通行料はありますか?

@KKOOKK

第1話

 「成績を上げなさい」


 何気ない言葉。この世界の学生が何とでも耳が痛くなるほど言われてきたであろう言葉。もしくは言われなかった人もいるかもしれないけれど。僕は何十回とこの言葉を聞いてきた、この言葉だけを聞いてきた。


 成績を上げた先に何があるのか、それさえ分からないまま他の目的にまっすぐレールの上を突き進んでいた。今やっと気が付いたんだ取り返しはつく。でも取り返しのつくような段階に進むことが怖い。

 

 突き進んできた道と逆の道に行きたいと、それが自分の本心だと今更気づいたとしても、道は恐怖で塗り固められて、行く手を阻む。


 それは全て僕が全てを積み上げてきてしまったから。高く高くこれ以上なく、その先のものに手が届くまでに、自分のレールの新しいレールをかけられる位に、積み上げてきてしまっていたから。

 

 別の道に行くには通行料が必要だ。


 「ご希望の電車にお間違いはありませんか」


 「そうですね……どうなんでしょうか。でも何故そんなことを聞くんですか?あなたにとって私のこれからは意味のないどうでもいいものでしょう?」


 「勿論ですとも。特に意味はありませんよ。あなたの行動は私にとって興味のないことですし、あなたの行動が私に影響するとも思いません。ですが、マニュアル通りにやらないと怒られてしまうので。いくら流れ作業といっても、それぞれの商品にある程度、表面上の礼儀は済ませないといけませんから」


 「ああ、そうですよね。あなたにとって私の人生なんて流れてくる商品の一つにすぎませんよね。滞りなく流れてくれたらそれでいい。問題を起こされたら困るな、程度の認識でしょうね。知ってましたよ」


 「それはそれはご聡明でいらっしゃる。流石ですね」


 「所構わず褒めるのもマニュアル通りなんでしょう?あなたはとても立派なマニュアル人間ですね」


 「お褒めに預かり光栄です。さて、切符は持ちましたね。このまままっすぐ進めば通行料は必要ありませんが、他の道に進むとなると通行料が発生します。本当にまっすぐに進みますか?」


 「いいえ、進みません。まっすぐ進めば僕はきっとマニュアル人間になるのでしょう?そんなの吐き気がしますね」


 「そうですか。それでは通行料を払っていただき別の道を選ぶことにいたしましょうか?」


 「いいえ、それはできません。私には通行料を払うだけのものは持ち合わせていないのです。先生、どうすればいいですか。あなたのようにはなりたくないけれど、望む道に進むための通行料が足りないのです、ほんの少しばかり」


 「貸してほしい、とおっしゃるんですか?」

 

 「そうですね。できるなら」





 「嫌ですよ。通行料が無いのならまっすぐに進みなさい。それがきっとあなたの幸せに繋がっていますよ」

 

 「それもマニュアルですか」


 「ええ、勿論ですとも」


 

 

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