよ。
「ミドウ様!?何故このようなところに!?」
「これはこれは保安部の方々、お仕事ご苦労様。今日は何のお仕事で?」
「聞いてくださいミドウ様。この蟲滅機関の連中が、我々の仲間を拉致し、更に大戦時の兵器を勝手に持ち出して戦闘行為を始めたんです!」
「ですので、我々は反乱鎮圧のためにこちらに来たのです」
ほぉ、と小さくミドウは答えた。そして続ける。
「その件については、連絡はいってなかったかね?」
「連絡?」
「あぁ。私が業務委託をお願いした件だ、蟲滅機関さんに」
「「「業務委託ぅ!?」」」
保安部の連中がざわざわする。
「おい、そんな連絡来てたか?」
「そういえばそんなメール来てたような、でも詳細は後ほどって、その時はなんも書いてなかったぞ」
「それ連絡したっていえるのか?」
「後ほど連絡って、まさかここでかよ!?」
どういうつもりだこの男。ミドウはひょうひょうとしている。
「保安部に、核融合炉を入手できないかの相談をさせてもらっていたのだが、何度か忙しいとことわられたよ」
「それは……」
「構わんよ。セントラルの守りは保安部が固めているのだから。そこで、核融合炉の発注を蟲滅機関さんにお願いしようと思いついた」
「この
小声でぼやいている奴もいるが、保安部の連中が苦虫を噛み潰したような顔になってきた。
「核融合炉も結構な数お願いした。普通にやると大変だってことだったので、蟲滅機関さんにお渡ししたのだ、大戦時の兵器」
「なんてことしてくれたんですかミドウ様!セントラルごと破壊しかねない兵器ですよ!」
「ふむ。でも元々、ぴくりとも動かない兵器だったわけだろ?核融合炉もたくさん入手できたし、これで皆、美味いものにありつけるからいいのではないか?」
保安部員達は怒りをあらわにしているが、ミドウに逆らうこともできないようでこめかみだけを震わせている。核融合炉によってエネルギーが確保できたら、流動食みたいなもの以外も作れるようになるとは聞いた。
「なので今日のところは引き下がってもらえないか、私の顔に免じて。これから核融合炉の引き渡しを受けるのだよ」
「くっ……ですがミドウ様、そいつらを放置していると、いずれセントラルを食い尽くす害虫となりますよ!それに、拉致された仲間の」
「私はまだそうなるとは思わんがね。引き下がらないというなら、資材の供給や修理の価格について見直しの検討をさせてもらってもいいな?」
「……わかりました。おい、今は撤収するぞ」
保安部の連中が撤収していった。完全に姿が見えなくなると、さしもの
「皆さんお若いですな。あの手合いに手を下すことに心を痛めておられる」
ミドウのおっさん、それはひどい言い方じゃないか?人殺し嬉々としたい人間とか、ヤバいだろ。キリュウが小声でいう。
「蟲を潰すのは何も思わないが、人を殺すのはよくない」
「キリュウらしいなその言い方」
ダイナがそうぼやく。でもミナ殺そうとしてたろこいつ……割り切りどうなってんだよ。そう思ってるとムシコロンが先につっこんだ。
『汝それなら蟲化病のことをどう思ってるのだ、あれは治療できるんだぞ』
「やめろムシコロン、俺の心を痛めつけるのは」
「なら俺の妹殺そうとすんなよ……」
「さて、おしゃべりはここまで。まずは引き渡してもらえると助かる」
ミドウが手を叩いて仕切る。核融合炉については引き渡しを予定していたので手筈通りではある。こうしてなんとか核融合炉の移動を進めていく。みんなで力を合わせて培養槽にバラした蟲機をセットして、発電が確認できたのは喜ばしいことだ。丸二日その作業に追われる。セットが完了したところで、ミドウが俺たちに声をかけてきた。
「よくやってくれた。お礼にささやかな打ち上げをしようと思う。来たまえ」
そう言われてミドウの案内した場所に行くとだ、なんか見たことがないようなものがズラリと並んでいる。蟲滅機関のみんなは喜びの声を上げてテーブルに走ってゆく。なんでだよ。空腹を誘うような匂いはいいのだが、何しろ白だの赤だの緑だの茶色だのの、見たこともない形の何かである。なんなのこれ?
「君は、行かないのかね、パイロットくん」
「タケルだ」
「ふむ。タケルくんは食べないのかね?」
ミドウがそんなことを言うので周囲を見ると、蟲滅機関のメンバー、みんな茶色や緑や赤の何かを躊躇なく食べている。あれ食べ物だったのか!?ミナも茶色の何か毛?いやなんだかよくわからないものがついたものを食べている。
「タケル、これ全部食べられるよ!!しかもすごく美味しいいい!早く食べないと無くなるよ!!」
「マジかよ!もっと早く言ってくれミドウさん!」
「うむ、たっぷり食べてくれたまえ。君たちがたくさん食べてもこれからは困ることもない」
もうそこからは俺もみんなに混じって食べる、食べる、食べる!!手も口も止まらない!赤のプチンとした球のようなもの、黄色いポロポロとしたものが入った白い半円の何か、とにかく美味しくないものがない!今まで食べていたのは何だったんだ?
「ミドウ様、こちらもどうぞ」
「ククルカン殿、これは?」
「おにぎりにしてみました。セントラル米です」
「ふむ。美味いな。君たちも一つどうかな」
言われるがまま、おにぎりを口にする。塩味がほのかに効いて、これまた美味い。
「タケル、あんまり急いで食べるとむせるよ」
「むう……」
「ハハハハ、タケルもかたなしだな」
赤い何かを咥えながら喋るなノジマ。服も着崩すな。そうかと思うと一人の
「うまいっ!これはうますぎるっ!!」
「ヒムラさんわかりました!わかりましたから牛丼が美味いのは」
「先生には感謝せねばな!」
「そうですね。美味しいお米用意してくれましたし」
「ああ!ミドウさんにも感謝だ!この上の変な肉、実にうまいっ!」
ヒムラってのかあの人。俺もそう言われると食いたくなるな、その牛丼ってやつ。他のものも多数食ったので小盛りだ。
「うまっ!ヒムラさんが叫ぶの分かったわこいつは」
「わかるかタケルくん!」
「わかる!美味いよこれ!」
美味いものを美味く食べる人に悪い人はいない気がする。そう思っていると、隣で鶏肉(ってやつらしい)や野菜ばっかり食べてる
「キンジョウももっと色々食べるといいぞ!うまいぞっ!」
「……仕方ない。今日はチートデイにするか……いいか、上腕二頭筋?」
上腕二頭筋についている機械から「イイヨ」と言う声がした。なんだよおい!
「キンジョウはメカニックもできる
ノジマの解説で理解できた、この人は変な人だたしかに。身体のあちこちに何かがついている。あれは……。
「キンジョウさん、その腕のは小型のアームターミナルに近いのか?」
「パイロットのタケルか。そうだな。詳しいね。君もプログラムが書けるのか?」
「それなりには」
「素晴らしい。私と一緒にプログラムを書いて、そして筋肉を鍛えないか?」
「……プログラムだけで」
「むう、仲良くはそれなりにだな」
キンジョウには悪いが、筋肉を鍛えるのはほどほどでいいのではないか。本当に変な人が多いが、でも蟲滅機関の人たちは、多分いい人なのではないか。
唐突に、ムシコロンから回線が入った。
『皆の者、ビンゴの用意が出来た。格納庫に来てくれ』
「ビンゴって何だ?」
そう騎士や
「ククルカン殿、若い子たちはビンゴも知らないのですな……」
「ミドウ様。私は確かにあまり褒められた人間ではありません。しかし、せめて私の為すことの間にも、せめて少しでも楽しみを感じて欲しいと思います」
「……やめるつもりはないのですな、ククルカン殿」
「申し訳ないですが」
「……御武運を」
ククルカンとミドウは何のことを話しているのか、まだその時の俺は理解できなかった。
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